第3種換気とは?仕組み・設計・施工の実務ガイドとメリット・注意点

はじめに — 第3種換気の位置づけ

第3種換気(第三種換気)は、建築・住宅の換気方式のひとつで、日本の住宅や中小規模の建物で広く採用されています。機械で室内の空気を排出し、給気は給気口や建物の透過(すき間)による自然流入に依存する方式です。本コラムでは第3種換気の仕組み、長所・短所、設計・施工上のポイント、実務的注意点、メンテナンスと法規的な位置づけまでを詳しく解説します。

第3種換気とは — 基本的な仕組み

第3種換気は「機械排気方式」と呼ばれ、主に次の特徴を持ちます。

  • 排気は全て機械(換気扇や排気ユニット)で行う。
  • 給気は壁や窓に設けた自然給気口や建物の隙間等から室内へ自然に流入する(能動的な給気ファンは使わない)。
  • 室内は換気機器により相対的に負圧(外より低い圧力)となるため、外気が流入する。

構成要素と代表的な機器

  • 排気ファン(集中排気ユニット、局所換気扇):連続運転可能な24時間換気機能を持つことが多い。
  • 給気口(外壁給気グリル、自然給気口):風雨や虫の侵入を防ぐ構造が必要。
  • ダクトや配管(集中排気の場合):流速・圧力損失に配慮して設計。
  • 風量調整・逆流防止機構:必要に応じて設置。

動作原理と室内空気の流れ

排気ファンが屋外へ一定量の空気を排出すると、室内は負圧になります。外気は給気口や建物の開口部・隙間を通って室内に流入し、室内の汚れた空気は換気扇へと誘導されます。したがって、給気口の位置や気密性、室内の間仕切り配置が換気性能に大きく影響します。

第3種換気の長所

  • 機器構成が比較的シンプルで、設備費や維持費が抑えられる。
  • 給気装置がないため、給気ファンの騒音や電力消費が発生しない。
  • 排気側を集中管理することで、排気箇所を明確にでき、局所排気との組合せが容易。
  • 施工・導入が比較的容易で、既存住宅の retrofit に適している場合がある。

第3種換気の短所・リスク

  • 給気が自然流入に依存するため給気量・流路が不安定になりやすい(風向きや気密性に依存)。
  • 負圧により外部の汚染空気(排気筒や車道、ゴミ置き場の臭気など)が室内に入り込むリスクがある。
  • ガス機器など燃焼設備がある場合、逆流や不完全燃焼を招く危険性がある(特に気密性の高い住宅で注意)。
  • 熱交換(熱回収)が基本的に行われないため、空調負荷が大きくなる。

設計・計画の実務ポイント

第3種換気を採用する際は、単に排気ファンを取り付ければ良いというわけではありません。設計段階で以下の点を必ず検討してください。

換気量の設定

建築基準や指針に基づき必要換気量を設定します。住宅では24時間換気の導入が義務化されている場合があり、居室の換気回数目標(例:0.5回/hなど)や各部屋の必要風量を算定して排気量を決定します。居室・キッチン・浴室・トイレなど、排気箇所の役割を明確にすることが重要です。

給気経路と給気口の配置

給気は自然流入に依存するため、給気口の位置・サイズを計画し、居室ごとの気流経路を意図的に作る必要があります。給気口は床付近とするか、居室の用途に応じて適切な位置に設けます。また、給気口にフィルタや防虫網を付けることで屋外微粒子や花粉の侵入を低減できます。

気密性と意図的な漏気(換気経路)の確保

現代の住宅は高気密化が進んでいるため、必要な給気が確保できないケースがあります。設計段階で計画給気量を確保するための給気口サイズや数を計算し、意図しない漏気(隙間風)を避けるために気密施工を行い、給気は計画的に確保することが重要です。

近接する排気源との関係(屋外環境)

給気口の位置が外部の臭気源(排気口、車道、ゴミ置場等)に近いと、室内に臭気や微粒子が入るリスクがあります。設置場所の配慮と、必要に応じて給気口の向きや位置を工夫します。

火気器具・換気の安全対策

ガス湯沸器や暖房機器など屋内で燃焼を伴う設備がある場合、換気による負圧で採気系への逆流や不完全燃焼を招かないよう、排気計画や排気筒の位置、機器の採気方式を確認して安全措置を検討します。

省エネルギーと熱環境への配慮

第3種換気は熱交換装置(熱回収換気器)が基本的に入らないため、外気導入時に冷暖房負荷が増加します。寒冷地・高温多湿地では断熱性能や空調方式と組み合わせた全体的な省エネ計画が必要です。場合によっては第1種(機械給排気・熱交換付)へ切り替える検討も行います。

施工上の注意点

  • ダクト経路は短く直線的にし、弯曲や損失を最小化する。風量計算により換気扇とダクト抵抗を整合させる。
  • 給気口にはフィルタや防虫措置を設け、冷気侵入時のドラフト防止も考慮する。
  • 換気扇の連続運転を前提に静音化(dBレベル)や耐久性を確認する。
  • 設備点検や清掃が容易な配置にする(ファンの清掃・フィルタ交換頻度)。

メンテナンスとトラブル対処

第3種換気は給気側が自然流入であるため、長期運用で給気口の目詰まりやダクトの汚れが発生すると換気量が低下します。定期的な給気口チェック、換気扇の清掃、ダクト点検を行い、風量低下や異音があれば早めに対処してください。また、室内に強い異臭や一部で火器の不調があれば負圧の影響を疑います。

第1種・第2種との比較

  • 第1種(機械給気・機械排気、熱交換可能):給排気を機械でバランス制御でき、熱交換により省エネ性が高い。コストと機器の複雑さが増す。
  • 第2種(機械給気方式):給気を機械で送り、排気は自然排出。室内が正圧になり屋外の汚染侵入が抑制されるが、給気機器が必要。
  • 第3種:機器構成が簡単で導入が容易。ただし自然給気に依存するため、気密化住宅では設計配慮が不可欠。

適用事例と選定の考え方

戸建て住宅や小規模集合住宅、店舗等でコストと維持管理のバランスを重視する場合に第3種が選ばれることが多い。特に既存住宅への後付けや局所排気(浴室・トイレ・キッチン)を中心にする設計で有効です。一方、高い室内空気質や省エネ・温熱快適性を重視する新築や高断熱高気密住宅では第1種も考慮されます。

まとめ — 第3種換気を選ぶ際のチェックリスト

  • 計画換気量(法規・目標値)を満たすか?
  • 給気口の配置・数・フィルタ対策は適切か?
  • 住宅の気密性と実際の給気確保の両立ができるか?
  • 燃焼機器との同時運転時の安全は確保されているか?
  • 熱負荷や快適性(冷暖房負荷)を許容できるか?

第3種換気はコストとシンプルさで利点がある一方、給気の制御性や空気質で弱点がある方式です。設計段階での十分な計画と施工・維持管理により、実用的で安全な換気計画を実現できます。

参考文献