ナチュラルマイナースケール完全解説 — 理論・和声・実践テクニック
ナチュラルマイナースケールとは
ナチュラルマイナースケール(natural minor scale)は、長音階(メジャースケール)の第6音から始めるモードで、音楽理論ではアイオリアン(Aeolian)・モードとも呼ばれます。音程構成は全音・半音の順で「全・半・全・全・半・全・全」(W-H-W-W-H-W-W)となり、旋法上の第3・第6・第7が長音階より半音下がっているため、特徴的な“暗さ”や“憂い”を感じさせる音階です。ナチュラルマイナーは多くの伝統音楽、民謡、ロック、ポップ、映画音楽などで基礎的に使われます。
構造と音程(理論)
ナチュラルマイナーの音程を半音で表すと「2-1-2-2-1-2-2」です。例えば、Aナチュラルマイナーを例に取ると音は次の通りです。
- A(トニック)
- B(2度)
- C(短3度 = b3)
- D(4度)
- E(5度)
- F(短6度 = b6)
- G(短7度 = b7)
- A(オクターブ)
ナチュラルマイナーでは第7音が半音上がっていないため、和声学的には「導音(leading tone)」ではなく「下導音(subtonic)」と呼ばれます。このためドミナント(V)→トニック(i)への進行は、長調・和声的短音階で得られる強い解決感が弱く、独特の朧げな終止感を生みます。
和声的・旋律的短音階との違い
作曲や即興で短調を扱う際、ナチュラルマイナーに対してしばしば「和声的短音階(harmonic minor)」や「旋律的短音階(melodic minor)」が用いられます。これらはナチュラルマイナーの第7(および場合によって第6)を上げることによって、和声的なドミナントの強化や上行のメロディの滑らかさを確保するために使われます。
- 和声的短音階:第7を半音上げる(例:A→G#)。これによりV和音が長三和音になり、強いドミナント機能が生まれる。
- 旋律的短音階:上行では第6・第7を半音上げ、下行ではナチュラルマイナーに戻す(例:上行 A-B-C-D-E-F#-G#-A、下行 A-G-F-E-D-C-B-A)。)
コード構造と機能(ナチュラルマイナー上のダイアトニックコード)
ナチュラルマイナーの各音に基づくトライアド(三和音)を作ると、次のような和音の質が得られます(ローマ数字表記)。Aナチュラルマイナーを例に示すと:
- i(短三和音)— A C E(Am)
- ii°(減三和音)— B D F(B°)
- III(長三和音)— C E G(C)
- iv(短三和音)— D F A(Dm)
- v(短三和音)— E G B(Em)
- VI(長三和音)— F A C(F)
- VII(長三和音)— G B D(G)
これにより、ナチュラルマイナーはi–IV–Vといった長調で見られるような強いドミナント機能を欠く場合があり、代わりにIIIやVI、VIIといった和音が独特の色をもたらします。ロックやポップスではVI–VII–iやi–VII–VIのような進行が頻繁に使われます(例えば i–VII–VI–VII の輪唱的進行はヘヴィな雰囲気を演出します)。
音楽ジャンル別の使われ方
ナチュラルマイナーはジャンルごとに異なる使われ方をします。
- 古典音楽・宗教音楽:モード的な効果を狙った旋律や合唱で使用されることがある。歴史的には純粋なナチュラルマイナーだけでなく、前述のような副次的修正を伴うことが多い。
- フォーク/民謡:多くの民謡ではモード的(ナチュラルマイナーを含む)な旋律が素朴で定着した響きを作る。
- ロック/ポップス:b6・b7を用いたパワフルな進行(VI–VII–i など)が多用され、明確な“暗さ”や“壮大さ”を演出する。
- メタル/ハードロック:ナチュラルマイナーの音階を基盤に、和声的短音階のVや減5度のテンションを併用して攻撃的な響きを作る。
- 映画音楽:感情や陰鬱さを表現するため、ナチュラルマイナーのスケールがしばしば選ばれる。
作曲・アレンジでの実践的ポイント
ナチュラルマイナーを実際に作曲・アレンジに用いる際のテクニックを列挙します。
- 導音をどう扱うか:ナチュラルマイナーのb7(下導音)は優しい終止を生む。対して強い終止感が欲しいならVを長三和音にする(和声的短音階のG#などを採る)。
- モーダルなフレーズ:b6やb7を強調してモード色を濃くすると、古典的・民謡的な雰囲気が強まる。
- テンションとサスペンス:IIIやVII、VIを経由する進行は終止感を曖昧にし、展開部での不安感や広がりを作り出す。
- コード交換(モード借用):メジャー曲の中でVIやbVIIを借用すると、曲調に劇的な変化を与えられる(例:CメジャーからF(IV)ではなくFマイナー(iv)やAb(bVI)を使うなど)。
- ベースラインの動き:下行するベースライン(A–G–F–E のような)と組み合わせると、暗めのパワー感が生まれる。
実践練習課題
以下は演奏・作曲・即興に使える具体的な練習です。
- スケール練習:基礎はトニックからオクターブ上までの上下行練習。メトロノームを使い、アクセントやノンレガート、スラーを混ぜて表情を作る。
- モチーフ作成:ナチュラルマイナーのb6・b7を必ず含む短いフレーズ(4小節)を10個作る。異なるリズムで歌ってみる。
- コード進行:i–VII–VI–VII、i–iv–v、i–III–VII–VI 等を使って8小節のフレーズを作成し、ボイストリーディング(各声部の動き)を確認する。
- 即興:バッキングトラックを作り、ナチュラルマイナースケールだけで3分間ソロを続ける。後半は和声的短音階や旋律的短音階を混ぜて比較する。
和声分析のヒント
楽曲分析では「主要な和音がナチュラルマイナー由来か、修正(和声的・旋律的短音階)を含むか」を判定することが重要です。具体的には:
- 曲のV和音が長三和音か短三和音かを確認する(長三和音なら和声的短音階が使われている可能性が高い)。
- 上行旋律で6度や7度が上がるか下がるかを観察する(上行で上がるなら旋律的短音階の影響)。
- 終止の強さ:ドミナント→トニックの解決が強ければ導音の使用、弱ければナチュラルマイナーの純粋な使用と判断できる。
まとめ
ナチュラルマイナースケールは、音楽の“暗さ”や“哀愁”を表現するための基本的なツールです。和声的・旋律的短音階との比較、ダイアトニック和音の性質、ジャンル別の使われ方を理解することで、作曲や即興の表現力が大きく広がります。特にロックやポップスではb6・b7を活かした進行が効果的で、クラシックでは和声的修正によって機能和声を確保することが多く見られます。理論を理解したうえで耳で確認し、実際に演奏することが最も確実な学びにつながります。
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