マイク拾音の完全ガイド:音質改善と実践テクニック

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マイク拾音とは何か — 基本概念

マイク拾音(マイクしゅうおん)は、音源からマイクロフォンを通じて音を電気信号に変換する過程全体を指します。録音・PA・放送・配信などあらゆる音響現場で核となる技術で、選ぶマイクの種類、指向性、設置位置、プリアンプの設定、部屋の音響などの組み合わせで最終的な音質が決まります。本稿ではマイクの物理特性から実践的な配置・処理、ステレオ収録や位相問題の対処法まで、音作りに直結する知識を可能な限り詳しく解説します。

マイクの種類と特性

  • ダイナミックマイク:コイルとダイアフラムで構成され、耐入力が高くライブやドラムキック、ギターアンプに多用される。耐久性が高く、ファントム電源は不要。
  • コンデンサーマイク:薄いダイアフラムと固定プレートで構成され、高い感度と広い周波数特性を持つためボーカルやアコースティック楽器、スタジオで主に使用。動作にはファントム電源(48V)が必要なことが一般的。
  • リボンマイク:薄い金属リボンで音を拾う。自然で滑らかな高域が特徴だが、古典的なパッシブリボンは高い出力やファントム電源への取り扱いに注意が必要(近年はアクティブ化されたモデルもある)。

指向性(ポーラーパターン)とその影響

指向性はマイクがどの方向からの音をどれだけ拾うかを示します。代表的なパターンは以下の通りです。

  • 無指向性(オムニ):全方向を均等に拾う。自然な部屋の響きを捉えるのに適するが、不要な残響や隣の音を多く拾う。
  • 単一指向性(カーディオイド):前方を中心に拾い、後方感度が低い。フィードバック耐性と分離性のバランスが良く、ライブや単独ボーカルに最適。
  • スーパーカーディオイド/ハイパーカーディオイド:前方指向が強くなり、側方の感度が一部残る。ピンポイントで音を拾いたいときに有効だが、後方の位置にハウリングのリスクがある。
  • フィギュア8(双指向性):前後方向を拾い、側面を抑える。MSステレオやコーラスの同時収録に有効。

近接効果と周波数特性

単一指向性マイクでは、音源に近づくほど低域が強調される〈近接効果〉が生じます。これを利用してボーカルに厚みを与えることができますが、やりすぎると濁りや低域の飽和を招きます。特にサブベース帯域やマイク近接時の息やポップノイズには注意が必要です。

マイクの配置と距離の基本ルール

配置は音像と音質を決定づける要素です。一般的な指針:

  • ボーカル:ポップフィルターを使用し、ダイナミックなら8〜15cm、コンデンサーは15〜30cmが目安。近接効果を生かしたい場合は更に近づく。
  • アコースティックギター:12フレットから12〜30cmの位置で角度を変えて試聴。胴の内部の反射を避けるためにサウンドホール直上は避けるのが一般的。
  • ギターアンプ:スピーコンの中心(キャップ)寄りは高域寄り、エッジに近いほど中低域が強まる。マイク先端から1〜5cmで音色調整。
  • ドラム:キックはタム穴や前面ポート付近に1〜10cm、スネアはトップに2〜5cm程度の角度で。オーバーヘッドはキット全体のバランスを見るため30〜60cm以上離す。
  • ピアノ:弦の位置や蓋の開閉によって大きく音が変わる。ハンマーベッド側と高域側の2点マイキングを組み合わせることが多い。

位相(フェイズ)と時間整合の重要性

複数のマイクを使用する際、位相の干渉(合成時に一部周波数がキャンセルされる現象)が発生します。特にドラムやアコースティック楽器で顕著です。基本対策:

  • マイクの距離比則(3:1ルール):近接マイク間の距離は、それぞれのマイクと音源の距離の3倍以上を目安にすると不要なリーケージによる位相問題を軽減できる。
  • 時間遅延と位相反転のチェック:DAWで波形を拡大し、明らかな打ち消しがあれば位相反転や数ミリ秒の遅延で調整。
  • ステレオ配置の最適化:ORTFやXY、Blumlein、Mid-Sideなどの手法は位相と指向性のバランスを考慮して設計されているため、適切に行うと良好なステレオイメージが得られる。

