垂木（たるき）完全ガイド：種類・設計・施工と維持管理のポイント

2025年12月25日 最終更新日時 : 2025年12月25日 エバープレイ編集部

垂木とは何か — 基本定義と歴史的背景

垂木（たるき）は屋根構造における主要な部材の一つで、屋根荷重を受けて軸組（母屋・桁・棟木など）へ伝達する斜めの板状部材を指します。伝統的な和風建築では軒先から棟に向かって架け渡される木材として古くから用いられ、現代の木造住宅でも在来工法や軸組工法、2×4工法などで不可欠な要素です。垂木は屋根面を形成する下地兼構造部材として、屋根材、防水層、野地板を支持する役割を担います。

垂木の役割と構造的機能

  • 荷重受けと伝達：垂木は自重、屋根材、積雪、風圧などの垂直・鉛直荷重を受け、軸組や母屋に伝える。
  • 下地の支持：野地板・合板・屋根断熱材などを支持し、屋根面の面剛性を確保する。
  • アーキテクチャ：軒の出、勾配、外観ラインに直接影響を与えるため意匠性にも関与する。
  • 通気・断熱にも関係：垂木の配置や通気胴縁の有無が屋根換気や断熱層の施工方法に影響する。

垂木の種類（材料別・形状別）

垂木は材料や形状、製作方法で分類できます。

  • 木製垂木（在来木造）
    • 丸太・角材：伝統構法での切組みや軒桁への掛け方に用いられる。
    • 製材（桧、杉、松など）：一般的な軸組住宅で多用。強度、曲げ性能、耐久性は材種と等級に依存する。
    • 集成材垂木：乾燥・接着された集成材は寸法安定性と強度が高く、長スパンや狭い断面での使用に有利。
  • 構造用合板・構造用LVLの垂木（部材の代替的使用）
  • 鋼製垂木（メタルラフター）
    • 一般に工場生産の鋼製ラフターは断面が薄く軽量で、大スパンや火耐性の要求がある建築に採用される。
  • プレハブ・工場製垂木（トラスやプレカット部材）
    • プレカット材は接合精度が高く、現場工期短縮に効果的。

寸法と間隔（ピッチ） — 設計の基本指針

垂木の断面寸法と間隔は屋根勾配、支持スパン、屋根材の種類、積雪・風圧条件によって決まります。日本では木造住宅のルールや参考値が示されていますが、正確な設計は許容応力度計算または構造計算に基づくべきです。

  • 一般的な住宅の例（参考値）
    • 垂木ピッチ：455mm（455は合板寸法に合わせた値）や303mmが多用される。屋根材や断熱・下地材の規格に合わせる。
    • 断面寸法：45×105、36×90、45×120など。長スパンや高荷重（積雪地）では幅や厚みを増す。
  • 積雪地域では積雪荷重を考慮して垂木の断面を増し、ピッチを詰める／母屋や梁の対応を強化する。

参考：正確な許容応力度や断面算定は「建築基準法」や日本建築学会の基準、住宅性能表示等の資料を参照ください。

荷重計算のポイント（概略）

垂木は基本的に単純支持梁として扱えることが多いです。計算では以下を確認します：

  • 作用荷重：屋根材＋防水層＋野地板の自重、積雪荷重（地域別）、風圧力、活荷重（点検など）。
  • 支持条件：垂木の両端支持の有無、軸方向の拘束（棟木や垂木受けでの側方拘束）。
  • 曲げ強度とたわみ：許容曲げ応力度、許容たわみ（スパン/250などが目安だが、屋根用途ではより厳格な場合あり）。

