Deus Ex: Mankind Divided 徹底考察 — 開発背景、テーマ、ゲームデザイン、評価と論争を読み解く
イントロダクション:続編としての立ち位置
『Deus Ex: Mankind Divided』(以下MD)は、Eidos‑Montréal が開発し Square Enix が2016年に発売したアクションRPG/ステルスゲームで、前作『Deus Ex: Human Revolution』(2011年)の直接的な続編にあたる作品です。主人公アダム・ジェンセン(Adam Jensen)を再び操作し、前作のクライマックス後に世界がどのように変化したかを描く本作は、「拡張(Augmentation)」を巡る倫理的・社会的対立を前面に押し出した物語と、多様なプレイスタイルを許容するレベル設計で高い注目を集めました。本稿では開発背景、世界観とテーマ、ゲームプレイの設計、物語とキャラクター、評価・商業面、そして論争点までを整理し、MDがシリーズにもたらした意味を深掘りします。
開発とリリースの経緯
MD は Eidos‑Montréal によって制作され、同スタジオの新エンジン「Dawn Engine」を用いて開発されました(Dawn EngineはIO InteractiveのGlacier技術をベースに改良されたものです)。対応機種はPC、PlayStation 4、Xbox Oneで、2016年8月に世界同時期に発売されました。開発陣は前作からのスタッフを多く引き継ぎ、シリーズ特有の“選択と結果”“多様な攻略ルート”という設計哲学を踏襲しつつ、ビジュアル表現や近未来社会の描写をより細密にした点が特徴です。
世界観と主要テーマ:分断された社会
MD の舞台は前作の「オーグ事件(Aug Incident)」から2年後の世界で、強化された身体(オーグメンテーション)を持つ人々に対する差別と隔離が社会問題として顕在化しています。タイトルにある「Mankind Divided(分断された人類)」はこの社会的分断を指し、人種や国境ではなく「拡張の有無」による新たな階級や偏見が物語の中心テーマです。
このテーマは単なるSF的設定に留まらず、監視社会、国家と多国籍企業の関係、不寛容と恐怖に基づく政治操作といった現代的な問題と重ね合わせて表現されています。プレイヤーはジェンセンの視点で、オーグに関する倫理、個人の自由、国家の安全といった議論に直面します。
ゲームプレイの核心:自由度と選択肢
MD はステルス、潜入、ハック、正面からの銃撃戦など多彩なアプローチを許す設計を採っています。主要なゲームシステムは以下の通りです。
- オーグメンテーション:ゲーム内で習得・強化する能力(敵検知、強化攻撃、ハッキング補助など)をプレイヤーの好みに合わせて組み合わせることができます。能力強化には「プラクシスキット( Praxis Kits )」を用います。
- マルチパスレベルデザイン:ステージは複数のルートや隠し通路を備え、環境を利用した迂回や非殺傷のクリアが可能です。垂直方向や配管、通気口といった要素も攻略に深みを与えます。
- 社会的選択と会話:主要なミッションやサブクエストでは会話選択や行動によって即時的・長期的な反応が発生します。ただしメインストーリーの最終的な展開に関してはプレイヤーの選択で大きく変わらないとの評価もあります。
- ハッキングとインターフェース:ターミナルや監視カメラ、セキュリティシステムを操作するハック要素があり、戦闘以外の解決法を提供します。
系列的に見れば、MD はプレイヤーの裁量を尊重し、非殺傷での解決やテクニカルな潜入を高く評価する設計になっています。そのため、RPG的な成長要素とステルス/潜入アクションの融合を好むプレイヤーに強く訴求しました。
物語の構造と主な登場人物(ネタバレを避けつつ)
MD は国際的なテロ対策組織や秘密結社、企業の思惑が絡み合う陰謀劇の様相を呈します。主人公ジェンセンはかつての雇い主や友人たちとの関係、そして自らの身体性をめぐる葛藤に直面します。物語は一貫して「誰が正義か」「情報は誰のものか」という問いを投げかけ、陰謀の深さと登場人物の道義的曖昧さを描きます。
