音楽の「平準化」とは何か — ストリーミング時代に広がる均質化の実態と対策

はじめに:平準化(均質化)という言葉の意味

ここでいう「平準化」は、音楽の多様性が失われ、楽曲や制作手法、曲構成、音量感や音色が似通っていく現象を指します。近年はストリーミング配信の普及、プレイリスト文化、制作のデジタル化、ソーシャルメディアによる短尺コンテンツの流行などが重なり、結果として「どこで聴いても似たような曲ばかり」と感じられる場面が増えています。本稿では原因、具体的な現象、影響、そしてクリエイターやリスナーが取れる対策まで、できるだけ広範かつ検証可能な情報をもとに掘り下げます。

1. 平準化は本当に起きているのか? — データが示す傾向

音楽の変化を定量的に扱った研究は複数あり、ある程度の傾向が示されています。代表的な研究では、1960年代以降のヒット曲の音響的特徴(音色、テンポ、和声、ダイナミクスなど)を分析し、楽曲がより似通ってきたこと、平均ラウドネスの上昇やテンポの収束、楽曲構造の共通化が確認されたことが報告されています(研究例は参考文献参照)。

ただし「平準化がすべてのジャンルで一様に進んでいる」という単純な結論は避けるべきです。ジャンルや市場、制作環境によって差が大きく、メジャーな商業シーン(チャート志向のポップス)で特に顕著に見られる傾向です。

2. 平準化の主な原因

  • ストリーミングとプレイリストの支配力: ストリーミングは再生回数やスキップ率をそのまま評価指標に変換します。プレイリスト収録の影響で、短いイントロ、分かりやすいサビ、ループしやすいブリッジといった“プレイリスト最適化”が制作段階で意識されるようになりました。
  • アルゴリズムとデータドリブンなA&R: アルゴリズムは過去の再生データに基づいて類似曲を推薦するため、成功した曲の特徴が標準化されやすく、制作現場がそのテンプレートを踏襲するフィードバックループが生まれます。
  • 音量(ラウドネス)とノーマライズの影響: サブスク各社が再生時に音量を平準化するルールを持つため、極端なラウドネス競争の抑制や、特定のダイナミックレンジが目立つようになり、マスタリングの傾向が均質化します。
  • デジタル制作のテンプレート化: DAWやプリセット、ループ素材、テンプレートを利用した効率化が進み、初心者からプロまで共通の音作りパターンが使われやすくなっています。
  • 短尺コンテンツの影響(TikTok等): 短いクリップでバイラルになりやすいフック(ワンフレーズのティーザー的要素)が重視され、楽曲全体の構造がそれに合わせて変化する傾向があります。
  • 経済的圧力: レーベルや配信サービスの収益構造がヒット狙いの意思決定を促し、安全策として既存の成功パターンを踏襲するインセンティブが働きます。

3. 平準化がもたらす具体的な現象

  • 楽曲構造の類似化(イントロの短縮、サビの早期到達、曲長の短縮)
  • 音色やミックスの傾向(トレンドとなるシンセ音、同じようなリバーブ/コンプの使い方)
  • メロディやコード進行の似通い(特定のパターンに依存)
  • ダイナミクスの圧縮(ラウドネスだけでなく瞬間的な表現の抑制)
  • ニッチな表現や実験的手法が主流に入りにくくなる

4. 良い面・悪い面:平準化の二面性

平準化には負の側面が目立ちますが、利点も存在します。

  • 負の側面: 文化的多様性の減少、創造的リスクの回避、リスナーの“飽き”や感動の希薄化、既存の表現に挑戦するアーティストが資本面で不利になる可能性。
  • 正の側面: 一般リスナーにとっての入り口が増えること、クオリティコントロール(一定水準の音質や聞きやすさ)の普及、新人が最低限のクオリティで世に出せる技術的敷居の低下。

5. クリエイター向け:平準化とどう向き合うか

制作側がとるべき戦略は多層的です。以下は実践的なアプローチです。

  • 目的を明確にする: 商業的ヒットを狙うのか、アート的探求を重視するのか、あるいはその両立を図るのか。目的に応じて制作手法や配信戦略を変える。
  • 音響的差別化: ユニークな音色設計やアコースティックな要素の導入、伝統楽器や未加工音の活用で差を作る。
  • ストーリーテリングとパーソナリティ: 音だけでなく歌詞やアーティストの物語性を強化することで、アルゴリズムでは再現しにくい魅力を生む。
  • マスタリング戦略: 各配信サービスのノーマライズ仕様を理解し、ラウドネスだけに頼らないダイナミクス設計を行う(最大音量を上げるだけでなく、楽曲の強弱を意図的に設計)。
  • 複数のリリース戦略: フルアルバム、シングル、リミックス、ライブ音源などを組み合わせることで、同一プロジェクト内でも多様性を保つ。
  • コミュニティ作り: データに頼らないファンベースを育てる。ライブやサブスク以外の収益源(グッズ、会員制)を確立して制作の自由度を保つ。

6. リスナー/キュレーター向けの視点

リスナー側も平準化を緩和する力を持ちます。

  • 能動的に探索する: アルゴリズム任せにせず、ジャンル外やローカルなレーベル、インディシーンを自分で探索する。
  • プレイリストの多様性を意識する: 編集型プレイリストやコミュニティキュレーションを支持することで、アルゴリズム偏重の流れに一石を投じる。
  • ライブや物理メディアを重視: 現場体験や限定盤など、配信だけでは伝わらない価値を評価する。

7. 技術やプラットフォームに期待される改善点

プラットフォームやツール側にも責任があります。以下のような取り組みが効果的です。

  • 推薦アルゴリズムの多様化: 類似性だけでなく、意図的に異質な推薦を混ぜる多様性指標の導入。
  • メタデータの充実と公開: ジャンルや参加ミュージシャン、制作手法などの詳細メタデータを公開し、発見性を高める。
  • フェアな収益配分: リスクを取るクリエイターが報われる収益モデルの検討(例:ファン直接支援や限定リリースを奨励する設計)。

8. まとめ:平準化と共存する現実的な視点

平準化は技術進化と経済構造が生んだ副産物であり、完全に否定すべき現象ではありません。利便性や新規リスナー獲得というプラス面もあります。一方で文化的多様性の維持は長期的な健全性に不可欠です。クリエイター、リスナー、プラットフォームそれぞれが役割を自覚し、小さな実践を積み重ねることで、多様性と普遍性のバランスを保つことができます。

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参考文献