ニトリルゴム(NBR)徹底解説:建築・土木での特性・選び方・施工管理
はじめに
ニトリルゴム(NBR: Nitrile Butadiene Rubber)は、油や溶剤に対する優れた耐性を持つ合成ゴムで、建築・土木分野におけるシール材、ホース、ガスケット、ダイアフラムなど油・燃料・油圧系統が関わる箇所で広く使われています。本コラムでは、化学的特徴や物性、製造・加工方法、建築・土木での代表的な用途、選定ポイント、施工・維持管理、代替材料との比較、環境・安全面まで詳しく解説します。
ニトリルゴムとは:化学的特徴とバリエーション
ニトリルゴムはアクリロニトリル(ACN)とブタジエンの共重合体です。ACN含有率(モル比や質量比)は一般に約15〜50%程度まで調整でき、ACN含有量が高いほど油・燃料・溶剤に対する耐性が向上しますが、低温での柔軟性(低温特性)は悪化します。
- NBR(標準ニトリル):一般的な耐油性を持つ。
- 高ACN NBR:より高い油・溶剤耐性を実現するが低温特性は低下。
- 水素化ニトリルゴム(HNBR):NBRを部分的に水素化することで二重結合を減らし、耐熱性・耐オゾン性・耐老化性を向上させたもの。高温や加速劣化環境で優れる。
- カルボキシレートNBR(XNBR):カルボキシル基を持たせることで、耐摩耗性や機械的物性を改善したタイプ。
主要な物理・機械的特性
ニトリルゴムの代表的な特性は以下のとおりです。数値はゴム組成、配合(フィラー、可塑剤、架橋方式)によって大きく変わりますが、一般的な指標として参考になります。
- 耐油性:炭化水素系燃料や潤滑油に対する優れた耐性が最大の特徴。自動車用燃料系や油圧機器での使用に適合。
- 温度範囲:一般的なNBRは常用温度範囲がおおむね-30℃〜+100℃程度。低温特性強化型で-40℃程度まで、HNBRでは+150℃前後までの高温耐性が期待できる。
- 機械的性質:引張強度や伸びは配合次第。実務上は硬さ(Shore A)・圧縮永久歪(compression set)・摩耗性が重要。
- 耐候性・耐オゾン性:未改質のNBRはオゾンや紫外線、長期の屋外曝露に弱い。HNBRや保護被覆、添加剤で改善可能。
- ガスバリア性:ヘリウムなどの小分子ガスに対する透過性は比較的高いが、用途により評価が必要。
製造と加工(現場で関係するポイント)
ニトリルゴムは乳化(エマルジョン)重合や溶液重合で合成され、原ゴム(ポリマー)が得られます。実際の成形品は以下の工程で作られます。
- 混練(カレンダー、開断練り):カーボンブラック等のフィラー、軟化剤、加硫剤を添加して所望の物性に調整。
- 成形:圧縮成形、射出成形、押出しなど。ホースやチューブは押出しが一般的。
- 加硫(架橋):硫黄加硫や過酸化物加硫による架橋。加硫方式で耐熱性や耐油性、圧縮永久歪などの特性が変わる。過酸化物加硫は高温特性や燃料耐性で優位な場合がある。
- 表面処理・仕上げ:必要に応じて接着処理、コーティング、成形後の後処理を実施。
建築・土木における主な用途と事例
ニトリルゴムは耐油性が求められる箇所、油圧・燃料系統、可動継手などで採用されます。代表的な用途は以下の通りです。
- 油圧シール・Oリング:油圧シリンダー、ポンプ、バルブなどのシール部材。
- ホース・チューブ:油圧ホースや燃料ホース、潤滑油配管。
- ガスケット・パッキン:機器接続部や点検フランジのシール。
- 振動吸収材・マウント:油やグリースが存在する車両・重機装備の振動絶縁部材。
- ダイアフラム・バルブシート:化学薬品を扱う場面や燃料系統の弁部材。
- 配管周りの防振・防油アクセサリ:グロメット、ブッシュなど。
選定ポイント(建築・土木での実務向けアドバイス)
材料を選ぶ際は、想定される環境と要求仕様に沿って以下を確認してください。
- 接触する液体・気体の種類:燃料、潤滑油、溶剤、アルカリ・酸など。ニトリルは炭化水素系に強いが、酸や強溶剤には弱い場合あり。実際の液体での膨潤試験(ASTM D471等)結果を参照すること。
