カーディオイドペアの深堀り:原理・技法・実践テクニックとトラブル対処法

カーディオイドペアとは何か — 基本の理解

カーディオイドペアとは、その名の通りカーディオイド(心臓形)指向性を持つマイクロフォンを二本使ってステレオ収録を行う技法群の総称です。カーディオイドは0°(正面)で最大感度、180°(後方)でほぼ感度ゼロとなる指向性で、理想的なカーディオイドの音圧レベルはθ=±90°で約−6.02dB、180°で完全なノッチ(理論上は無限大の減衰)を示します(原理的には(1+cosθ)/2で表現されます)。この性質を利用して、前方の音源を中心に取りつつ、不要な後方の音を抑えることができます。

なぜカーディオイドペアを使うのか — メリットと用途

カーディオイドペアの利点は主に以下です:

  • 正面の音源を強調しつつ、後方の不要音(客席や反射音)を低減できる。
  • 近接による低域ブースト(プロキシミティ効果)を利用して音の存在感を出せる。
  • 設置や角度調整でステレオ幅をコントロールしやすい(XY、ORTF、A/Bなど多様な技法が使える)。
  • コインシデント配置(XYなど)では位相整合性が良く、モノラル互換性が高い。

これらはアコースティック楽器、アンサンブル、合唱、放送収録やライブ収音など幅広い現場で有効です。

主要なカーディオイド・ペア技法(代表例と実践値)

代表的な技法と、その特徴・設定の目安を挙げます。

  • XY(コインシデント):二つのカーディオイドカプセルを同一点に配置し、軸間の角度を90°〜135°程度に開く方法。位相整合が良く、モノラル互換性に優れる。角度が狭いほど中央定位が強く、広げるとステレオ幅が広がる。典型は90°/120°を採るケースが多い。
  • ORTF(擬似人間耳):二本のカーディオイドを17cm(耳間距離に相当)離して110°の角度で配置する方式。対話する耳のレベル差(ILD)と時間差(ITD)を模倣し、自然なステレオ感と定位を得やすい。オーケストラ/アコースティックのステレオ主音源として定番です。
  • スぺースドペア(A/B、パラレル):二本を一定距離(20cm〜数mまで用途により可変)並べる手法で、主に時間差(到達差)による広いステレオイメージを得る。空間の広がりを出しやすいがフェーズ問題やモノ互換性の低下に注意。
  • ミッド・サイド(MS):中央にカーディオイド(ミッド)、その横にフィギュア8(サイド)を置く方式。録音後のサイド信号の増減でステレオ幅を自在に調整でき、モノ互換性も良い。厳密には「カーディオイドペア」のみではないが、カーディオイドが中核を担うため関連技法として重要です。

配置・角度・距離の実践的ガイドライン

現場での目安を列挙します(目的や楽器、部屋の響きで調整してください)。

  • XY:カプセル同一点、角度90°〜120°。小規模アンサンブルやギター、ピアノ内部のステレオ収音に適する。収音距離は30cm〜2m程度(楽器やアンサンブルのサイズに応じて)。
  • ORTF:間隔17cm、角度110°。室内合奏やクラシック、室内楽のメイン収音に最適。マイク位置は奏者から2m〜4m程度が多いが、アンサンブルの規模で調整。
  • スペースドペア:距離50cm〜数m。広がりを重視するが、位相や定位の不自然さには注意。録音後にモノにすると中央が薄くなることがある。
  • ミッド・サイド:ミッドはカーディオイド、サイドはフィギュア8。MS録音はポストプロダクションで幅を変えられるのでライブやフィールド収録にも有効。

サウンドの特徴と音作りのコツ

カーディオイドの音は方向による周波数特性の変化(オフ軸レシポンス)を持ちます。高域はオン軸が最も明瞭で、オフ軸ではローリングオフや色付きが生じやすい点を理解しておきましょう。

  • プロキシミティ効果:近接(10cm前後)で低域が増す。これを利用して暖かさを出すか、近接ノイズとバランスを見て距離を調整する。
  • オフ軸のローリングオフを逆手に取り、不要な反射音の高域を減らして室内音を制御する。
  • ステレオ幅はマイク角度と間隔で決まる。狭める→集中した定位、広げる→開放的なイメージ。ただし広げすぎは定位が曖昧になる。

位相・モノ互換性のチェックと対策

スぺースドペアなど時間差のある配置はステレオでの広がりが得やすい一方、モノミックス時に位相打ち消しが発生することがあります。現場でのチェック方法と対策:

  • ステレオで録った素材を必ずモノ(sum)で確認する。中央の密度が薄くなっていないか確認する。
  • 位相問題が疑われる場合は、片方のチャンネルを反転して聞いてみる(位相反転で音が強くなれば位相整合が悪い)。
  • 微小な時間合わせ(ゲインでなくサンプル単位の遅延補正)や高域のEQで打ち消しを軽減できることが多い。
  • 収録段階での位相改善:XYやORTFなどの擬似頭部配置は位相問題が比較的少ない。

マイク選びと機材の注意点

同じ指向性でもマイクの種類(コンデンサー/ダイナミック)、周波数特性、出力音質は大きく異なります。選定ポイント:

  • コンデンサーマイクは高感度で高域特性に優れ、ステレオ収音に向く。ただし扱い(ファンタム電源、耐音圧)に注意。
  • 同一メーカー・同一モデルのペアを使うことで左右の音色差を抑えられる。特にXYやORTFでは一致性が定位の自然さに直結する。
  • マイクスタンドやショックマウントで振動ノイズを抑える。風/ポップ対策は必要に応じて。
  • プリアンプのゲインや位相、パッド設定も左右で揃える。ゲインの不一致は定位の偏りを招く。

実践例:楽器別の具体的セッティング例

  • アコースティックギター(ソロ) — XY(90°)をボディの前方約30〜60cmに設置。指板寄りやサウンドホールとの距離で低域の量感を調整。
  • ピアノ(グランド) — ORTFを開放蓋の上方2〜3mに設置して自然なホール感と定位を得る。室の響きに応じて高さを調整。
  • 弦楽四重奏 — ORTFまたは広めのXY(120°)を使用すると定位と立体感のバランスが良い。遠すぎると反射が目立つ。
  • ドラム(オーバーヘッド) — XYは定位の安定に有利。スぺースドペアで広いシンバルイメージを作ることも可能だが位相に注意。

よくあるトラブルと解決法

  • 定位が不自然/中央が弱い:モノ互換性をチェックし、必要ならマイクの間隔を縮めるかXY/ORTFに切替える。
  • 低域がブーミー:近接効果が過剰な可能性。マイクの位置を数cm後退させるか、ハイパスフィルタを使用する。
  • 左右で音色差がある:マイクのペアが異なるモデルやエイジング差があるなら交換。プリアンプやケーブルも確認。
  • ゲイン差による定位ずれ:現場でのレベルバランス確認とゲイン統一を徹底する。

まとめ:カーディオイドペアの運用で意識すべきポイント

カーディオイドペアは、自然なステレオ定位と前方音の明瞭さを両立できる強力な手法です。用途に応じてXY/ORTF/スぺースドペア/MSを使い分け、位相やモノ互換性、プロキシミティ効果に注意すれば、高品位なステレオ収録が可能になります。現場では必ずステレオとモノの両方で確認し、必要に応じて微調整を行ってください。

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参考文献