Neu! — モーターリックと反復が切り開いた〈新しい音楽〉の系譜

Neu!とは何か

Neu!(ノイ)は、ドイツ・デュッセルドルフ出身の二人組、クラウス・ディンガー(Klaus Dinger、ドラム/ボーカル)とミヒャエル・ローター(Michael Rother、ギター/ベース/キーボード)によって1971年に結成されたプロジェクトです。バンド名はドイツ語で「新しい!」を意味し、その名の通り既存のロックやポップの文法を大胆に削ぎ落とし、反復と微細な変化で独自の音世界を築き上げました。彼らの活動は短期間(主に1972–1975年)に集中していますが、その影響力はポストパンク以降のロック、電子音楽、実験音楽に強く及んでいます。

結成の背景と制作体制

Neu!は1971年に結成され、1972年にセルフタイトルのデビューアルバム『Neu!』を発表しました。録音やエンジニアリングの面では、当時の西ドイツの前衛的なプロデューサー/エンジニアであったコンニー・プランク(Conny Plank)らと近しい関係を持ち、同地域のクラウストロック/クラウトロック・シーンと深く結びついています。バンドはスタジオでの少人数による試行錯誤と、最小限の楽器編成での重ね録りを駆使して音を構築していきました。

音楽的特徴:モーターリック(motorik)と反復美学

Neu!を語るうえで不可欠なのが「モーターリック」と呼ばれるリズムの概念です。これは等速で流れるような4/4ビートのことで、ドラムがメトロノームのように一定のパルスを刻み続けることにより、ギターやシンセ、ベースの反復フレーズが浮遊的に変化していきます。音楽は一般に以下の要素で特徴づけられます。

  • 等速で淡々と進行するドラムのビート(motorik)
  • 単純なコード/フレーズの反復と、その微妙な変化による時間的展開
  • ギターのループ的なテクスチャと空間処理(フェイズ、ディレイ、歪み)
  • ミニマルなレイヤーの重ね方と沈黙・余白の活用

このアプローチは、単純さのなかに聴覚的なトランス効果を生み、リスナーに時間の感覚を変容させる力を持っています。代表曲「Hallogallo(ハロガロ)」はその典型で、長尺の反復推進力が内的な高揚を作り出します。

主要アルバムと特徴的トピック

Neu!には公式スタジオアルバムとして1972年の『Neu!』、1973年の『Neu! 2』、1975年の『Neu! 75』があり、それぞれに制作背景や音像の違いがあります。

  • Neu!(1972):導入部としての役割を持ち、モーターリックと冷徹なミニマリズムが前面に出ています。コンパクトながらも方法論がはっきり示された作品です。
  • Neu! 2(1973):制作上の事情から、シングル曲の扱いやテープ編集を多用した実験的なサイドを含みます。素材の再配置や速度操作など、当時としては前衛的な編集技術が聴かれます。
  • Neu! 75(1975):二人の方向性の違いが色濃く出た作品で、より「歌」を意識した楽曲と、従来のインストゥルメンタルな探求が混在します。結果として多面的な魅力を持つアルバムになりました。

制作上の葛藤と第四作の問題

短期間で高密度に制作された一方、メンバー間の意見差も徐々に顕在化しました。1970年代後半以降、正式な4枚目の制作は断続的に行われましたが、最終的に未完状態の素材が問題化します。1990年代にクラウス・ディンガー側が『Neu! 4』として音源を発表した際、ミヒャエル・ローターは関与していないと主張し、以後リリースをめぐる見解の相違が続きました。こうした確執は再評価の過程での権利関係や正当性の議論とも絡み、再発・リマスター作業に影響を与えました。

メンバーのその後

Neu!解散後、クラウス・ディンガーはよりポップでドライヴ感のあるプロジェクト〈La Düsseldorf〉を結成し、ドイツ国内で成功を収めました。一方、ミヒャエル・ローターはザ・クラスタ(Cluster)のメンバーと共に〈Harmonia〉を結成するなど、アンビエント/電子音響方面での活動を続け、ソロ作でも高い評価を得ました。ディンガーは2008年に逝去し、ローターは以降もソロ活動やNeu!の作品の管理・再発に関与しています。

影響と評価:なぜ今も重要か

Neu!の音楽は、一見シンプルな構造の反復がもたらす時間感覚の変容と、演奏の持続から生まれる力学により、後世の多くのアーティストに影響を与えました。ブライアン・イーノやデヴィッド・ボウイといった当時の先端的ミュージシャンから、ポストパンク、シューゲイザー、インディー、テクノ、IDMに至るまで、さまざまなジャンルでNeu!の理念は参照され続けています。静謐さと推進力を同時に持つサウンドは、現代のリミックス/リコンテクスト化にも適合しやすく、再発のたびに新たな世代に再発見されています。

楽曲と演奏の解析(簡潔な視点)

Neu!の重要な手法は“少ない要素を徹底的に磨く”点にあります。ドラムはテンポをほとんど変えずに推進力を維持し、ギターやベースは短いモチーフを反復します。変化は突然訪れるのではなく、マイクロな揺れやエフェクトの付加で段階的に現れ、これが聴覚上の緊張と解放を生みます。音楽的にはミニマリズム×ロックの融合と表現でき、シンプルなリフの繰り返しから深い感情やドラマを引き出す点が特異です。

今日的解釈とリスニングの提案

Neu!を初めて聴く場合は、短い曲を追うよりもアルバム単位で“時間の流れ”を体感することを勧めます。ヘッドフォンや静かな環境で、ドラムの反復やギターの変化に身を委ねると、従来のポップ/ロック聴取とは異なる集中体験が得られます。また、彼らの手法は現代のループ音楽やビート・ミュージックとも親和性が高く、リミックスやサンプリングの素材としても多く参照されています。

まとめ:Neu!の遺産

Neu!は短い活動期間ながら、音楽の〈推進〉と〈反復〉というテーマを徹底的に追求し、ロックの時間感覚を拡張しました。その影響は直接的なサウンドの継承だけでなく、制作の態度──ミニマルな素材を研ぎ澄ます姿勢やスタジオでの実験精神──にも及びます。再発や研究を通じて、Neu!の価値はますます再評価され、現代の多彩な音楽表現に息づいています。

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参考文献