アエオリアン・モード徹底解説:自然短音階の理論と実践的活用法
アエオリアンモード(Aeolian Mode)とは
アエオリアン・モードは、西洋音楽理論における7つの教会旋法(モード)のひとつで、現代の用語では「自然短音階(natural minor scale)」と同義に扱われます。例えばAアエオリアンは音階A–B–C–D–E–F–G–Aで、平行長調(相対長調)はCメジャーです。アエオリアンはメジャースケールの第6音から始まるモードでもあり、しばしば“第6旋法”とも呼ばれます。
音階の構造と音程パターン
アエオリアン(自然短音階)の音程パターンは、全音(W)・半音(H)を用いて「W–H–W–W–H–W–W」と表されます。具体的には基音を1とすると、長2度、短3度、完全4度、完全5度、短6度、短7度を含み、長7度(高い導音)は含まれません。この“導音が半音上がらない”という特徴が、独特の穏やかで落ち着いた、あるいは物憂げな響きを生みます。
ダイアトニック和音(三和音・7th)の構成
アエオリアンのダイアトニック・コードをローマ数字で表すと、三和音は次のようになります(例:Aアエオリアン):
- i(短) — A–C–E
- ii°(減) — B–D–F
- III(長) — C–E–G
- iv(短) — D–F–A
- v(短) — E–G–B
- VI(長) — F–A–C
- VII(長) — G–B–D
7thコードに拡張すると、i7(m7)、iiø7(ハーフディミニッシュ)、IIImaj7、iv7、v7、VImaj7、VII7(ドミナントではない色合いのセブンス)となります。重要なのは、自然短音階ではVが短三和音(v)であり、厳密な正格終止(完全終止)を得るために多くの作曲家は導音(♯7)を用いて和声的短音階(harmonic minor)や旋律的短音階(melodic minor)に手を伸ばすという点です。
旋法的特徴と旋律の傾向
アエオリアンの最も顕著な特徴は「導音が上行して半音上がらない」ことから生まれる、終止感の弱さと平行長調に対する拡張性です。メロディはしばしば平行移動する下降的なフレーズや、6度・7度の小刻みな動きを多用します。ここから〈物悲しさ〉や〈内省的〉な響きが生まれ、フォークや民族音楽、あるいは叙情的なポップスで好んで用いられます。
モード間の関係と転調・借用
アエオリアンは、メジャー・スケールの第6モードであるため、その相対長調と音名(調号)を共有します。このため、作曲や編曲では〈モード借用(modal interchange)〉が容易です。例えばメジャー曲にVI(平行短調のIII)やVII(属調的ではない副和音)を借用すると、即座に憂いを帯びた色彩が加わります。また、アエオリアンとドリアンの差は第6音の違い(アエオリアンは♭6、ドリアンは6)であり、この1音の変化で曲の性格が大きく変わります。
ジャンル別に見るアエオリアンの使われ方
アエオリアンは多くのジャンルで見られますが、使われ方が分かれます。
- 民族/フォーク:ドローン(持続音)や単旋律で自然短音階がそのまま用いられることが多く、旋律の素性として自然に聴き取れる。
- ロック/メタル:リフやパワーコード進行(i–VII–VIなど)はアエオリアンの典型的な響き。導音を上げないことで重厚で力強い響きになる。
- ポップ/映画音楽:メロウな情緒を出すために、アエオリアン的なコード(VI、VII)をアクセントに使うケースが多い。
- ジャズ:ジャズでは純粋なアエオリアンよりもモードのミクスチャー(例:ドリアン的6の借用やハーモニック・マイナーの導入)が多く、即興では自然短音階は一つの選択肢になる。
作曲・編曲の実践テクニック
アエオリアンを効果的に使うための具体的な方法をいくつか挙げます。
- 代表的なコード進行を活用する:i–VII–VI–VII(Am–G–F–G)は典型的で、繰り返しによる推進力が出ます。ほかにi–iv–VII、i–III–VII–ivなど。
- 導音の扱い:終止感が欲しい場合は、楽曲のクライマックスや最終終止でVを♯7(ハーモニック・マイナーの導音)に変更してV→iの強い終止を作る。
- ドローンやペダル・ポイント:トニック(1度)や5度音を持続させると、モードの特性が際立つ。民俗音楽的な雰囲気を生みやすい。
- 和声的色彩の追加:VIやVIIにセブンスやテンションを加えると、単調になりがちな短調進行に彩りを与えられる。
- モード間の切り替え:部分的に6度を半音上げてドリアン風にする、または7度を上げて導音を作るなど、節ごとにモードを変えると対比が生まれる。
即興(ソロ)でのアプローチ
ソロでは、基本的に自然短音階を基にフレーズを組み立てますが、表現の幅を増すには以下が有効です。
- ターゲットノート:コードトーン(特にi, III, V, VI)を小節の強拍に置く。
- ペンタトニックとの併用:短音階の5音ペンタトニック(m pentatonic)をベースに、♭6や♭7をアクセントとして加える。
- 導音の借用:短いフレーズで♯7を一時的に使うと“登る感”が強まり、解決にドラマを作れる。
- リズムとフレージング:アエオリアンの陰影を出すために、長い呼吸のフレーズやシンコペーションを利用する。
分析(例示的進行)
Aアエオリアンの典型的進行を例に取ると、Am(i)→G(VII)→F(VI)→Am(i)は非常に汎用性が高く、エモーショナルな流れを生みます。各和音の構成音が自然短音階内に収まるため、旋律は自由に上下運動してもモード感が失われにくいのが利点です。
注意点:「短調=アエオリアン」ではない
しばしば短調の音楽=アエオリアンと誤解されますが、実際には作曲者は作品の中でハーモニック・マイナー(導音を上げる)や旋律的短音階(上行下降で異なる)を併用することが多く、純粋なアエオリアンだけで成立する古典派やロマン派の曲は限定的です。したがって楽曲分析では、使用される和声(特にVの扱い)に注目してモード判定を行う必要があります。
まとめ:アエオリアンを生かすコツ
アエオリアン・モードは「自然短音階」として、穏やかで深みのある感情表現を得意とします。和声的な終止感を強めたい場面では導音を借りる、あるいは節ごとにモードを切り替えて対比を作る、といったテクニックが有効です。ジャンルによらず、アエオリアンの“平坦だが奥行きのある”響きを理解し、適材適所で短音階と他の短音階(ハーモニック、旋律的)を使い分けることが、表現の幅を広げる近道です。
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参考文献
- Aeolian mode — Wikipedia
- Natural minor scale — Wikipedia
- musical mode — Encyclopaedia Britannica
- MusicTheory.net
- Teoria(音楽理論解説)
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