ゴルフ場で選ばれるゾイシアグラス完全ガイド — 特性・管理・導入・トラブル対策

ゾイシアグラスとは

ゾイシアグラス(Zoysia spp.、和名:ゾイシア、一般的に「ゾイシア芝」)は、東アジア原産の暖地型芝草で、ゴルフ場のフェアウェイやティー、ラフ、一部ではグリーンにも用いられる芝種です。耐暑性・耐乾燥性、踏圧(歩行やスライスなど)に対する耐性、そして葉幅の細さから作る密なマット(芝床)が特徴で、見た目とプレー性のバランスが評価されています。

ゴルフ場での特性と利点

ゾイシアの主な利点は次の通りです。

  • 耐暑性・耐乾燥性:高温期でも分解が早いわけではないが、乾燥に強く、灌漑が制限される地域でも安定した緑化が期待できます。
  • 踏圧耐性と密度:走根・ランナー(匍匐茎、根茎)を発達させて密度の高い芝床を形成し、ボールの乗りやすさと転がりの一貫性に寄与します。
  • 低い肥料要求量:一般に冷涼地の芝種より施肥量が少なく済み、維持費を抑えられる可能性があります。
  • 耐病性が比較的高い:多くの病害に強い品種がありますが、特定の条件下では病害が発生します(後述)。
  • 見た目の良さ:濃緑で滑らかなフェアウェイ面が得られ、観賞性にも優れます。

植物学的特徴と主要品種

ゾイシア属には複数の種があり、ゴルフ場で使われる主なものは以下です。

  • Zoysia japonica:温暖からやや寒冷な地域まで適応する比較的寒さに強い種。葉はやや太めで成長は早め。
  • Zoysia matrella(旧 Z. tenuifolia を含む):細葉で高密度、見た目の美しさから高級芝として評価されるが、寒さにはやや弱い。
  • Zoysia pacifica:沿岸地域での耐塩性を持つものがあり、地域によって選択される。

品種は地域や目的(グリーン、ティー、フェアウェイ、ラフ)に合わせて選びます。例えば寒冷地では Z. japonica 系の寒さ耐性の高い品種が有利です。

導入方法(芝張り・株出し・種まき)

導入方法は主に3通りあります。

  • ソッド(芝張り):即時にプレー可能な表面を得たい場合に有効。施工費は高いが仕上がりは安定します。
  • プラグ(株出し)/スプラグ(茎や匍匐茎の植え付け):コストを抑えて徐々に拡げる方法。定着には時間がかかるが、根系が強くなる利点があります。
  • 播種:種子での復旧は品種や地域によって制約があり、種子供給が限られる品種もあるため、採用は慎重に判断する必要があります。

いずれの導入でも、下地の整備(耕土、排水、平坦化)、適切な植え付け時期(生育期の早期)とその後の水管理が成功の鍵です。

日常管理:刈高・頻度・散水・施肥

ゾイシアは成長が遅めで、その分管理も一定の特徴があります。

  • 刈高(目安)
    • グリーン(稀に採用):約3〜6mm(極端に刈り込むと回復が遅くなるため、管理は高度な技術を要します)。
    • ティー:5〜12mm
    • フェアウェイ:10〜25mm(コース設計や気候で調整)
    • ラフ:25mm以上
  • 刈込頻度:成長期でも他の暖地芝に比べて成長が遅いため、刈込頻度はやや少なくて済みます。ただし、プレー品質を保つためには定期的な刈り込みが必要です。
  • 散水:深く、間隔を空けた灌水が基本。表面が湿った状態を常に続けないようにし、水ストレスに強い特性を活かします。気候や土壌によって週間散水量を調整してください。
  • 施肥:総量は多くないのが一般論。春〜夏の生育期に中心に少量を分割施用することで密度を保ちます。過剰な窒素施用は病害や過度成長を招くため注意。

整備(エアレーション・サッチング・トップドレッシング)

ゾイシアはサッチがたまりやすく、排水不良や病害の原因になるため定期的な管理が必要です。

  • コアリング(コアエアレーション):生育が活発になる時期(春後半〜初夏)に実施して根域の通気とリフレッシュを図ります。
  • サッチ管理:サッチ層が厚くなった場合はデトッチング(サッチ除去)を行い、トップドレッシングで表面を平滑化します。
  • トップドレッシング:砂や適合する土壌で表面改良を行い、プレー性と排水性を向上させます。

病害虫・トラブルと対処法

ゾイシアは多くの点で強い芝ですが、以下のような問題が発生します。

  • 病害:春の枯死(spring dead spot)、ラージパッチ(large patch)、ダラースポット(dollar spot)など。病害は土壌条件、過剰潅水、過度の窒素施用が誘因となることが多いです。
  • 害虫:グラスグラブ(コガネムシ類の幼虫)や芝柳皮蠅類、場合によってはモグラやセンチピードなどの被害があります。地域により発生種は異なるため、モニタリングが重要です。
  • サッチの蓄積:サッチ層が厚くなると病原菌が温床化しやすく、排水不良や通気不足を招きます。

対処としては、適切な輪作的管理、土壌診断に基づく施肥、必要に応じた薬剤散布(防除は地域の登録薬剤・ラベル指示に従う)と機械的管理(エアレーション、デトッチング)を組み合わせます。

冬期管理とオーバーシード(ライグリーン対策)

ゾイシアは暖地型のため、冬季には褐色化して休眠します。冬の見栄えやプレー性維持のためにライ(ライグラスやライグリーンとも言う)でオーバーシード(冬芝としてペレニアルライグラス等を播種)を行うコースもあります。

  • オーバーシードの利点:冬季の緑化、冬場のプレー快適性向上、投資回収の安定化。
  • オーバーシードの欠点:春のライ抜き(ライグラスの撤去)が必要で手間と費用がかかる。ゾイシア本来の芝床回復が遅れることがある。

気候とコースのポリシーに応じて、採用の是非を判断してください。

プレーへの影響(ボール挙動・グリーンスピード)

ゾイシアは密度が高く、葉が厚めの品種ではボールが『乗る』感触になりやすいです。刈高を低くすると転がりは速くなりますが、刈高を極端に落とすと芝のストレスが増し、ボールの挙動が不安定になることがあります。グリーンとしての採用は技術的に高度で、ボールのスピードは品種と管理次第で大きく変わります。

導入事例とコスト感

ゾイシアの導入は初期コスト(ソッド費用、下地改良)がかかる一方で、長期的には維持費(散水・肥料・労務)を抑えられるケースが多いです。コースの立地(乾燥地、沿岸域、寒冷地)やプレー要求度によって適正が変わるため、設計段階で土壌診断・気候データを基に専門家と検討することを推奨します。

まとめ(導入時のチェックリスト)

  • 気候・寒冷化リスクの評価(使用するゾイシア種・品種の選定)。
  • 土壌排水・下地改良の必要性確認。
  • 導入方法(ソッド/プラグ/播種)とスケジュールを決定。
  • 維持管理計画(刈込高・散水計画・施肥計画・サッチ管理)を作成。
  • 病害虫発生時の監視と対策(地域の延長サービスや専門業者と連携)。

参考文献