ゴルフ場で考えるセントオーガスティングラスの特性と現場管理:メリット・デメリットと実践ガイド

はじめに:ゴルフと芝草の選択

ゴルフ場の芝草選定は、プレーの質、維持管理コスト、地域気候、塩害や日陰の有無など多くの要素を勘案して行われます。セントオーガスティングラス(Stenotaphrum secundatum、一般的には「セントオーガスティン」や「セントオーガスティングラス」と表記)は、温暖な沿岸域で広く使われる暖地型芝草で、ゴルフ場においても特定の用途で採用されます。本稿では、ゴルフ場運営者や芝管理者、趣味でゴルフ場に関心のある読者向けに、セントオーガスティングラスの特徴、ゴルフ場での適性、具体的な管理方法、病害虫対策、導入上の注意点などを詳しく解説します。

セントオーガスティングラスとは

セントオーガスティングラスは、学名 Stenotaphrum secundatum に分類される暖地型の多年生草本で、主に stolon(匍匐茎)によって広がります。葉は比較的幅広で粗めのテクスチャーを持ち、濃い緑色を呈します。種子による繁殖は一般的ではなく、商業的にはソッド、プラグ、スプリッグ(匍匐茎)での導入が主流です。

地理的分布と適応性

主にアメリカ南部(フロリダ州沿岸部やメキシコ湾岸)、南カリフォルニア、オーストラリア、熱帯・亜熱帯地域で広く使用されています。暖地型で耐寒性は低めですが、耐塩性や遮光下での生育性に優れるため、海岸近くや樹木の多いエリアでの利用価値が高い芝草です。

ゴルフ場における適性(どのエリアに向くか)

  • 向いている場所:ラフ、シードバンカー周辺、カジュアルエリア、コース周囲の景観エリア、日陰の強いティー周辺など。耐塩性と遮光適応性を活かせる場所に適する。
  • 不向きな場所:グリーンや低刈りのフェアウェイ。葉が太く、高密度での低刈り時の球の転がり(ロール)を得にくいこと、また耐踏圧性や回復力が暖地型バミューダグラス等に劣る点が理由。

芝質・プレーへの影響

セントオーガスティングラスは葉が比較的粗いので、グリーンやトーナメント仕様のフェアウェイのような低刈りでの高速なボールロールを求める用途には向きません。一方、ラフとして使用する場合は、ボールの見えやすさやスピンのかかり方、プレーヤーへの難易度設定に利用しやすく、樹陰下でも緑色を保ちやすいという利点があります。

管理の基本:刈高・頻度・刈り方

  • 刈高:一般的な芝地での適正刈高はおおむね6〜10cm程度(家庭用や景観用途)。ゴルフ場でラフに用いる場合はさらに高めに設定することが多く、低刈りのフェアウェイ運用には適しません。
  • 刈り方:ストレスを与えないために一度に刈る高さの変化は小さくし、適正な頻度で刈り込むこと。粗い葉質のため刈りカス(サッチ)が溜まりやすく、定期的なサッチ管理を推奨。

灌水と乾燥耐性

セントオーガスティングラスは他の暖地型芝草と同様に乾燥耐性はある程度ありますが、良好な見た目と回復力を維持するには定期的な灌水が必要です。特に夏季の高温期や風が強く乾燥しやすい海岸地域では水切れに注意します。乾燥が続くと葉が枯れて休眠状態に入り、回復に時間がかかる場合があります。

土壌・施肥

やや酸性〜中性の土壌を好みますが、幅広い土壌pHで生育可能です。肥料は窒素を中心とした追肥が重要で、春から秋にかけて分割施肥を行うのが基本。過剰施肥はランナーの過剰生長やサッチの増加を招くため、土壌診断に基づいた施肥設計を推奨します。

サッチとエアレーション(通気)

匍匐茎での繁茂によりサッチ(茎葉の堆積)が溜まりやすい特性があります。サッチが厚くなると根の呼吸や水・肥料の浸透が阻害されるため、定期的なエアレーションやデトッチング(サッチ除去)、必要に応じた目土(トップドレッシング)が重要です。ゴルフ場ではオフシーズンやプレー影響の少ない時期に計画的なエアレーションを実施します。

主要な病害虫と対策

  • チャインチバグ(chinch bug, Blissus insularis):セントオーガスティングラスに特に被害を与える代表的な吸汁害虫で、局所的な褐色斑を生じる。発生時は被害部の除去や薬剤防除、発生前後の健全な管理(適切な灌水と施肥)で耐性を高める。
  • 葉枯れ病やブラウンパッチなどの真菌性疾患:高温多湿時に発生しやすい。過剰灌水や通気不良を避け、病徴が出たら速やかに診断の上で薬剤防除や文化的防除(エアレーション、サッチ除去)を行う。
  • 線虫や根腐れ類:排水不良や長期の過湿が誘因となるため、排水管理が重要。

代表的な品種と選び方

市販されている代表品種には〈Floratam〉〈Palmetto〉〈Raleigh〉〈Seville〉などがあります(品種により耐寒性、耐病性、葉質、成長速度に差がある)。ゴルフ場で採用する際は、目的(ラフ・景観帯・海岸帯など)と現地の気候条件、メンテナンス能力を踏まえて品種を選ぶことが重要です。例えば耐寒性を重視する地域ではRaleigh系を検討するなど、地域の試験結果や延長機関のデータを参考にすることを推奨します。

導入方法:ソッド、プラグ、スプリッグ

セントオーガスティングラスは種子での普及が一般的ではないため、ソッド(芝張り)やプラグ(株張り)、スプリッグ(匍匐茎断片)で導入します。ゴルフ場のような高品質を求める場所では、均一で早期に被覆を得やすいソッドが好まれますが、コストや施工期間の制約からプラグやスプリッグでの拡張・補修も一般的です。

メリット・デメリット(ゴルフ場目線)

  • メリット:耐塩性と遮光適応性が高く、海岸近くや樹陰下での維持がしやすい。景観性に優れ、ラフでの使用はプレー難度調整に役立つ。
  • デメリット:葉が太く低刈りに向かないため、グリーンや低刈りフェアウェイに不適。サッチが溜まりやすく、定期的なエアレーションやデトッチングが必要。チャインチバグ等の害虫被害を受けやすい。

ゴルフ場管理者への実践アドバイス

  • 用途を明確に:グリーンやトーナメント仕様のフェアウェイには適さないことを前提に、ラフや景観帯、海岸エリアなど適材適所で採用する。
  • 定期的なサッチ管理:サッチ除去・エアレーションは年間計画に組み込み、根の健全性を維持する。
  • 害虫早期発見:チャインチバグ等は局所的に被害が急拡大するため、定期的な巡回と発生初期の対処を徹底する。
  • 土壌診断に基づく施肥設計:過剰施肥は問題を招くため、土壌試験の結果を反映した施肥計画を行う。
  • 導入前の試験区:新しい品種や管理手法は小面積で試験運用し、実環境での挙動を確認してから全面導入する。

まとめ

セントオーガスティングラスは、暖地帯の海岸地域や日陰の強いエリアにおいて非常に有用な芝草です。ゴルフ場においては主にラフや景観帯、海側のエリアで力を発揮しますが、葉質や低刈り適性、サッチの発生傾向、害虫被害のリスクを踏まえた管理計画が不可欠です。導入に際しては目的に合った品種選定、適切な灌水・施肥・サッチ管理、定期的なモニタリングを行うことで、プレー品質と維持費用のバランスを取ることができます。

参考文献