フォレストサイケデリックとは?自然と幻覚が交差する音楽の系譜と制作法

フォレストサイケデリックとは何か

「フォレストサイケデリック」という語は定義が一本化されているわけではありませんが、概ね〈森(自然)〉と〈サイケデリックな音響・体験〉が結び付き生まれる音楽的傾向や美学を指します。大きく分けると、1) 1960〜70年代のサイケデリック/フォークの系譜を受け継ぐインディー/フォーク寄りの流れ(いわゆるアシッド・フォークやフリーク・フォーク的な側面)、および2) サイケデリック・トランス(Psytrance)系のサブジャンルとしての『フォレスト(forest)』スタイル、という二つの文脈が並存します。それぞれの音楽的特徴、歴史的背景、制作手法を整理すると、フォレストサイケデリックという言葉の輪郭が見えてきます。

歴史的背景と系譜

フォレストサイケデリックのルーツは、まず1960年代後半から1970年代初頭のサイケデリック・フォークやアシッド・フォークに求められます。自然や田園風景、民俗音楽的要素をサイケデリックな感性で再解釈した作品群は、ヴァシティ・ブニャン(Vashti Bunyan)やComus、英国のフォーク系音楽などに見られます。これらは牧歌的・神秘的な歌詞、アコースティック楽器と不穏なアンサンブルを特徴としました。

1990〜2000年代以降には、フリーク・フォーク(freak folk)やサイケデリック・フォークの再興があり、デヴェンドラ・バンハートやJoanna Newsom、Espersなどが現代的な解釈を提示しました。一方、電子音楽/パーティ文化の文脈では、Psytranceの中に『Forest psy(フォレスト・サイ)』と称されるよりオーガニックで暗く、自然志向のサウンドが派生しました。これら二つは媒介する要素(フィールド・レコーディング、オーガニックなリズム、妖精的または神秘的な歌唱)を共有するため、総称として『フォレストサイケデリック』と呼ばれることがあります。

音響的・美学的特徴

  • 自然音とフィールドレコーディングの活用:鳥の声、風、木の軋み、水音などを楽曲に取り込み、リスナーの空間感覚を拡張する。
  • 有機的なテクスチャ:アコースティック楽器(ギター、ハープ、古い鍵盤楽器)と、アナログ的なシンセ/ノイズを組み合わせた混合音響。
  • 空間処理と残響:深いリバーブやプレート、コーラスで「森の奥行き」を表現する。
  • メランコリック/神秘的なメロディー:モード的な旋律や単純だが忘れがたいフックにより、瞑想的な雰囲気を作る。
  • 構造の曖昧さ:伝統的なヴァース/コーラス構造に縛られず、ドローン、ループ、反復でトランス的状態を誘引する。
  • リズムの多様性:フォーク寄りでは緩やかな拍子、フォレスト・サイ寄り(Psytrance)は有機的で複雑なビートやダイナミクスを伴う。

代表的なアーティストと参考作品

ジャンル横断的に影響力のある例を挙げます(「フォレストサイケデリック」と明示的に自称しているわけではない場合もありますが、様式・美学の例として有用です)。

  • Vashti Bunyan — Just Another Diamond Day(牧歌的で自然描写の強いフォーク)
  • Comus — First Utterance(ダークで民俗的なサイケ・フォークの代表)
  • Devendra Banhart / Joanna Newsom / Espers(2000年代のフリーク・フォーク勢)
  • Forest Swords(Matthew Barnes)— Engravings(ダウンテンポ/アンビエントに民俗的・自然的な要素を組み合わせた現代の好例)
  • Forest psy / forest trance 系アーティスト(クラブ/レイブ文脈での“森”ステージに掛かる、ダークで有機的なPsytrance)

制作・サウンドデザインの実践的ポイント

フォレストサイケデリックを制作する際の具体的な手法と注意点を挙げます。

  • フィールドレコーディングの収集:スマートフォンでも収録可能ですが、ショットノイズを抑えるために外部マイク(小型のステレオマイクやショットガン)を用意すると良い。環境音はループさせたり、フェードで接続してトラックの糸口にする。
  • 有機音とシンセのブレンド:アコースティック楽器のトラックに対し、アナログモジュレーション(テープディレイ、アナログモジュレーション)を加えると温かみと不確定性が生まれる。
  • 空間処理を重視する:長めのリバーブ、スローなディレイ、コンボリューション・リバーブを用いて森の奥行きを演出する。ただし低域が濁らないようハイパスやプリディレイで調整。
  • テクスチャ作り:フィールド録音を粒度を変えて重ねる(ピッチシフト、タイムストレッチ、逆再生)ことで非現実的な風景を作れる。
  • アレンジ:伝統的なソングライティングに固執しない。反復や徐々に変化するレイヤーでトランス的な没入を狙う。
  • ミックスの留意点:自然音が楽曲の“空気”を担うため、中〜高域の帯域管理とステレオ幅を意識し、ボーカルや主要楽器と干渉しないようサイドの処理をする。

ライブ/フェスティバルでの表現と文化

フォレストサイケデリックは録音作品だけでなく、屋外フェスや〈森のステージ〉と呼ばれる空間表現とも親和性が高いです。照明やヴィジュアルアート、会場の自然そのものを演出の一部として取り込むことで、音楽と環境が一体となった没入体験が生まれます。Psytrance系のフェスティバルでは“forest stage”が設けられ、より暗く有機的なセットが展開されることが一般的です。

批評的視座:エコロジーと商業化

自然や環境を音楽的モチーフとして用いることは、しばしばエコロジー的な感受性を刺激しますが、同時に商業化や観光目的での表象化という問題も孕みます。フェスが地域環境に与える影響や、自然イメージの消費化については注意深い議論が必要です。音楽制作の側面でも、現地の生態や文化を尊重したフィールドワークの倫理が問われます。

聴きどころと入門ガイド

フォレストサイケデリックに入るには、以下のような作品やアーティストを入口にすると理解が早まります(上で挙げた通りジャンル横断的)。録音で自然音がどう扱われるか、アレンジで空間をどう作るかに注目して聴くと良いでしょう。また、Psytrance系の“forest”セットをライブで体験すると、同ジャンルが持つ身体性や時間感覚の違いが分かります。

まとめ

フォレストサイケデリックは単一のジャンル名ではなく、〈自然/森〉と〈サイケデリック体験〉が結びつく多層的な音楽潮流の総称として捉えるのが実用的です。歴史的にはサイケデリック・フォークから派生し、現代ではフリーク・フォーク的表現とPsytrance系の『フォレスト』スタイルが並存します。制作技術としてはフィールドレコーディングの活用、空間処理、アナログ的テクスチャの融合が重要であり、音楽はしばしば視覚的・空間的演出とセットで機能します。自然をテーマにするからこそ、文化的・環境的責任についても意識する必要があります。

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参考文献