ディーン・マーティン(Dean Martin) — クールなバリトンが紡いだ歌と伝説

概要

ディーン・マーティン(本名:Dino Paul Crocetti、1917年6月7日 - 1995年12月25日)は、アメリカを代表する歌手であり俳優、コメディアン。"King of Cool"(クールの王様)とも称されるその佇まいと、柔らかく暖かいバリトンが多くのリスナーの心を掴みました。1940年代のジェリー・ルイスとのデュオ「Martin and Lewis」での成功を足掛かりに、ソロ歌手・映画・テレビの分野で長期にわたり活躍。ポピュラー・スタンダードやスウィング、ラテン調の楽曲など幅広いレパートリーを残しました。

初期生涯とキャリアの始まり

ディーンはオハイオ州スチューベンビルでイタリア系移民の家に生まれました。若年期には様々な職を経験しつつ、地元で歌う機会を得て技術を磨いていきます。1940年代半ば、コメディアンであるジェリー・ルイスとコンビを組み、クラブやラジオで人気を博しました。この"Martin and Lewis"コンビは映画にも進出し、1956年に解消するまで高い評価と興行的成功を収めました。コンビ解消後はソロの歌手・俳優としての道を本格化させます。

音楽スタイルと代表曲

ディーン・マーティンの歌唱は、柔らかくリラックスしたフレージングと温度感のあるバリトンに特徴づけられます。テクニックよりも"間"や"雰囲気作り"を重視するスタイルは、多くの人に"力の抜けた魅力"として受け止められました。代表曲には次のようなものがあります。

  • That's Amore(1953)— 映画『The Caddy』での歌唱が有名で、イタリアン・テイストをポップに仕立てた名曲。
  • Everybody Loves Somebody(1964)— 彼のキャリア最大のヒットの一つ。1960年代に再びチャートの頂点に立ち、幅広い世代に知られる曲となった。
  • Ain't That a Kick in the Head?(1960)— 映画『Ocean's 11』などとも結び付きが深い、軽快で洒脱なナンバー。

これらの曲以外にも、スタンダード・ナンバーやカヴァーを自分の色で染め上げる能力に長けており、アルバム単位でも一貫した世界観を作ることができました。

映画・テレビでの活躍

映画ではコメディから西部劇まで幅広い役柄を演じ、特にハワード・ホークス監督の『Rio Bravo』(1959)や、スター俳優と共演した『Ocean's 11』(1960)などが知られています。1965年から1974年にかけて放映されたバラエティ番組『The Dean Martin Show』は長寿番組となり、スターゲストとのトーク、歌、コメディコーナーを通じて新たな人気層を獲得しました。また、その後に行われた"Dean Martin Celebrity Roast"シリーズも話題を呼び、テレビ文化の一端を担いました。

ラットパックと文化的影響

ディーン・マーティンはフランク・シナトラやサミー・デイヴィス・Jr.らとともに"Rat Pack(ラットパック)"と呼ばれる一団の中心メンバーでした。ラスベガスのショーや映画、パーティーを通じて、彼らは1950〜60年代のアメリカ大衆文化を象徴する存在となります。ラットパックの魅力は単に芸能的な才能だけでなく、仲間同士の軽妙な掛け合い、ジェントルでありながら反抗的な都市的サヴォアフェール(粋さ)にあり、ディーンのクールなイメージはその中心にありました。

ステージ・パーソナと実像

ディーンは舞台上で"飲んだくれ"キャラクターを演じることで知られますが、これは演技上のパーソナであり、実際の彼のプロ根性や歌唱の精度とは矛盾しません。ステージ上での脱力したトークや瞬間的なアドリブもまた観客にとっての魅力であり、緻密に計算された"無造作さ"と理解するのが適切です。また私生活ではゴルフや飛行機趣味など多彩な関心を持ち、ラスベガスでの定期公演も多く行いました。

録音とレコーディングの特徴

録音面では、ディーンの声質を活かすために管弦楽やホーン、ストリングスを巧みに配したアレンジが多用されました。アレンジャーや伴奏陣との相性が重要で、穏やかなテンポ感やブラスのアクセントを取り入れた編曲は、楽曲に独特の"つや"を与えています。彼はスタジオ録音でもライブ感を重視し、表情豊かなフレーズや間の取り方が録音に生かされました。

私生活と家族

私生活では結婚と離婚を繰り返し、複数の子どもをもうけています。息子の一人であるディーン・ポール・マーティン(Dean Paul Martin)はパイロットでありミュージシャンでもありましたが、1987年に航空機事故で若くして亡くなりました。この悲劇はディーン本人に大きな影響を与えたと言われています。

レガシーと後世への影響

ディーン・マーティンの遺産は多面的です。歌手としての音楽的遺産、映画・テレビを通じた映像文化への貢献、そして"クール"な大人の魅力を体現したパーソナリティは、現代のポップカルチャーや映画音楽、ジャズ/ポップの歌い手にまで影響を与えています。多くのアーティストが彼のフレージングや雰囲気をリスペクトし、カバーや引用を行ってきました。また、彼の楽曲はCMや映画などで繰り返し使用され、世代を超えた認知を保っています。

ディスコグラフィ(ハイライト)

ここでは代表的なシングルやアルバムを抜粋します(完全な一覧ではありません)。

  • That's Amore(1953、シングル)
  • Memories Are Made of This(1955、シングル)
  • Everybody Loves Somebody(1964、シングル)
  • Ain't That a Kick in the Head?(1960、映画挿入歌)
  • アルバム:Dino: Italian Love Songs / Sleep Warm など、多数のスタンダード集やコンセプト・アルバム

現代における受容と再評価

デジタル化とメディアの多様化により、ディーン・マーティンの楽曲はストリーミングや映画・ドラマのサウンドトラックで再発見される機会が増えています。若い世代のリスナーが彼の歌声や"脱力の美学"に魅了されるケースも多く、单なる懐古趣味にとどまらない普遍性が認められています。まとまったアルバムでの聴取は、彼の音楽的な幅と柔らかさを再確認する良い方法です。

まとめ

ディーン・マーティンは、ただ"やすらぐ声"を持つ歌手という枠を超えて、20世紀中盤のアメリカ大衆文化を象徴する存在の一人です。歌唱、映画、テレビ、舞台における仕事の密度と幅は非常に大きく、彼のつくったイメージと実際のプロフェッショナリズムの間にある微妙なバランスが多くの人々を惹きつけ続けています。彼の楽曲を通して当時のムードを感じると同時に、その表現の技術を学ぶことは、現代の歌手や音楽ファンにとっても示唆に富んだ経験となるでしょう。

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参考文献