ノルウェーの作曲家:民族性と近代性が交差する音楽史と主要作曲家ガイド
はじめに — ノルウェー音楽の特徴
ノルウェーの作曲家は、豊かな自然や民俗伝承、そしてヨーロッパ大陸の音楽潮流を背景に、独自の音楽語法を育んできました。19世紀の国民楽派的な流れから、20世紀の前衛・電子音楽、さらに現代の合唱・室内楽シーンまで、多様な表現が展開されています。本コラムでは歴史的背景を概観し、主要な作曲家を紹介しながら、聴きどころとその今日的意義を深掘りします。
歴史的背景:国民楽派から近代への移行
ノルウェーのクラシック音楽の成立には、19世紀の民族復興運動(ナショナリズム)が深く関わっています。民謡やハーディングフェル(ハルダンゲル)民謡の旋律やリズム、独特のモード(教会旋法に近い音階)などが作曲家たちの素材として採り入れられ、やがてヨーロッパのロマン派様式と融合しました。20世紀に入ると、調性の枠組みを超える実験、民族素材の再解釈、電子音響や現代音楽の導入など多岐にわたる展開が見られます。
代表的な作曲家とその特色
エドヴァルド・グリーグ(Edvard Grieg, 1843–1907)
グリーグはノルウェー音楽を国際的に知らしめた最も有名な作曲家です。代表作にはピアノ協奏曲イ短調、劇音楽『ペール・ギュント』の組曲(『モルゲンシュテルン(朝)』『アニトラの踊り』など)、ピアノ小品集『抒情小曲集(Lyric Pieces)』があります。民謡的要素を室内楽的な繊細さで表現した彼の楽想は、ノルウェーのイメージ形成に決定的な影響を与えました。また、ベルゲンのトロルドハウゲン(Troldhaugen)にある彼の家は現在博物館として公開されています。
- 主な作品:ピアノ協奏曲 イ短調、ペール・ギュント組曲、抒情小曲集
- 特徴:民謡的旋律、温かい和声感、ピアニズム
ヨハン・スヴェンセン(Johan Svendsen, 1840–1911)
スヴェンセンは作曲家であると同時に優れた指揮者・ヴァイオリニストでもあり、19世紀後半のスカンジナヴィア管弦楽音楽を代表する人物の一人です。管弦楽曲における巧みなオーケストレーションとロマン派的な表現が特徴で、交響曲や序曲、管弦楽作品がよく演奏されます。
- 主な作品:交響曲、序曲、管弦楽曲(ロマン派的豪放さと旋律性)
クリスティアン・シンディング(Christian Sinding, 1856–1941)
シンディングはピアノ音楽と歌曲で人気を得た作曲家で、特に『春のそよぎ(Frühlingsrauschen)』はピアノレパートリーの定番曲として世界的に知られています。ロマン派の語法を継承しつつ、豊かな和声と歌うような旋律が魅力です。
- 主な作品:ピアノ曲、歌曲。『春のそよぎ(Rustle of Spring)』が特に有名。
オーレ・ブル(Ole Bull, 1810–1880)
オーレ・ブルはヴァイオリニストとして国際的に活躍した名手で、民謡の旋律を取り入れた独自の演奏スタイルと作曲活動で知られます。ノルウェーの民族音楽を舞台芸術やヴァイオリン音楽に結びつける先駆者でした。
- 主な貢献:ヴァイオリン演奏による民謡紹介、国民文化への関与
ファルテイン・ヴァーレン(Fartein Valen, 1887–1952)
ヴァーレンはノルウェーにおける前衛的作曲家の旗手です。彼は十二音技法や無調的な手法に早くから関心を示し、厳密な対位法と独自の響きを追求しました。その音楽はしばしば難解と評されますが、20世紀前半の北欧音楽に新しい視座をもたらしました。
- 主な貢献:無調・十二音に基づく作曲、弦楽四重奏や管弦楽作品
ガイール・トヴェイト(Geirr Tveitt, 1908–1981)
トヴェイトはノルウェー南西部のハーディング地方の民謡を精力的に収集・編曲し、民族素材を大胆に作曲に取り入れた点で重要です。代表的な仕事としてハーディングの旋律集の編纂があり、民族的色彩に満ちたピアノ曲や管弦楽曲を残しました。
