FETとは何か—音響機器での使われ方と設計の要点
はじめに
録音・ライブ・楽器アンプ・アウトボード機器などのオーディオ世界で「FET」という語は頻繁に出てきます。FETはField-Effect Transistorの略で、電界効果を使って電流を制御する半導体デバイスです。本コラムでは、FETの基礎特性から音響機器における具体的用途(プリアンプ、DI、コンプレッサ、ギター回路等)、回路設計上の注意点、そして音質的な特徴までを、技術的な基礎と実務目線の両方で掘り下げます。
FETの基本(仕組みと代表的な種類)
FETはゲート(G)、ドレイン(D)、ソース(S)という3つの端子を持ち、ゲートに印加される電圧でソース—ドレイン間の電流を制御します。代表的な種類は以下の通りです。
- JFET(Junction FET): p-n接合でゲートが形成される。高入力インピーダンスでアナログ音響回路で多用される。
- MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor FET): 絶縁膜(酸化膜)でゲートが分離され、非常に高い入力インピーダンスを持つ。パワーアンプ分野でも広く使われる。
- 補足的分類: 増幅動作により「共通ソース(common source)」「ソースフォロワ(source follower)」などの使い方があり、動作領域はカットオフ・線形(オーミック)・飽和(ピンチオフ)に相当します。
音響機器でのFETの長所・短所
オーディオ用途でFETが好まれる理由は次の点に集約されます。
- 高入力インピーダンス: 楽器のピックアップやコンデンサマイクへのインターフェースで信号を死なせにくい。
- ソフトクリッピング傾向: JFETは過負荷時に比較的音楽的な歪み(偶数次高調波が豊か)を生むことがあり、チューブ的な振る舞いを模したい回路で有利。
- 小型・低電圧動作: ヘッドルームを確保しつつも小型機器で扱いやすい。
一方で注意点もあります。
- 温度依存性や部品バラツキ: バイアス点がずれやすく、設計でのトラッキング・調整が必要。
- 入力容量: 特にMOSFETはゲート容量が大きく、高周波特性や位相に影響を与えることがある。
- ノイズ特性の違い: ソース抵抗やバイアス条件によりノイズ最適点が変わるため設計が重要。
主要な音響用途とその動作原理
ここでは具体的な機器カテゴリごとにFETの役割を説明します。
1) マイクプリアンプ・ライン入力
マイクプリアンプや高インピーダンス入力回路ではJFETやMOSFETを入力段に使うことがあります。高入力インピーダンスによりダイナミックマイクやピックアップの駆動に優しく、微小信号の扱いで低歪みかつ自然なトーンを得られることが多いです。一般的にはJFETを差動入力や単段増幅に用い、ソース抵抗とカレントソースで安定化します。
2) FETコンプレッサ(例: 1176タイプ)
FETコンプレッサはFETを可変抵抗素子として使い、ゲインリダクション(信号のアッテネーション)を行います。代表例としてUrei/Universal Audioの1176が有名です。FETはオーミック領域でVgsによりチャネル抵抗が変化するため、電圧制御の抵抗として高速に動作し、アタック・リリースの応答が速く音楽的な挙動を示します。1176系の特徴的な「アグレッシブだが音楽的な」コンプレッションは、FETの非線形特性と回路設計(フィードバック・アタック回路)の組合せによるものです。
3) ギターアンプ・エフェクター
ギター回路ではFETを使って真空管ライクな歪み特性を狙うケースが多くあります。JFETはクリッピングの立ち上がりが緩やかで『チューブっぽさ』を持ち、ソースフォロワやゲインステージ、クランチ領域で活用されます。一方でMOSFETは特性が異なるため、回路設計次第でよりパンチのある応答にできます。
4) DIボックス・ハイインピーダンス入力
楽器用のDI(ダイレクトボックス)や高インピーダンスのバッファ回路にはFET入力のバッファが多用されます。高入力インピーダンスによりピックアップのロードを軽減し、トーンを保ちながらラインへ接続できます。
FETを用いた代表的回路トポロジーと実際の動作
設計現場でよく使われる基本回路を簡潔に説明します。
