Low-Eペアガラス徹底解説:仕組み・性能・選び方と施工のポイント
はじめに
Low-E(低放射)コーティングを施したペアガラス(複層ガラス)は、断熱性能と日射制御の両立を可能にし、住宅・商業建築の省エネ化や居住性向上に大きく寄与します。本コラムでは、物理的な仕組み、種類、性能指標、設計・施工上の注意点、維持管理、コスト対効果までを詳しく解説します。導入検討や設計仕様書作成の参考になるよう、性能値の目安や実務的なポイントも提示します。
Low-Eペアガラスの基本的な仕組み
Low-E(Low Emissivity)とは、赤外線(長波長放射)を反射する薄い金属または金属酸化物のコーティングをガラス表面に施したものです。可視光は透過させつつ、室内から放射される遠赤外線を反射することで熱損失を抑えます。複層ガラス(ペアガラス、通常は二重ガラス)にLow-Eを組み合わせることで、対流・伝導の抑制(空気層+スペーサ)と放射の抑制(Low-E)を同時に実現し、高い断熱性能を発揮します。
Low-Eコーティングの種類
- ハードコート(Pyrolytic, CVD系): ガラス浮上工程の直後に高温でコーティングされるため、表面硬度が高く外気に接する用途でも耐久性があります。外貼りや合わせガラスへの適用が可能ですが、放射率(エミッシビティ)はソフトコートに比べやや高め(=断熱効果がやや劣る)になることがあります。
- ソフトコート(Sputter, MSVD系): 真空中で金属薄膜をスパッタリング等により積層する方法で、非常に低いエミッシビティ(0.01〜0.05程度まで到達可能)を実現します。ただし、薄膜が繊細なため長期耐久性の観点からはガラス間に封入される複層ガラス内での使用が基本です。
複層ガラス内でのコーティング位置(表面番号)とその意味
複層ガラスのガラス面は外側から順に1〜4と分類されます(外側ガラスの外面を1、内面を2、内側ガラスの外面を3、室内側面を4)。Low-Eは一般に表面2または3に配置されます。配置による効果の違いは以下の通りです。
- 表面2(外側ガラスの内面): 日射の入射側での反射効果が強く、夏期の日射制御に有利な場合があります。
- 表面3(内側ガラスの外面): 室内の赤外放射を反射して室内へ戻すため、寒冷地での断熱効果(冷熱損失低減)に優れます。一般住宅向けのLow-E複層ガラスでは表面3配置が多く用いられます。
性能指標と実際の数値目安
Low-E複層ガラスの評価には主に次の指標が使われます。値は製品や構成(ガラス厚、空気層幅、封入ガス、スペーサ材)により変動します。
- 熱貫流率(U値、W/m2K): 数値が小さいほど断熱性が高い。一般的な単板ガラスは約5〜6 W/m2K、空気入りの通常の複層ガラスは約2.8〜3.2 W/m2K、Low-E+空気で1.6〜2.2 W/m2K、Low-E+アルゴンで1.0〜1.6 W/m2K程度が目安です。高性能な組合せ(トリプル、クリプトンなど)ではさらに低くなります。
- 日射取得率(g値、透過する太陽エネルギー割合): 夏の冷房負荷に影響する。低めの値(0.2〜0.4)なら日射制御に有利。製品により0.2〜0.7と幅があるため、地域と用途に応じて選択します。
- 可視光透過率(VTまたはTv): 室内の採光性を示す。一般的なLow-Eは0.4〜0.7の範囲であり、高い断熱性を確保しつつ十分な採光を維持できる製品が多いです。
- エミッシビティ(ε): Low-E膜の放射率。ソフトコートは0.01〜0.05、ハードコートは0.1〜0.2程度が代表値です。低いほうが熱放射を抑え、U値改善に寄与します。
設計・施工での実務的ポイント
Low-E複層ガラスの性能を発揮させるには、ガラス単体の性能だけでなく取り付けや周辺仕様が重要です。
- スペーサ(サッシ枠との熱橋): アルミスペーサは熱伝導が大きく、断熱性を低下させます。熱を伝えにくい「ウォームエッジスペーサ(樹脂系スペーサ)」の採用や、スペーサ幅の最適化が重要です。
