EQ曲線の読み方と実践テクニック:周波数・Q・位相を理解してミックスを向上させる

はじめに — EQ曲線とは何か

EQ(イコライザー)曲線は、周波数(横軸)に対してどれだけの増幅または減衰(縦軸:dB)が行われているかを視覚的に示すグラフです。DAWやハードウェアのEQプラグインが表示するこの曲線を読むことで、音の性質を即座に把握し、目的に応じて調整できます。EQは単なる“音を明るくする”ツールではなく、周波数帯ごとの役割や位相の影響を理解して使うことで、ミックスの明瞭さやパンチ、空間感を大きく改善します。

EQ曲線の基本要素

  • 周波数(Frequency): 横軸は一般的に対数スケールで表示され、20Hz(サブベース)から20kHz(超高域)までをカバーします。
  • 利得(Gain): 縦軸はdBで表示され、プラスはブースト、マイナスはカットを示します。
  • Q(帯域幅・クオリティファクター): ピークの鋭さを示す指標で、Qが高いほど狭い帯域に作用します(外科的処置向き)。
  • フィルタータイプ: ローカット(HPF)、ハイカット(LPF)、シェルビング、ピーキング(ベル)、ノッチなど。

EQ曲線を読み解く(視覚と耳の連携)

曲線を読むだけで音が完全にわかるわけではありませんが、特定の帯域に目立ったディップやピークがあると、それがマスキングや不快感の原因である可能性が高いです。視覚情報は“どこを探せばいいか”のガイドになりますが、必ずA/Bで耳による確認を行ってください。高精度なスペクトラムアナライザーを併用すると、持続的なピークや低域の蓄積を確認しやすくなります。

主要なフィルターとその曲線特徴

  • ローカット(HPF)/ ハイカット(LPF): 片側が滑らかに下がる曲線。サブソニックな不要低域の除去やシンセの不要高域の削減に使う。傾斜は6/12/18/24dB/octなど。
  • シェルビング: ある周波数から上(または下)を一定量ブースト/カットする。ブロードに音色を変える際に有効。
  • ベル(ピーキング): 中心周波数を軸にブースト/カットする典型的な山または谷。Qで幅を調整でき、狭ければノッチに近く、広ければ音楽的な色付けに。
  • ノッチ(バンドストップ): 非常に狭いQで特定周波数を強力にカット。ハム(50/60Hz)や共振の除去に使う。

Q(帯域幅)の理解 — どのくらい狭くすべきか

Qは「どれだけの周波数幅に影響を与えるか」を決めます。ボーカルの明瞭感を出す場合は広めのQで軽く持ち上げることが多く、ハウリングや金物の耳障りな共振を取る場合は非常に高いQ(狭い帯域)で削ります。ただし極端に高いQでのブーストは位相変化やピークを生み、不自然に聞こえることがあるため注意が必要です。

位相(フェーズ)とEQ曲線

EQは位相に影響を与えます。一般的なアナログ/デジタルEQは最小位相(minimum-phase)であり、フィルターは位相シフトを伴います。これが問題になるのは、複数のマイクを使った収録での位相干渉や、極端なEQで音のアタックやステレオ感が変わる場合です。線形位相(linear-phase)EQは位相整合を保ちますが、プリリンギング(過去方向の前鳴り)やレイテンシー、過度のエネルギー集中というトレードオフがあります。用途に応じて使い分けましょう。

音楽ジャンル別・楽器別の周波数ガイドライン(目安)

  • キック: 40–100Hz(サブ/パンチ)、100–250Hz(温かみ)、2–5kHz(アタック)
  • ベース: 40–120Hz(低域)、700–1.5kHz(存在感)
  • スネア: 120–250Hz(太さ)、2–6kHz(スナップ)
  • ボーカル: 80–200Hz(低域のムダ)、1–3kHz(明瞭さ)、5–10kHz(空気感)
  • ギター: 80–250Hz(ボディ)、1–4kHz(弦の存在)

これらはあくまで出発点です。楽曲やアレンジ、演奏スタイル、マイクや録音環境で大きく変わります。

EQの実践テクニック

  • カットはブーストより先に: 不要な要素を切ってから必要な帯域を調整する。カットはミックスをすっきりさせる最も効果的な手法です。
  • スイープ法: 高Qで大きくブーストして耳障りな周波数をスイープし、見つけたらその周波数をカットしてQを調整する。
  • 相対的なスペース作り: 他のトラックと衝突する帯域を見つけて片方をカットすることで、個々の楽器が共存できる帯域を作る(マスキングの解消)。
  • 低域の整理: 低域はエネルギーを持つため、各楽器のローカットポイントを設定して不要な重なりを避ける。
  • 耳の疲れを避ける: 高域の微調整は+1〜2dBの微小な動きが大きく聞こえることがある。大きく動かす前に小さな変化を確認。

ダイナミックEQとマルチバンドの活用

ダイナミックEQは特定の周波数帯を一定の条件下で自動的に抑える(または上げる)ツールで、コンプレッサーの帯域指定版とも言えます。過剰なシビランス(sibilance)や瞬間的な共振に対して有効です。マルチバンドコンプレッサーは帯域ごとに圧縮を行い、幅広いコントロールを提供します。どちらも音色を損なわずに問題帯域をコントロールするための強力な手段ですが、過度に使うと音が平坦になりがちなので目的を明確にして使用しましょう。

よくある間違いと注意点

  • 視覚だけに頼る:スペクトラムが示す姿と耳で聴こえる印象は必ずしも一致しない。
  • 過度なブースト:+6〜+10dBの大きなブーストは位相やクリッピングの原因になりやすい。まずはカットで解決を試みる。
  • ローカットを忘れる:トラック個別にローカットを設定しないと低域が濁る。
  • ルームとモニター環境を無視:不適切なモニター環境はEQ判断を誤らせる。参照トラックを用いること。

耳と測定のバランス — 参照と音量

人間の聴感は音量によって周波数感度が変わります(イコールラウドネス曲線/Fletcher–Munson)。そのため、ミックス時は複数の音量で確認し、参照トラック(商業リリースの曲)と比較しましょう。また、長時間のリスニングで耳が疲れてきたら短時間休憩を入れるか、低音をチェックするためにサブウーファーや車での再生も行ってください。

まとめ — EQ曲線を読む力を高めるために

EQ曲線は視覚的なヒントを与えてくれますが、本質は耳での判断です。Q、利得、フィルタータイプ、位相といった基本を理解し、実践でスイープ法やカット優先の原則を身につけることが近道です。ダイナミックEQや線形位相EQなどツールの特性も使い分けられるようになると、問題解決の幅が広がります。最終的には良いモニター環境と参照曲、多様な再生環境でのチェックが優れたミックスを生みます。

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参考文献