ステレオ収録テクニックの概要

  • XY(近接型):カーディオイドの2本を90°前後にクロス。位相問題が少なく中心の定位が安定する。
  • ORTF:カーディオイド2本を17cm間隔、110°で配置。自然なステレオ幅と位相特性のバランスが良い。
  • Blumlein:フィギュア8を90°で配置し、自然で開放的な空間表現ができるが、部屋の影響を強く受ける。
  • Mid-Side(MS):中(ミッド)にカーディオイド、側(サイド)にフィギュア8を置き、録音後にサイドのゲインを操作することでステレオ幅を自在に調節できる。

ゲイン設定・ヘッドルーム・ノイズ対策

プリアンプのゲインは適切に設定すること。デジタル録音では平均レベルを−18dBFS前後に保ち、ピークは−6dBFS〜−3dBFSに余裕を持たせるのが一般的です。これによりクリッピングを避けつつA/D変換器のダイナミックレンジを有効活用できます。ノイズ対策としては、不要な低域をハイパス(80Hz前後)でカット、パッド(−10〜−20dB)を使用して過大入力を防ぐ、ファントム電源やケーブル接続の良否を確認することが重要です。

ライブ環境での実践的注意点

  • 指向性の選択でハウリングを抑制。単一指向性を正しく向け、モニター位置に注意。
  • ハンドリングノイズ対策にショックマウントやブレスガード、適切なマイクグリップを使用。
  • ステージでのケーブル取り回し、接地ループ(ハムノイズ)対策、ダイレクトボックス(DI)を活用したバランス伝送。
  • インイヤーモニター(IEM)を使用することでステージ音量を下げてマイクのリーケージを減らせる。

楽器別の具体的なマイク配置ガイド

  • ボーカル:ポップフィルターを適用し、マイク軸を若干上向きにすることで息の直接音を減らせる。近接時は低域のブーストに注意。
  • アコースティックギター:12フレット付近を狙うとバランスがよく、サウンドホール寄りは低域が増す。2本使う場合は位相を確認。
  • エレキギターアンプ:スピーカ中心寄りで明るく、やや外側だと暖かみが増す。リボンは高域のきつさを和らげる選択肢。
  • ドラム:キックにハイパワー耐久ダイナミック、スネアはトップとボトムで分割、オーバーヘッドでシンバルとキットの全体像を補う。
  • ピアノ:開放度や録るスタイルによるが、低音部と高音部を分けてマイクすることでバランス調整が容易になる。

後処理と録音時の工夫

録音時に可能な限り最良の音を得ることが後処理の負担を減らします。EQは問題の原因(位相や反射)を理解した上で行い、不要な低域はハイパス、ボーカルのアイテムはコンプレッションとデ-エッサーでコントロールします。ステレオフィールの調整はMS方式やディレイによる定位補正で行うと自然に仕上がることが多いです。

トラブルシューティング・チェックリスト

  • ノイズが出る:ケーブル、グランドループ、プリアンプの設定、ファントム電源の有無を確認。
  • 位相が薄い/音がこもる:フェーズ反転や時間軸での微調整を試す。
  • ハウリングする:指向性の再確認、EQでハウリング帯域を抑制、位置の調整。
  • ピークで歪む:入力パッドを使用、マイクの距離を取る、プリアンプゲインを下げる。

まとめ — 良い拾音を実現するマインドセット

マイク拾音は単なる機材選びではなく、音源・場所・目的に合わせた総合的な判断の積み重ねです。まずは基本に忠実に、少しずつ位置や指向性を変えて耳で比較すること。位相やゲイン、部屋の響きを意識しながら記録を取り、再現可能なセッティングを蓄積することで、再現性の高い良い録音が得られます。

参考文献