- 共通ソース(高ゲイン): 入力でVgsを変化させるとドレイン電流が大きく変わるため電圧増幅段として用いる。負荷にカレントソースや抵抗を置く。
- ソースフォロワ(バッファ): 電圧利得がほぼ1だが出力インピーダンスが低くドライブ能力に優れるため、後段への負荷軽減に有効。
- カスコード: 帯域とCgd(ゲート-ドレイン容量)由来のミラー効果を改善し、高周波特性を向上させる。
- FETを可変抵抗として使う: コンプレッサやアッテネータで、FETをオーミック(線形)領域に保ちゲート電圧で抵抗値を制御する手法。制御電圧は検出回路(エンベロープ検出器)から供給される。
設計上の重要ポイント(実務的注意)
設計やトラブルシュート時に特に注意すべき点を列挙します。
- バイアス安定化: FETの個体差や温度変化により動作点がずれるため、自己バイアス回路や温度補償を考慮する。
- 入力容量の影響: 特にMOSFETはゲート容量が大きく、ソースやゲイン段の帯域や位相に影響を与える。高周波での安定化や回路配線を慎重に。
- ノイズ対策: JFETは高インピーダンスで低ノイズだが、ソース抵抗や配線、接地がノイズに関与する。グランドループ回避や電源のデカップリングは必須。
- 保護回路: ラッチアップや静電気に対する脆弱性があるため、入力に保護抵抗やダイオードを入れることが多い。
- 部品選定: 同一回路でもFETの品種を変えると音色やヘッドルームが変わることがあるため、試作段階で複数のFETを比較するのが良い。
FETと真空管/バイポーラ(BJT)との比較
よく話題になる比較を整理します。
- 入力インピーダンス: FET(特にMOS)は非常に高く、チューブに近い使い方が可能。BJTは入力インピーダンスが低め。
- 歪み特性: BJTは奇数次高調波が出やすく硬めのクリッピング傾向、FETはより偶数次成分が豊かなソフトクリッピング傾向を示すことが多い。真空管は特に偶数次高調波が多く、暖かみのある音色と言われる。
- 利得とノイズ: 真空管は高い出力インピーダンスと独特のリニアリティを持つ。現代の低ノイズFETはトランジスタと組み合わせて優れた性能を発揮する。
計測とファクトチェックのポイント
設計や選定の際は以下の測定で性能を確認するとよいです。
- THD(全高調波歪み)対レベル曲線: 過渡や飽和における音色評価に有効。
- S/N比・等価入力雑音(EIN): マイクプリアンプなど微小信号回路で重要。
- 入力/出力インピーダンスと周波数特性: 音質と安定性に直結する。
- 温度ドリフト測定: 長時間使用でのバイアス変化を確認。
実践的な使い分け・おすすめの適用例
- 透明で高インピーダンスが欲しい場面: JFET入力のDIやバッファ。
- 速いアタックと特徴的なコンプサウンドが欲しい場面: FETコンプレッサ(1176タイプ)の採用。
- ギターアンプで管ライクな歪みを狙う場面: JFETを前段に使ってソフトクリッピング的な挙動を設計。
- パワー段や電源制御が重要な場面: MOSFETの採用(ただし音響用の小信号設計では特性確認が必要)。
まとめ
FETは音響機器において非常に汎用性が高く、設計次第で自然な温かみやパンチ、早い応答性など多様な音色を引き出せます。ただし部品の個体差・温度依存・入力容量などエンジニアリング的な配慮が欠かせません。プリアンプやコンプレッサ、ギター回路といった主要用途を理解し、実測(THD、EIN、周波数特性等)で確認しながら最適なFETと回路トポロジーを選ぶことが重要です。
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参考文献
- Wikipedia: 電界効果トランジスタ(FET)
- Wikipedia: MOSFET
- Universal Audio: What is an 1176?(1176コンプレッサの解説)
- Sound On Sound: FET compressors(FETコンプレッサの技術解説)
- All About Circuits: MOSFET operation(技術資料)
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