- 使用温度:常用温度が-30〜+100℃の範囲なら一般NBRで可能。高温や高耐久が必要ならHNBR等を検討。
- 耐候性・屋外性:屋外での長期露出・紫外線・オゾンが懸念される場合はNBR単体は不利。被覆や別素材(EPDM等)を検討。
- 機械的要求:圧縮永久歪、引張強度、摩耗などの性能値を明確にし、材料データシートと照らし合わせる。
- 加工性・接合性:成形法や接着の必要性、金属との接合方法を確認。
- 安全・規格適合:耐火性、食品衛生規格(必要な場合)、建築材料の認証要件など。
施工・保守・点検の実務ポイント
適切な施工と定期点検で、寿命を延ばし事故や漏洩を防げます。
- 保管:直射日光、高温、オゾン発生源(モーター等)を避け、乾燥した暗所で保管する。過度な可塑剤の移行を防ぐため、長期保管は注意。
- 取り扱い:鋭利な端部やフランジでのキンクや切断を避ける。組付け時は潤滑剤の種類に注意(シリコーン系は一部合成ゴムと相性が悪い場合がある)。
- 点検項目:ひび割れ、硬化、軟化、膨潤、油漏れ跡、接合部の緩みなどを定期的にチェック。圧縮永久歪や寸法変化も評価対象。
- 交換基準:目視での割れ・亀裂や機能不全(シール性喪失、著しい膨潤)があれば交換。厳密な交換周期は環境に依存するため、現場実績と試験データで設定する。
限界と代替素材
NBRは万能ではありません。オゾン・紫外線耐性に乏しく、強酸・強アルカリや特定の有機溶媒に弱い場合があります。代替素材の特徴は以下の通りです。
- EPDM:耐候性・耐オゾン性・耐熱水蒸気性に優れるが、油・燃料には弱い。屋外シールや防水用途で有利。
- FKM(フッ素ゴム):耐熱性・耐化学薬品性・耐油性が高いが高価。高要求環境で使用。
- シリコーンゴム:低温フレキシビリティや高温範囲に優れるが、機械的強度や油耐性は劣る。
- HNBR:NBRの弱点である耐老化性・高温耐性を改善した素材。油圧機器や高温環境での選択肢。
環境・安全・廃棄について
ニトリルゴム自体は比較的安定な材料ですが、製造・加工工程ではVOCや加硫剤等の化学薬品が関与します。廃棄は地域の産業廃棄物規則に従い、焼却処理やリサイクル(グラニュレーションしてゴム充填材などへ)を行うことが一般的です。廃材の焼却では適切な排ガス処理が必要です。
実務的まとめ(チェックリスト)
現場でニトリルゴム製品を採用する際の実務チェックリスト:
- 想定される接触媒体の化学特性を確認し、NBRの耐性データ(膨潤率、強度低下)を照合する。
- 使用温度レンジを確定し、必要ならHNBR等の高温グレードを検討する。
- 屋外露出がある場合は耐候性対策(被覆、材料替え)を検討する。
- 加硫方式や配合(フィラー、可塑剤)が特性に与える影響を理解し、メーカーのデータシートと相談する。
- 保管・施工・点検ルールを文書化し、交換基準を明確にする。
まとめ
ニトリルゴムは耐油性に優れ、建築・土木分野における油圧機器、燃料系統、シール材などで重要な役割を果たします。しかし耐候性や特定化学薬品に対する弱点もあり、用途や環境に応じた材料選定と適切な施工・維持管理が不可欠です。必要に応じてHNBRやFKM、EPDMなどの代替材料を検討し、実使用条件での試験を重ねることを推奨します。
参考文献
- ニトリルゴム - Wikipedia(日本語)
- ゼオン株式会社:ニトリルゴム(NBR)の特長(製品技術情報)
- Matmatch: Nitrile Rubber (NBR) — Material Properties and Information
- ASTM D471 - Standard Test Method for Rubber Property—Effect of Liquids
- DuPont: NBR and HNBR technical information
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