実務では構造用計算書や、木材の強度表（JAS等）が参照されます。地域別の積雪値は気象庁や国土交通省の資料で確認してください。

接合と施工ディテール

垂木の接合は屋根の耐久性・耐荷性に直結します。代表的な接合方法：

  • 掛け垂木：隅部や小屋裏での伝統的な掛け方。掛け金物や仕口で補強する。
  • 切り欠き（座掘り、birdsmouth）：桁や母屋に安定して乗せるための加工。深く削りすぎると断面欠損で強度低下するので注意。
  • 留め釘・金物：垂木と桁、垂木と野地板の固定には専用の釘・ビスや金物（ラフタープレート、金折、羽子板ボルト等）を用いる。金物は引抜耐力・滑り耐力の確認が必要。
  • 垂木間に設ける垂木受け・胴縁：軒の出、通気層、野地板の補強に使う。
  • 棟部・軒先の収まり：棟木との接合部は棟換気や防水処理を考慮して納める。

屋根材との関係と施工上の注意

屋根材により垂木の扱いが変わります。瓦葺き、金属屋根、スレート、アスファルトシングルなどで下地の要求が異なります。

  • 瓦屋根：重いので垂木や母屋の断面を大きく、ピッチも詰める必要がある。瓦桟（瓦留め）を取付けるための下地構成を確認。
  • 金属屋根：薄く軽量なため垂木ピッチは大きく取れるが、熱伸縮や防音、断熱、結露対策が重要。
  • 合板下地：構面耐力と一体で屋根の剛性を確保。垂木ピッチは合板板幅に合わせる（455mm等）。

断熱・換気・気密と垂木の関係

屋根断熱を考えると、垂木は断熱材の充填位置や通気層の確保、気密層の取り方に影響します。

  • 充填断熱（垂木間充填）：垂木の深さが断熱厚さを規定する。断熱欠損を防ぐため施工精度が重要。
  • 外張り断熱＋通気胴縁：垂木の上に外張り断熱材を載せる場合、通気層を確保するための胴縁を垂木に取付ける設計が有効。
  • 気密施工：気密層は垂木貫通部での処理（気密テープ・シーリング）が不可欠。気密欠損は湿気・結露リスクを高める。

耐久性・防腐防蟻・防火対策

垂木は屋根の侵入要因（雨漏り・結露）や地面から離れていることから比較的長寿だが、施工不良や通気不良で劣化が進みます。

  • 防腐・防蟻処理：土台ほどではないが、屋根改修時の露出部や外壁接続部は適切な処理が望ましい。処理はJIS/JASの規格に従う。
  • 塗装・防水：野地板・ルーフィング・屋根材の防水性能が維持されないと垂木まで水が到達する。屋根の定期点検が重要。
  • 耐火性：木部は不可燃材より弱い。必要に応じて耐火被覆や耐火構造の採用（建築基準法に基づく）を検討。

よくある施工不良と劣化事例

  • 切り欠きのやりすぎによる断面欠損での折損
  • 換気不足による小屋裏の結露と木材腐朽
  • 金物の不適切な選定・配置で引抜きや滑りが発生
  • 屋根改修時に新旧垂木の取り合いがうまく納まらず、局所的に荷重が集中

設計上・施工上のチェックリスト（実務向け）

  • 設計段階で積雪・風圧の地域値を確認して垂木断面・ピッチを決める。
  • 屋根材に合わせた下地（合板厚、垂木ピッチ）を仕様書に明記する。
  • 切り欠き深さや接合金物の性能を施工図で明確にし、現場で確認する。
  • 通気経路、気密層、防水層の取り合いを詳細に検討する（特に軒先・棟部）。
  • 定期点検計画（ルーフィングの劣化、釘の浮き、雨染み）を運用する。

まとめ

垂木は一見単純な部材に見えますが、材料、断面、接合、屋根仕上げ、断熱・換気の取り合いといった多くの要素が絡み合う重要な構造要素です。設計者、施工者は地域条件（積雪・風圧）や屋根材の特性に応じた寸法・ピッチの設計、適切な接合金物の選定、そして通気・防水・気密の整合を図ることで長期的に安定した屋根構造を実現できます。疑問がある場合は構造設計者や専門技術者に相談し、現場での検査・記録を徹底してください。

参考文献

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建築・土木
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