Project CARS徹底解説:歴史・ゲーム性・技術・評価の総まとめ

はじめに:Project CARSとは何か

Project CARS(プロジェクト カーズ)は、Slightly Mad Studios(スライトリーマッドスタジオ)によって開発され、主に2015年に初代がリリースされたリアル志向のレーシングゲームシリーズです。シリーズはその高品質なグラフィック、天候/時間変化、物理挙動の追求で知られ、シムレーサーからライトなレースゲーマーまで幅広い注目を集めました。本コラムでは、開発の経緯、ゲーム性と技術、収録車両とコース、評価と批判、そしてシリーズが残した影響までを詳しく深掘りします。

開発の背景と歴史

Slightly Mad StudiosはIan Bell(イアン・ベル)らが率いる開発チームで、従来のパブリッシャー主導ではない形でコミュニティ参加型の開発を行うことを掲げました。Project CARSはWorld of Mass Development(WMD)を通じたユーザー参加型の開発プロセスや、クラウドファンディング的な仕組みを取り入れたことで話題になりました。初代『Project CARS』は2015年にPC/PS4/Xbox One向けに発売され、その後改良版や続編が発表されます。

続編の『Project CARS 2』は2017年に登場し、さらに多くの車種、コース、改良された物理と気象システムを導入しました。シリーズ最新作の『Project CARS 3』は2020年にリリースされましたが、ゲームプレイの方向性が大きく変わり、賛否を呼びました。なお、2019年にSlightly Mad StudiosはCodemastersに買収され、その後Codemasters自体がElectronic Arts(EA)に組み込まれるなど、制作環境にも変化がありました。

ゲーム性と物理シミュレーション

Project CARSシリーズの核は「没入感」にあります。タイヤの挙動、サスペンション、重量移動、ロードサーフェスとの相互作用など、車両の物理シミュレーションに力を入れており、特にコントローラーやフォースフィードバックを備えたハンドルコントローラーでの表現に高い評価が寄せられました。

ダイナミックな天候と時間帯の変化も大きな特徴です。レース中に雨が降り始めたり、逆に乾いてグリップが回復したりといった変化は、戦略(タイヤ選択、ピットイン)やドライビングラインに直接影響を与えます。車体温度やタイヤ温度、摩耗の挙動もシミュレートされ、レース運びに戦術的な深みを与えます。

収録車両・コースの特徴

シリーズは多様な車種を収録しています。グループCやGT、ツーリングカー、フォーミュラカー、スポーツカー、クラシックカーなど幅広く、メーカーやカテゴリのバランスもしっかりしています。各車両は個別にセッティングが可能で、サスペンション、ギア比、空力、ブレーキバランスなど細かい調整で挙動が変わるため、プレイヤーの好みに合わせた車作りが楽しめます。

コースも実在するサーキットを中心に収録されており、スパ・フランコルシャン、モンツァ、シルバーストンなどの国際的なトラックから、ナロートラックや市街地コースまで多彩です。トラックの路面状況は時間経過や天候に応じて変化し、ラバーの蓄積や水たまりの発生などが挙動に影響します(シリーズやバージョンにより実装の程度は異なります)。

モードとコンテンツ構成

シングルプレイではキャリアモード、タイムアタック、ワンメイクイベントなどが用意され、AI対戦によるレースで腕試しができます。マルチプレイはオンライン対戦やサーバーベースのレース、コミュニティ主催のリーグ戦などを通じて長く遊ばれてきました。特にPC版ではコミュニティによるイベントやカスタム設定でのレースが盛んです。

技術面:グラフィック、サウンド、VR

Project CARSは当時の標準を押し上げる高品質なグラフィック表現で注目を集めました。ライティングや天候表現、車体やトラックのディテールは高く評価され、リプレイやカメラワークの演出も映画的です。サウンド面でもエンジン音やタイヤノイズ、環境音の作り込みが丁寧で、没入感に寄与します。

またPC版ではOculus RiftなどのVRヘッドセットに対応し、ヘッドトラッキングと組み合わせることで「実際に座って運転している」感覚が強化されました。これがシムレーシングコミュニティにとって大きな魅力となり、VRとハードコアなフィードバック機器を組み合わせたセットアップで高評価を得ました。

コミュニティ、モッディング、競技利用

Project CARSシリーズはPCコミュニティの支持を背景に長く遊ばれてきました。ユーザーコミュニティはセッティングの共有、リーグ戦の運営、MOD(改造データ)の作成などで活発に活動しました。公式がサポートする範囲は限られていても、ユーザー主導でコンテンツを拡張していく文化が根付いています。

プロのシミュレーターやトレーニング用途に使われることは限定的ですが、アマチュアのオンライン競技や配信コンテンツの題材としては盛んに用いられました。シリーズの物理システムはトレーニング的価値も持つため、ドライビング技巧を磨くツールとしても活用されています。

評価と批判点

総じて初期作と『Project CARS 2』はビジュアルと走行感のリアリティで高評価を受けましたが、発売直後の技術的な不具合やオンラインの安定性、AIの挙動に対する批判もありました。特にAIの一貫性やレース運びの自然さは改善要望が出され続けました。

大きな転機となったのは『Project CARS 3』の評価です。シリーズファンの期待は引き続きシミュレーション志向でしたが、3作目はよりアーケード寄りの方向へ舵を切り、車両進行や報酬体系、購入要素の導入などが批判を招きました。これによりコアなシムレーサーの一部は離れ、レビューやコミュニティの反応が分かれる結果となりました。

シリーズの遺産と今後の展望

Project CARSシリーズは、インディー的な開発手法とコミュニティ参加型の制作過程が中央にあった点、そして「没入感」を追求する技術力で、現代のレーシングゲームの一翼を担いました。初代と2作目は多くのプレイヤーに強い印象を残し、VRやハードコアなハードウェアとの親和性によりシムレーシング文化の発展にも寄与しています。

一方で開発スタジオの買収やシリーズ方向性の変化、さらに市場の競争激化(Assetto Corsa、iRacing、rFactorなど他シムの存在)により、Project CARSブランドの将来は不確定要素を含んでいます。Codemasters買収後のリソース再編やEAによる統合などがどう影響するかは注視が必要です。

まとめ:Project CARSが示したもの

Project CARSは、ゲーム開発とコミュニティ運営の新しい可能性を示しつつ、高い技術力でレーシングゲームに新たな表現をもたらしました。完全無欠ではないにせよ、シリーズはリアルな走行感、天候・時間変化の表現、そしてVR対応といった要素で多くの支持を集め、シムレーシングの発展に寄与しました。今後の続報やスタジオの動き次第で、Project CARSブランドが再び進化する可能性は残されています。

参考文献