ただし本作はメインストーリーの終盤がいわば“続編への布石”として終わる構成であり、そのためプレイヤーの間では「物語が中途半端に終わる」「続編を前提とした結末になっている」との指摘が散見されました。これは物語的満足度に関する批評の一因となっています。
ビジュアル、音響、芸術演出
Dawn Engine によるグラフィック表現は高評価を受け、ディテールの細かい近未来都市の描写や、ネオンと古典的建築が混在する美術設計が強い印象を残します。サウンドデザインも臨場感を高め、環境音やBGMが潜入や緊張感を演出します。総じて、世界観の「陰鬱さ」「管理社会と裏社会の混在」といったテーマ性がグラフィックと音響で効果的に補強されています。
評価と市場での反応
批評面では、MD はストーリーテリング、テーマ性、自由度の高いゲームプレイ、雰囲気作りなどに対して概ね高い評価を受けました。一方でバグや最適化の問題、一部のミッション設計、そして物語の結末に対する不満も指摘されています(総合的には「概ね好意的なレビュー群」)。メタクリティックなどのレビュー集計サイトではプラットフォームによって差はありますがおおむね高評価帯に入っています。
商業的には、発売当初の期待値と比べると売上面で苦戦したと言われており、シリーズ継続に向けたスタジオ並びにパブリッシャーの判断に影響を与えました。結果としてMDの物語的な“続き”が直ちに制作されることはなく、フランチャイズの将来は不透明な状況が続いています。
DLC・シーズンパスと論争点
MD 発売後、シーズンパスや有料DLCに関する扱いを巡ってユーザーからの反発がありました。特に「Missing Link」を含む追加コンテンツの配信形態や、メインストーリーとDLCの関係性に対する批判があり、「本編に入れるべき情報や体験が分割されているのでは」という意見が出ました。こうした批判は、ゲーム業界全体でのDLCやシーズンパスの在り方に対する議論と軌を一にします。
また、発売当初のバグや最適化問題、さらに一部の追加要素にマイクロトランザクション的な懸念を抱く声もあり、これらが作品の評価や購買意欲に影響した面は否めません。
シリーズへの影響と今後の展望
MD はシリーズにおけるテーマ表現やプレイ幅の面で評価されつつも、商業面や配信モデルを巡る問題がフランチャイズの進行に影を落としました。Eidos‑Montréalはその後別の大型プロジェクトにも着手しており(本稿執筆時点での情報)、MD の直接的な続編は製作されていません。ただし、MD が示した「社会問題をSFに翻案する手法」「プレイヤーの倫理的選択を問い続ける設計」は、今後の作品や他社の作品にも影響を与え続けるでしょう。
総括:MD が現代ゲームにもたらしたもの
『Deus Ex: Mankind Divided』は、伝統的なステルスRPGの良さを受け継ぎつつ、現代的な監視社会や差別問題といったテーマをゲームプレイと密接に結びつけた野心作です。プレイヤーに多様な攻略法を与え、選択の倫理を問う設計はシリーズのアイデンティティを保ちながら深化させました。一方で物語の分割、DLC運用、商業的期待との齟齬といった問題も露呈し、ゲーム産業における制作・販売モデルの課題を示す事例ともなりました。
MD を遊ぶことは、単なる娯楽体験を超えて「テクノロジーがもたらす社会変容」をインタラクティブに考える契機を提供してくれます。シリーズファンも、これからDeus Exに触れるプレイヤーも、本作が投げかける問いを体験の中心に据えることでより深い理解を得られるでしょう。
参考文献
- Deus Ex: Mankind Divided — Wikipedia (英語)
- Eidos‑Montréal 公式サイト
- Deus Ex: Mankind Divided — Metacritic (PC)
- IGN: Deus Ex: Mankind Divided Review
- Eurogamer: Deus Ex: Mankind Divided Review
- PC Gamer: Deus Ex: Mankind Divided Review
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