ナット・キング・コールの軌跡:ジャズからポップスへ、時代を変えた歌声と遺産

イントロダクション

Nat King Cole(ナット・キング・コール、出生名:Nathaniel Adams Coles、1919年3月17日 - 1965年2月15日)は、20世紀のアメリカ音楽を代表する歌手でありジャズ・ピアニストです。滑らかで温かみのあるバリトン・ヴォイスと、ジャズ・トリオによる繊細なピアノ伴奏で知られ、ジャズからポピュラー音楽への橋渡しを果たしました。本コラムでは彼の生涯、音楽的特徴、社会的意義、代表曲とその背景、そして遺産までを詳しく掘り下げます。

幼少期と音楽の出発点

ナット・キング・コールは1919年3月17日、アラバマ州モンゴメリーに生まれました。幼少期に家族と共にシカゴへ移り、教会音楽に触れながら育ちました。母がピアノ教師であったことからピアノ教育を受け、幼い頃から音楽の才能を示しました。初期は教会音楽やクラシック的な訓練を背景に、ジャズへと関心を広げていきます。

キング・コール・トリオと初期の成功

1930年代後半、ナットはロサンゼルスでギタリストのオスカー・ムーア(Oscar Moore)やベーシストのウェズリー・プリンス(Wesley Prince)らと共にキング・コール・トリオを結成しました。ピアノ、ギター、ベースという当時としては珍しい編成は、ドラムのない軽やかでスウィング感のあるサウンドを生み出しました。

トリオはラジオやクラブで評判を呼び、1943年の「Straighten Up and Fly Right」は大ヒットして国民的な注目を集めます。この曲はナット自身の作曲名義でクレジットされ、トリオの名声を確立し、当時設立間もないレーベル(Capitol Recordsなど)にとっても重要な成功作となりました。

ソロ歌手への転身とポピュラー化

1940年代後半から1950年代にかけて、ナット・キング・コールはトリオ活動と並行してソロ歌手としての活動を拡大しました。彼の滑らかな歌唱はジャズのみならず、映画音楽やポピュラーソングにも適合し、より広範な聴衆に受け入れられます。

  • Nature Boy(1948):eden ahbez作のこの楽曲をナットが歌った録音は全米ヒットとなり、彼のソロ歌手としての地位を強固にしました。
  • Mona Lisa(1950):映画『Captain Carey, U.S.A.』で使われたこの曲は大ヒットし、作曲者のコンビにアカデミー賞(Best Original Song)をもたらしました。ナットの歌唱は曲の持つ幻想的な雰囲気を的確に表現しました。
  • Unforgettable(1951):切ないラブ・バラードで、後年には娘のナタリー・コールによるヴォーカルとの“デュエット”で再び大きな注目を集めます。

音楽的特徴と演奏スタイル

ナット・キング・コールの魅力は、何よりもその歌声の自然体かつ表情豊かなフレージングにあります。テクニックに頼らず、語りかけるような滑らかな歌い回しで聴き手の感情に直接触れるスタイルは、クロスオーバーするポピュラー音楽の世界に特別な影響を与えました。

ピアニストとしての彼は、スウィングやジャズの表現を重視しつつも、余白を活かした伴奏で歌を引き立てることを得意としました。キング・コール・トリオ時代の小編成ジャズは、その後のギタリスト・ピアニストのコンビネーションや、ヴォーカル中心の編成に影響を与えています。

テレビ進出と人種問題への直面

1956年、ナットはNBCで自身の番組『The Nat King Cole Show』を開始し、黒人歌手として初めて全国ネットのテレビ番組を司会したことで歴史的な一歩を踏み出しました。しかし番組は1シーズンほどで終わりを迎えます。理由のひとつは、当時の人種差別的な事情によって安定した全国スポンサーを得られなかったことにあります。

また彼はアメリカ南部での公演ツアー中に人種差別的な待遇や脅迫に直面したこともあり、公の場や私生活において人種問題と向き合わざるを得ませんでした。こうした出来事は、単に音楽家としての功績だけでなく、アメリカの文化的・社会的文脈における重要な位置づけを強調するものです。

代表曲とアルバム(ピックアップ)

  • Straighten Up and Fly Right(1943) — 初期の大ヒットでトリオ時代を象徴する曲
  • Nature Boy(1948) — 神秘的な歌詞とメロディが全米で支持された作品
  • Mona Lisa(1950) — 映画主題歌としても有名なナンバー
  • Unforgettable(1951) — 時代を超えた名曲。1991年には娘ナタリーとのデュエットで再評価される
  • After Midnight(1956) — トリオ中心のジャズ演奏に戻った意欲作(アルバム)

影響と後世への遺産

ナット・キング・コールは、多くの後進ボーカリストやジャズ・ミュージシャンに影響を与えました。彼の自然なフレージングや、歌と伴奏のバランス感覚はフランク・シナトラやトニー・ベネットをはじめとする多くの歌手に参照されました。さらに、黒人アーティストがメインストリームで受け入れられる道を切り開いた点でも歴史的な意義があります。

娘のナタリー・コールによる1991年の「Unforgettable」の“デュエット”は、父の音源を現代技術で再構成し、世代を超えた繋がりを示した象徴的な出来事でした。これによりナットの音楽は再び大衆の注目を浴び、若い世代にも届くことになります。

死去とその後の評価

ナット・キング・コールは長年の喫煙習慣により健康を損ない、1965年2月15日にカリフォルニア州サンタモニカで肺がんのため45歳で亡くなりました。死後も彼の録音は再評価され続け、グラミー殿堂入りや数々のコンピレーション、映画やドラマでの使用を通じて普遍的な人気を保っています。

コレクションと聴きどころの楽しみ方

初期のキング・コール・トリオ録音は小編成ジャズの妙味を味わえ、ピアノとギター、ベースだけで生まれる濃密なアンサンブルが楽しめます。一方で、1950年代のオーケストラをバックにした録音では彼の歌唱表現がより際立ち、映画的な情感や哀愁を堪能できます。両方を聴き比べることで、彼の音楽的な幅と変遷がより明確になります。

まとめ:時代を超える包容力ある歌声

ナット・キング・コールは、ジャズとポピュラー音楽の間を自在に行き来し、黒人アーティストとしてアメリカ社会に重要な足跡を残しました。卓越したヴォーカル表現、ピアニストとしてのセンス、そして時代を映す存在としての意義――これらが合わさって、彼の音楽は今も多くの人々の心を捉え続けています。

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参考文献