収音テクニック完全ガイド:マイク選び・配置・ステレオ収音の実践
収音テクニックの全体像 — なぜ“聴く場所”が重要か
収音テクニックとは、マイクと録音環境を使って音源の音をいかに忠実かつ意図的に捉えるかの総称です。良いマイクを使うだけでは不十分で、マイクの種類、指向性、配置、距離、角度、部屋の音(残響)そして信号経路の扱いが結果を大きく左右します。本コラムでは物理特性から実践的な配置・収録ワークフロー、楽器別の具体的な推奨値、位相・ステレオテクニック、トラブルシュートまで網羅的に解説します。
マイクの基礎知識:種類と特性
- ダイナミックマイク:耐入力が高く、低域が押し出されがち。ライブや大音圧の収音に適する。パンチのある音を得たいドラムやアンプ収音に有利。
- コンデンサマイク:感度と高域レスポンスが良好で、ディテールを捉えるのに適している。ボーカル、アコースティック楽器、ピアノなどスタジオ収録で多用。
- リボンマイク:滑らかな高域と自然な中低域が特徴。柔らかい音やヴィンテージな質感を望む場合に有効。ただし一部の古いリボンはファンタム電源扱いに注意が必要。
- 指向性(ポーラーパターン):全指向(Omni)、単一指向(Cardioid)、双指向(Figure-8)、およびその変形(Super/Hypercardioid)。指向性は近接感、遮音性、オフ軸音の色付けを決めます。
基本テクニック:距離・角度・近接効果
- 距離の法則:マイク距離が近いほど直接音が増え、空気感が減る。一般にボーカルは10〜20cm、アコギは12〜30cm、アンプは2〜20cmなどが出発点。
- 近接効果:単一指向性マイクは近接で低域が強調される。低域が濁る場合は距離を取るかハイパスフィルターを検討する。
- 角度の調整:マイクを直接向けると明瞭さが出るが、斜めに向けると高域のピークを抑え、より自然な音になる。ハイハットや弦のブライトさを抑えたいときに有効。
- ポップノイズと保護:ボーカル収録ではポップガードとショックマウントを使い、ポップと振動ノイズを低減。
ステレオ収音の代表テクニック
- XY(コインシデント、90°前後):2本の指向性マイクを90°で交差させて配置。位相問題が少なく、ステレオイメージが安定する。ドラムオーバーヘッドやアコースティック・デュオに向く。
- ORTF(非コインシデント、約110°/17cm):人間の耳に近いステレオ感を作る配置。ルーム感と定位感のバランスが良い。
- AB(スペースドペア):マイクを離して配置することでより広いステレオ幅と室内残響が得られるが、位相問題に注意。
- ブラムライン(Blumlein):2本のフィギュア8を90°に配置するコインシデント方式。室内収録で非常に自然な立体感を得られる。
- M/S(Mid-Side):カーディオイド(または指向)をセンター、フィギュア8をサイドに置き、プラグインでデコードしてステレオ幅を後から自在に調整できる強力な手法。
多マイク収録のルールと位相管理
- 3:1ルール:一つのマイクと二つ目のマイクの距離が、二つ目と三つ目の距離の1/3以上になるようにすることで、クロストークと位相干渉を抑える経験則。
- 位相チェック:複数マイクを使う場合は個別トラックをモノで合成して位相が打ち消していないか確認。必要なら位相反転や数ミリの遅延で整える。
- 時間整列(タイムアライメント):ドラムやギターキャビネットなど物理的に離れたマイクは、波形の先頭を揃えることで低域のぼやけを防げる。
楽器別の具体的収音テクニック(実践的ガイド)
- ボーカル
- 距離10〜20cmを基準に、近接での暖かさと空気感のバランスを取る。
- ポップノイズ対策にポップガード、低域の不要なブームを抑えるため80〜120Hzのハイパスを検討。
- コンデンサ使用で高域のディテールを取るが、大きなP音には注意。
- アコースティックギター
- サウンドホールを避け、胴の12フレット付近にマイク1本(12〜30cm)がベーシック。
- 2本使う場合は指向性を組み合わせ(12f付近+胴上部)し、3:1ルールに注意。
- ピアノ
- グランドは開け方とマイク位置でキャラクターが変わる。低域寄りにしたければ弦に近づけ、高域やルーム感を出したければ遠ざける。
