和声機能分析(機能和声)の徹底ガイド:原理・手順・実例で学ぶトニック・プリドミナント・ドミナント

はじめに — 和声機能分析とは何か

和声機能分析(機能和声、functional harmony/機能和声学)は、調性音楽におけるコード(和音)が持つ役割=機能(トニック、プリドミナント、ドミナントなど)に着目して和声進行を理解・記述する手法です。単に和音の名称や構成音を示すだけでなく、楽曲の調性的重心や緊張・解決の仕組みを明確にするため、作曲・編曲・分析・教育に広く利用されます。

歴史的背景

機能和声の概念は19世紀のドイツの音楽学者フーゴ・リーマン(Hugo Riemann)による理論化が源流です。リーマンは和音をその調性における機能(主音に対する役割)で分類し、トニック(T)、ドミナント(D)、サブドミナント(S)などの表記法を広めました。20世紀にはアルノルト・シェーンベルクらの和声理論や、教科書的整理(Walter Piston、Aldwell & Schachter、Kostka & Payne など)を経て、教室での標準的な分析法として定着しました。

基本概念:三つの主要機能(T・S・D)

  • トニック(T, tonic):安定の中心。I(イオニア)やvi(下属相)など、楽曲の「帰着点」を担う和音。曲の始まりや終止に多く現れる。
  • プリドミナント/サブドミナント(S, subdominant/predominant):緊張を生み出し、ドミナントへ向かう橋渡しの機能。IVやiiなどが典型例で、進行を次の段階へ導く。
  • ドミナント(D, dominant):強い緊張と解決欲求を持つ機能。VやV7、あるいは属和音に由来する二次的な属(V/iiなど)が含まれ、トニックへの解決(終止)を誘発する。

これら三つの機能が相互に作用することで、調性感と進行のストーリーが生まれます。分析では和音をローマ数字(I, ii, Vなど)で表し、機能を併記して理解を深めます。

ローマ数字と表記の基礎

和声分析ではローマ数字(大文字=長和音、小文字=短和音)を用いて和音を示します。例えばハ長調であれば、I= C(C E G)、ii = Dm(D F A)、V = G(G B D)などです。転回形は上付き数字やスラッシュ表記(I6, V6/5, I64 など)で示します。二次和音(転調や借用和音)には斜線で目的の機能を示すことが多く、V/iiは「ii(仮の調)に対する属和音」を意味します。

典型的な進行と終止

  • I - IV - V - I:基本的なトニック→サブドミナント→ドミナント→トニックの流れ。
  • ii - V - I:ジャズやクラシックでも基本となるプリドミナント→ドミナント→トニックの進行。
  • 終止の種類:完全終止(V→I、強い解決)、半終止(任意の和音→V、未解決の印象)、変格終止(IV→Iなど、穏やかな終止)など。

二次機能(応用とその例)

実際の楽曲では、主調の外からやってくる“適用和音”(applied chords / 二次属和音)や借用和音(モード借用)、和声的代理(代用和音)などが頻繁に登場します。代表例:

  • 二次ドミナント(V/x):目的和音xに対する属和音。例えばCメジャーでV/ii = A7(A C# E G)は、ii(Dm)へと導く。
  • ネアポリタン和音(N6):♭IIの大三和音(通常第二音を半音下げて構成)で、前主和音やドミナントへ特異な色彩を与える。
  • 増六の和音(augmented sixth):ドミナントへの強い導音効果を持ち、古典派以降に多用される。
  • 代用和音:例えばトニックの代わりにviが使われる、IVがiiに置換されるなど、機能的に代替されるケース。

転調と機能の移行

転調(モジュレーション)は分析上、どの時点で新しい調が確立されるかを判断する必要があります。二次属や借用和音は一時的な色付けに留まる場合もありますが、属和音が完全終止をもたらすと新しい調が確立したと見なされます。機能和声分析はこの「いつ新しいトニック(T)が成立するか」を明快に示す助けになります。

具体的な分析手順(実践的プロセス)

  1. 調性(Key)の決定:曲全体または部分の主音と調号、メロディの終止感から判定。
  2. 和音の同定:各拍や和声の変化点ごとに和音を割り出し、ローマ数字で記述。
  3. 機能の振り分け:各和音をT/S/Dのどれに属するか判断。二次機能にはV/x表記を用いる。
  4. 進行の解釈:終止や転調の有無、代理和音や借用の指摘を行う。
  5. まとめ:楽曲の「緊張―解決」のストーリーを文章化し、和声の役割を整理する。

実例(テキストでの簡単な示し方)

例:Cメジャーでの進行 I – vi – ii – V7 – I は、 トニック(I)で開始 → トニックの代用であるviへ移行(穏やかな変化)→ プリドミナントのiiでドミナントへの準備 → V7で最大緊張 → Iで解決、という典型的なポピュラー/クラシックで多用される流れです。

和声機能分析の利点と限界

  • 利点:調性感の把握、和声的緊張と解決の構造化、作曲/編曲上の応用指針(代替進行や転調ポイントの発見)に有用。
  • 限界:モーダル音楽、印象派のような機能性を逸脱する和声、近現代の無調音楽や一部のポピュラー音楽では必ずしも有効でない。和声の色彩的側面(音色、オーケストレーション、リズム)を無視しがちである点も留意が必要。

分析を深めるための実践的アドバイス

  • まずは短いフレーズを選び、1小節ずつ丁寧に和音を特定する練習を繰り返す。
  • ローマ数字に機能名(T,S,D)を併記し、和音の役割を常に意識する。
  • 二次和音や借用和音に出会ったら、その目的(導入/色彩/転調)を考える。
  • 複数の解釈があり得ることを受け入れ、理由を明示して分析する習慣をつける。

学習教材と参考手段

基礎書(和声学の教科書)、楽曲スコアの写譜・分析、耳トレ(コード進行の聞き分け)を組み合わせることが効果的です。クラシックだけでなくジャズ、ポピュラー音楽の進行を比較することで、機能の多様な表れ方を学べます。

まとめ

和声機能分析は、調性音楽の内部構造を理解する強力なツールです。トニック、プリドミナント、ドミナントという機能に着目することで、和音の役割や楽曲の張りと緩和の流れを明確に把握できます。一方で、すべての音楽に万能ではないため、他の分析視点(モード、リズム、テクスチャ、編曲効果など)と併用することが重要です。

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参考文献