- 主な貢献:民俗収集と変容、ハーディング旋律を用いた作品群
ハラルド・ソーヴェルー(Harald Sæverud, 1897–1992)
ソーヴェルーは個性的なリズム感とユーモア、自然観を反映した作品群で知られる作曲家です。シンフォニックな視野で民俗素材や北欧的な色彩を独自に処理し、ノルウェーの20世紀音楽における重要人物となりました。
- 主な貢献:交響曲や室内楽、ピアノ作品を通じた個性的表現
アルネ・ノールハイム(Arne Nordheim, 1931–2010)
ノールハイムはノルウェー現代音楽を代表する作曲家で、電子音響やテクスチャー志向の管弦楽作品で国際的評価を得ました。テープ音楽やエレクトロアコースティック技法を取り入れつつ、深い音響的探究を行った点が特徴です。
- 主な貢献:電子音楽とオーケストラ音響の融合、国際的な現代音楽シーンへの寄与
現代の潮流:合唱・室内楽・新しいメディア
21世紀のノルウェーは合唱音楽と室内楽、映画音楽やメディア音楽で国際的な活躍を見せています。Kim André ArnesenやOla Gjeiloといった作曲家は、現代合唱音楽を通じて世界的に人気を博しています。さらに若い作曲家の中には電子音響、プログラミング、即興を組合せる者も多く、伝統と技術の融合が進んでいます。
聴きどころと入門ガイド
- 入門はグリーグの「ピアノ協奏曲」「ペール・ギュント」から。ノルウェー的叙情と自然描写がわかりやすく表れている。
- 民族色やダイナミズムを求めるならトヴェイトやスヴェンセンの管弦楽曲を。民謡的旋律の扱いを比較してみると面白い。
- 20世紀以降の実験性に興味があれば、ヴァーレンやノールハイムの作品を。無調・電子音響といった手法の違いに着目すると、ノルウェー音楽の幅広さが実感できる。
- 合唱・室内楽の最新事情はKim André ArnesenやOla Gjeiloなどの作品で。映画やメディア音楽とクロスオーバーする作品も多い。
制度と場:演奏と普及の基盤
ノルウェーにはいくつかの重要な音楽機関があり、作曲家の育成・発表を支えています。ベルゲン国際芸術祭(Festspillene i Bergen)やオスロのコンサート活動、作曲家支援機関などが、新作の初演と国際的発信に寄与しています。グリーグ博物館(Troldhaugen)や各地の音楽祭は伝統的レパートリーの保存と普及にも重要です。
結論 — ノルウェー作曲家を聴く意味
ノルウェーの作曲家を聴くことは、自然や民俗、近代的実験がどのように音楽の語法となって現れるかを見ることです。グリーグに始まるナショナルロマン派的な伝統は、その後の前衛や現代音楽とつながり、多様な表現へと拡張しました。各作曲家の作品を比較し、民俗素材の扱い、和声と構造の変化、電子音響の導入といった観点から聴き分けることで、ノルウェー音楽の持つ豊かさと独自性がより深く理解できます。
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参考文献
- Edvard Grieg — Britannica
- Edvard Grieg — Store norske leksikon
- Johan Svendsen — Britannica
- Christian Sinding — Britannica
- Geirr Tveitt — Store norske leksikon
- Fartein Valen — Britannica
- Arne Nordheim — Britannica
- Grieg Museum Troldhaugen
- Festspillene i Bergen(Bergen International Festival)
- Music Norway(ノルウェーの音楽情報)