- ステレオペア(ORTFやAB)で弦全体のバランスを取るのが一般的。
- ドラム
- キック:外側でパンチ、内側でアタック重視(内側はスピーカーポート付近に2〜5cmなど)。ダイナミックを基本。
- スネア:トップは演奏の明瞭さ、ボトムはスナッピーを捉える(位相整列が重要)。
- オーバーヘッド:XYやORTFでシンバルの定位とルームの空気感を取得。
- エレキギターアンプ
- スピーコーンの中心は明確だが硬い。少し外した位置で暖かさを狙う。距離は2〜20cmから。
- ダイナミックとコンデンサを併用すると近接のパンチとキャビネットの詳細が得られる。
- 弦楽器・ブラス・ウィンド
- 弦はボディ近傍で温かさ、指板側で明瞭さ。チェロやコントラバスは共鳴点を探る。
- 管楽器はベルからの距離と角度で吹奏音と陰影が変わる。呼吸音を抑えるために少し斜めから取ることが多い。
ルームと残響の扱い — 部屋は楽器の一部
部屋が音への影響を与える度合いは大きい。ライブ感を求めるならルームマイクを適度に混ぜる。静かなスタジオでは吸音を使い、不要な初期反射を抑える。早い反射は音を濁らせるので、スピーカーポジションやマイク位置を調整して主要な反射を避けることが重要です。
信号経路とゲイン構築
- ゲインステージング:マイク→プリアンプ→ADコンバータの各段でクリッピングを避けながら十分なレベルを得る。デジタルでの平均-18dBFS、ピーク-6dBFSを目安にすると後処理で余裕ができる。
- パッドとハイパス:入力がクリップしそうな場合はマイクのパッドを使う。風や低周波が問題ならハイパスを使用。
- ファンタム電源:コンデンサに必要(一般に+48V)。リボンマイクでは注意深く取り扱う(機種により異なる)。
実践ワークフロー:録音前チェックリスト
- マイクとケーブルの断線・接点不良チェック。
- プリアンプのゲイン設定、ピーク監視、-18dBFSターゲットの確認。
- 位相チェック(各マイクをモノで合成しての位相確認)。
- 不要振動・風の排除(ショックマウント、ウィンドスクリーンの使用)。
- テスト録音で楽器のダイナミクスとEQの必要性を判断。
よくあるトラブルと解決法
- 低域の濁り:近接効果の可能性が高い。距離を取るかハイパス、位相整列を試す。
- 定位がぼやける:複数マイクの位相ずれ、時間整列不足。モノで確認し、微調整する。
- 背景ノイズ:ゲイン過多、ケーブルやグランドループの問題。ゲインを下げ、不要な回路を遮断。
- ポップや息音:ポップフィルター、角度の調整、距離を増やす。
まとめ:意図を持った収音が最良のミックスを生む
収音は単なる“録る”行為ではなく、音作りの第一歩です。マイク選び、指向性、距離、角度、ステレオ手法、位相管理、ルームチューニング、信号経路の設計までを総合的に考えることで、ミックス作業の自由度とクオリティは大きく向上します。まずは基本テクニックを習得し、小さな変更(数センチの移動、角度の変更など)で音がどう変わるかを耳で確かめる反復が上達の近道です。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Shure: Microphone Techniques
- Sound On Sound: Microphone Techniques
- Audio Engineering Society (AES)
- iZotope: Microphone Techniques Guide
- David Miles Huber, "Modern Recording Techniques"
- Bobby Owsinski, "The Recording Engineer's Handbook"
投稿者プロフィール
最新の投稿
ビジネス2025.12.29継続課金(サブスクリプション)で成長するための実務ガイド:設計・指標・運用の全体像
ビジネス2025.12.29サブスク型ビジネスの完全ガイド:モデル設計・収益化・定着化の実践戦略
ビジネス2025.12.29リカーリング(サブスクリプション)で稼ぐ仕組みと成功のための実践ガイド
ビジネス2025.12.29購読ビジネスの成功法則:収益化・定着・運用の実践ガイド