- 空気層幅と封入ガス: 空気層幅は一般に6〜16mmが最適範囲で、幅が広いほど伝導・対流が減りますが、幅を広げすぎると放射が支配的になり性能低下する場合があります。アルゴン封入は空気比で熱伝導率が低く、U値改善に有効です。クリプトンはさらに効果的ですがコスト高です。
- シールと耐久性: ソフトコートを用いる場合はコーティング面がガス層内に保護されることが前提です。エッジのシール(エボシーリングや二重シール)は長寿命化に直結するため、信頼性の高い封止方法を選ぶ必要があります。
- サッシとの整合性: ガラス単体の性能をサッシや取り付け方法が殺さないよう、サッシ断熱(複合材・熱ブレーク)、取り付けの気密・断熱処理を行います。
メンテナンスと耐久性
ハードコートは外気に露出しても耐久性が高く清掃も容易ですが、ソフトコートは露出面での傷・腐食に弱いため複層ガラス内での使用が前提です。どちらも表面に付いた汚れを長期間放置すると光学特性に影響を与える場合があるため、定期的な清掃と点検(フレーム廻りのシール亀裂チェック等)が推奨されます。
音響・安全・採光とのバランス
Low-E自体は音響性能に直接大きな影響を与えません。遮音性はガラス厚や異厚ガラス構成、空気層幅、ラミネートの有無で決まります。防犯や飛散防止の目的でラミネートを併用する場合、ラミネート層による可視光や色味の変化を確認してください。
コストと省エネ効果の目安(導入効果)
Low-E複層ガラスは初期費用が通常の複層ガラスより高めですが、暖房・冷房エネルギー削減によるランニングコスト低減で回収可能です。回収期間(ペイバック)は地域の気候、エネルギー単価、窓面積、既存窓の性能などで大きく変わりますが、一般的な住宅での概算は数年〜十数年の範囲です。設計段階では熱負荷計算(窓ごとの熱取得・損失の算定)を行い、窓仕様のライフサイクルコストを比較検討してください。
選定時のチェックリスト(実務向け)
- 気候特性(冷涼地か温暖地か)に応じた表面配置(表面2/3)を選ぶ
- 求めるU値・g値・VTの目標値を明確にする
- 封入ガス(空気/アルゴン/クリプトン)と空気層幅を仕様に明記する
- スペーサ材とサッシの熱橋低減策を組み込む
- 長期耐久(シール材、加硫耐性、ソフトコート保護)を確認する
- 施工上の注意(搬入、保管、取付け時の衝撃回避、清掃方法)を現場に周知する
導入事例・応用
Low-E複層ガラスは、住宅の外皮(窓)だけでなく、商業施設のファサード、オフィスの冷暖房負荷削減、保育施設や病院など採光と熱環境の両立が重要な建物にも多く採用されています。既存建物の改修では、複層ガラスへの取り替えや二重窓(リトロフィット)によるLow-E導入が現実的な手法です。
まとめ
Low-Eペアガラスは、可視光を確保しつつ熱放射を抑えることで、建物の快適性と省エネ性を高める有効な技術です。製品選定ではコーティングの種類、配置、空気層・ガス・スペーサ・サッシとの組合せを設計段階で最適化することが重要です。長期的な性能維持のためには、信頼性の高い封止、適切な施工、点検・清掃が不可欠です。具体的なスペック比較や熱負荷試算は、NFRCやメーカーの性能表、熱解析ソフト等を用いて数値検討を行ってください。
参考文献
- U.S. Department of Energy - Windows, Doors, and Skylights
- Efficient Windows Collaborative(Low-Eや窓性能に関する技術情報)
- NFRC(National Fenestration Rating Council)(窓性能評価制度)
- Wikipedia - Low-emissivity coating(概説)
- Pilkington(板ガラスメーカー 製品情報)
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