Yamaha DX7II-D 深堀コラム — DXの進化と現代への響き

はじめに — DX7II-Dとは何か

Yamaha DX7II-D(以下、DX7II-D)は、1980年代後半に登場したYamahaのFM音源キーボード、DX7シリーズの改良モデル群(DX7 IIシリーズ)を指す呼称の一つです。正確にはDX7 IIファミリーには複数のバリエーションが存在し、代表的なものにメモリや外部記憶装置を強化した「DX7 II FD(フロッピードライブ搭載)」と、FDを持たないモデルがあり、後者をDX7II-DやDX7 IIDと表記することがあります。本稿では、DX7の歴史的背景からDX7 IIシリーズの特徴、音色設計の要点、実機ならではの扱い方、そして現代の音楽制作における活用法までを詳しく掘り下げます。

歴史的背景と位置づけ

1983年に登場した初代DX7は、デジタルFM(周波数変調)音源をハードウェア鍵盤として広く普及させ、80年代のポップス/AOR/映画音楽など多くのサウンドを形作りました。DX7の独特なエレピ系の音や、鮮烈な金属的パーカッション音は「DXサウンド」と呼ばれ、その後の音楽制作に大きな影響を与えます。

その後、YamahaはDX7の後継として操作性や記憶容量、MIDIや外部記録機能の強化を図ったDX7 IIシリーズを発表しました。DX7IIは基本的なシンセシス・エンジン(6オペレーターFM、アルゴリズム構造など)を継承しつつ、実用性を高めたモデルです。DX7II-Dはその派生形で、FDモデル(フロッピー搭載)との違いは主に記録媒体と付加機能にあります。

技術的概観:DX7の核とDX7 IIでの改良点

まずDX7シリーズのコアとなる技術要素を整理します。

  • 6オペレーターFM合成:複雑な倍音変化を生むための6つの演算器(オペレーター)と複数のアルゴリズム(接続パターン)を持つ。
  • アルゴリズム:オペレーターの配置(キャリア/モジュレーターの関係)を選択することで音色設計の基礎が決まる。
  • エンベロープ(EG):各オペレーターにアタックやディケイ、サステイン、リリースの設定があり、音の立ち上がりや減衰を形づくる。

DX7 IIでは、これらコア機能はそのまま維持されつつ、ユーザーインターフェースや記憶容量、外部同期機能など実用面での強化が図られました。代表的な改良点は次の通りです。

  • メモリ拡張とパッチ管理:ユーザー・パッチの収容数拡大や外部ストレージ(IIFDは3.5インチフロッピーディスク)による保存・ロードの容易化。
  • MIDI実装の強化:当時のMIDI規格との親和性が向上し、複数機器との連携やより精密なコントロールが可能に。
  • 操作性の改善:液晶表示やパラメータ操作のインターフェースが改良され、初代DX7に比べて音作りのスピードが向上。
  • 互換性:既存のDX7用パッチとの互換性を考慮して設計され、DX7時代の膨大なライブラリ資産が活用可能。

DX7系サウンドの特徴とプログラミングの要点

DX7系の音色は「倍音のコントラスト」と「アタックの鋭さ」、そして「デジタルならではのクリアさ」が特徴です。プログラミングにおける主要なポイントは以下の通りです。

  • オペレーターの役割分担:純粋なキャリア(音量を出す)とモジュレーター(変調をかけ倍音を作る)を意識して設定することが基本。
  • アルゴリズム選択:同じオペレーター構成でもアルゴリズムを変えるだけで音色の方向性が大きく変わる。初期はアルゴリズム選びが重要。
  • EGの微調整:木質系やパッド、ベルのような音色はEG設定で質感が左右される。特に短いアタックと鋭いディケイの組み合わせはDXらしい鍵盤音を生む。
  • LFOとモジュレーション:ビブラートやテンポ同期のモジュレーションで音に生命感を与える。DX7 IIはLFOやモジュレーションの設定が扱いやすくなっている点が利点。

代表的な音色と楽曲での使われ方

DX7シリーズはエレクトリック・ピアノ(EP)系、ベル系のアルペジオ、金属性のパーカッションなどで頻繁に使われます。例えば80年代の名曲やヒット曲で聞かれる煌びやかなエレピ風のサウンドや、映画・テレビのシンセサウンドはDXの影響が色濃いです。DX7 IIはこれら代表的な音色をより扱いやすく保存・呼び出しできる点で、ツアーやスタジオでの実用性を高めました。

実践的な活用法:レコーディングとライブでの注意点

DX7II-Dをスタジオやライブで使う際の実践的なポイントを挙げます。

  • パッチ管理:貴重なメモリは曲ごとに整頓しておく。FDモデルがある場合はバックアップを必ず作成する。
  • チューニングとスケール:FM音源は微妙な周波数関係で倍音が決まるため、チューニングを安定させることが重要。特に複数台で使用する場合はA=440Hzなど基準を揃える。
  • 出力とDI処理:クリアだが高域が立ちやすいので、EQで不要な帯域を整えるとミックスしやすくなる。
  • メンテナンス:年式が古い実機では内部バッテリーやスライダ、接続端子の酸化などが発生しやすい。定期的な点検が肝要。

コレクション価値と市場動向

DX7はヴィンテージ・シンセとして高い注目を集めています。DX7IIは初代ほど“神格化”されてはいないものの、実用性の高さやDX互換の利点から中古市場での需要は安定しています。FD搭載モデルは保存メディアの利便性から高めの評価を受けることが多い一方、FDユニットの故障率やディスクの劣化にも留意が必要です。

DX7II-Dと現代の制作環境

今日ではソフトウェアプラグインやサンプル音源でDXサウンドを再現する手段が増えています。しかし実機ならではの微細なアナログ的揺らぎや操作感、そしてFM音色を直接触って作るプロセスは、未だに多くのクリエイターに支持されています。DX7II-DはMIDI経由でDAWと連携でき、ハードとソフトを組み合わせたハイブリッドな制作に適しています。

プログラマー向けのアドバイス:音作りのステップ

実際にDX7系で新しいパッチを作る際のステップを簡潔に示します。

  • 目標音色の設定:参考となるサウンド(鍵盤楽器、ベル、パッドなど)を決める。
  • アルゴリズムを選ぶ:音の方向性を決める最初の作業。モジュレーター主体かキャリア主体かを考える。
  • オペレーターの周波数比と波形:倍音構成はここで決まる。比率の整数比は倍音的に安定した音を生む。
  • EGで輪郭を作る:アタックとリリースの設定で音の体格を決める。
  • 微調整とエフェクト:LFOやエンベロープ量、リバーブやEQで最終的に空間感や輪郭を整える。

よくある誤解と注意点

DX7系に関する一般的な誤解として、「DXは全て硬い・冷たい音しか出せない」というものがあります。確かにデジタル由来のクリアさはありますが、EGやモジュレーションの組み合わせにより温かみのあるパッドや柔らかい鍵盤音も作れます。また、DX7 IIは単なる再発ではなく、実用性を意識した改良が施されているため、オリジナルDX7と同列に比較するのは適切ではありません。

まとめ:DX7II-Dの今日的意義

DX7II-Dは、DX7世代の音色的遺産を継承しつつ、現場での使いやすさやパッチ管理の面で進化したモデルです。往年のDXサウンドを愛するリスナーやクリエイターにとって、実機は依然として貴重な「音のソース」であり、ソフトウェアによる再現と併用することで制作の幅を大きく広げます。古典的なFMの挙動を理解し、DX7 II固有の利便性を活かすことで、モダンな制作シーンでも強力な武器となるでしょう。

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参考文献