Smokey Robinson & The Miracles — モータウンを象徴したソングライター兼ヴォーカル・グループの軌跡と音楽性
はじめに
Smokey Robinson & The Miracles(以下「ザ・ミラクルズ」)は、アメリカ・デトロイト発のヴォーカル・グループであり、モータウン(Tamla/Motown)を代表する存在として20世紀のポピュラー音楽に甚大な影響を与えました。1950年代半ばに結成され、1960年代を中心に数多くのヒット曲を生み出し、ソングライティングとハーモニーを武器にソウル/ポップの境界を押し広げました。本稿では結成から代表作、作風、メンバーの役割、そしてその後の遺産までを丁寧に掘り下げます。
結成と初期の歩み
ザ・ミラクルズは1955年、デトロイトで結成されました。初期からのメンバーにはウィリアム・“Smokey” Robinson(リード・ヴォーカル、ソングライター)を中心に、ロニー・ホワイト、ピート・ムーア、ボビー・ロジャース、クローデット・ロジャース(クローデットはグループの初期メンバーであり後にSmokeyと結婚)らが名を連ねました。彼らは地域のアマチュア大会やクラブで経験を積み、ソングライティング能力を武器に徐々に頭角を現していきます。
1959年から1960年代初頭にかけて、若き事業家ベリー・ゴーディJr.の目に留まり、1960年にTamlaレーベル(後のMotown)と結びつきます。彼らのシングル「Shop Around」(1960年)はモータウン初のミリオンセラーとなり、会社の商業的成功を大きく押し上げました。
代表曲と作曲・制作の特徴
ザ・ミラクルズとSmokey Robinsonは数々の名曲を生み出しました。代表的な曲とその特徴を挙げます。
- Shop Around(1960) — モータウン史上初の大ヒットであり、巧みなメロディとキャッチーなコーラスで広い層に受け入れられました。
- You've Really Got a Hold on Me(1962) — ブルージーな感情表現と緻密なコーラス・アレンジが特徴。後にビートルズなどがカヴァーしたことでも知られます。
- The Tracks of My Tears(1965) — Smokeyの典型的な詩情あふれるリリックと、Marv Tarplin(ギター)による印象的なイントロが結実した名バラード。多くの音楽誌で高評価を得ています。
- Ooo Baby Baby(1965)/I Second That Emotion(1967)/Tears of a Clown(1970) — それぞれ情緒的な詞、洗練されたメロディ、そして時にユーモアを含む表現力が見られる曲です。特に「Tears of a Clown」はStevie WonderやHank Cosbyとの共作で、1970年にシングルとして再発され世界的ヒットになりました。
作曲面ではSmokey Robinsonの繊細で詩的な歌詞、中域を生かすメロディ作り、そしてコーラスを生かしたアレンジが特徴です。Marv Tarplinのギター・フレーズが曲の顔となることも多く、ピアノやホーンの配置を含めたモータウン流のプロダクションと、グループのヴォーカルの緻密さが融合して独自のサウンドを形成しました。
グループ内の役割分担と個々の貢献
ザ・ミラクルズにおける特徴は、単にSmokey Robinsonのソロ・タレントだけでなく、メンバーの協働による創造性にあります。ピート・ムーアはアレンジやハーモニーの面で重要な役割を果たし、ロニー・ホワイトとボビー・ロジャースはコーラスの厚みを支えました。クローデットは初期から重要なパートを担い、レコーディングには継続的に参加しました。Marv Tarplinはギタリストとして多くの曲の共作者に名を連ね、イントロやリフで楽曲に不可欠な色合いを与えました。
またSmokeyは作詞・作曲家として自らの歌唱だけでなく、他のモータウン・アーティストへの楽曲提供(フォーティ・エイト、The Temptations、Mary Wellsなど)でも高く評価され、1960年代のモータウン・サウンド形成に直接関与しました。さらにSmokeyはモータウン社内で経営面にも参加し、スカウトやプロデュース、実務的な役割も担っていました。
1960年代から1970年代への変化とSmokeyの退団
1960年代を通じてザ・ミラクルズはコンスタントにヒットを放ち、モータウンの中核としての地位を確立しました。しかし1972年、Smokey Robinsonは歌手活動から退きソロ活動とモータウンの職務に専念するため、グループを離れます。Smokeyの後任にはビリー・グリフィンが入ってグループは「The Miracles」として継続し、1975年の「Love Machine」が大ヒットして新しい局面を迎えます。
Smokeyの脱退後もザ・ミラクルズは活動を続け、多様な編成や方向性を試みましたが、Smokey時代のソングライティングとハーモニーはやはり彼らの最も広く知られた遺産です。
評価と遺産
ザ・ミラクルズは音楽史的にも高い評価を受けています。Smokey Robinson自身はソングライター/ヴォーカリストとして数々の賞賛を受け、彼とグループの楽曲は後続のR&B、ソウル、ポップの作家やアーティストに多大な影響を与えました。
また、ロックの殿堂(Rock & Roll Hall of Fame)に関しては、Smokey Robinsonは先に顕彰された一方で、その他のメンバーの顕彰は後年に行われるなど、栄誉の配分を巡っては議論もありました。いずれにせよザ・ミラクルズの楽曲群はグラミーや各種音楽誌の名盤・名曲ランキングでも繰り返し取り上げられており、その芸術的価値は今日でも再評価が続いています。
音楽的特徴の詳細分析
以下はザ・ミラクルズの音楽的特徴を項目ごとに整理したものです。
- メロディとリリック:Smokeyのリリックは日常的な恋愛や感情の微妙な揺れを捉え、簡潔でありながら詩的な表現が多い。メロディは中低域を活かした歌い回しが多く、耳に残るフックが効果的に配置されます。
- ハーモニーとコーラス:グループ・ヴォーカルの緻密なハーモニーはソウル・グループの伝統を踏襲しつつ、ポップ性を失わない洗練された仕上がり。
- ギター・ワーク:Marv Tarplinによるモチーフ的なギター・ラインは曲の象徴となることが多く、サウンドに独自性を与えました。
- プロダクション:Tamla/Motownの制作チームによるクリーンでダイナミックな録音が、楽曲の持つ繊細さとポップ性を両立させました。
現代への影響とカバーや評価
ザ・ミラクルズの楽曲は数多くのアーティストによってカバーされ、世代を超えて影響を及ぼしています。The Beatlesが「You've Really Got a Hold on Me」を演奏したことや、後年のR&B/ソウル歌手たちが彼らの曲を再解釈する例は枚挙に暇がありません。また、音楽批評の場でも「The Tracks of My Tears」などは“史上の名曲”として度々言及され、楽曲の普遍性が認められています。
まとめ:なぜザ・ミラクルズは重要か
ザ・ミラクルズは単なるヒットメーカーを超えて、作詞作曲、編曲、アンサンブル、プロダクションのすべての面でモータウン・サウンドの鍵を握っていました。Smokey Robinsonの類まれなるメロディセンスと詩的な表現、グループ全体のハーモニー構築能力、そしてモータウンの制作力が結びついたことで、20世紀のポピュラー音楽における重要な遺産を残しました。今なお彼らの楽曲は聴かれ、カバーされ、学ばれる対象であり続けています。
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参考文献
- The Miracles - Wikipedia
- Rock & Roll Hall of Fame
- AllMusic - Smokey Robinson & The Miracles
- Motown Museum(Tamla/Motownの歴史)
- Rolling Stone(楽曲・アーティスト評価)
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