インダストリアルトラップとは?起源・音響・制作テクニックと注目アーティスト徹底解説
イントロダクション — インダストリアルトラップの定義
インダストリアルトラップ(Industrial Trap)は、トラップ・ミュージックのリズム構造や低音感覚を基盤に、インダストリアル音楽由来のノイズ、金属的な打楽器、歪んだシンセ、機械的な質感を組み合わせたハイブリッドなサウンドの総称です。明確なジャンル境界線は流動的ですが、共通するのは“トラップのグルーヴ”と“インダストリアルのテクスチャー”を同時に追求する点です。
歴史と起源
インダストリアルトラップは単独の瞬間に突然生まれたわけではなく、複数の系譜が交差して徐々に形作られてきました。まずインダストリアル音楽は1970年代にThrobbing Gristleなどから始まり、ノイズ、実験的な電子音、工業的な音響表現を特徴とします。一方でトラップは2000年代初頭にアメリカ南部で生まれ、808の強烈な低音、ハイハットのトリプレットやスネアの配置、陰鬱なメロディが特徴です。
これらがクロスオーバーした背景には、2000年代後半~2010年代にかけてのエレクトロニック・ミュージックとヒップホップの接近、インターネット上のシーン分散、プロデューサーのサウンドデザイン技術の向上があります。実際、実験的ヒップホップやノイズ・ロックの要素を取り込んだアーティスト(例:Death Grips、clipping.など)がトラップのリズム感と共振することで、インダストリアルトラップ的な音像が拡張されてきました。
音楽的特徴
- リズム:基本はトラップ特有のハイハット・トリプレット、スネア/クラップの裏拍、ワイドなキック&808ベース。テンポは原則としてトラップ寄り(約130〜160 BPMの二重拍子感)で、ダブルタイム表現も多用されます。
- サウンドデザイン:金属音、切断音、工場の機械音、歪んだノイズなどを積極的に取り入れる。シンセは鋭利でアタッキー、FM合成やウェーブテーブル合成で金属的な倍音を作ることが多い。
- 低域と歪み:808を単に鳴らすだけでなく、ディストーションや波形シェーピングで“汚す”ことで、サブベースの存在感をより粗野に演出する。
- 空間処理:コンボリューションリバーブや大きめのプレートを使って、金属的/工業的な残響を付与することが多い。一方で極端にドライな処理で閉鎖的な圧迫感を出す手法もある。
- 歌唱・ボーカル:ラップ/シャウト/グロウル/ボイスプロセッシング(ピッチシフト、グリッチ処理、激しいディストーション)など多様。歌詞は都市の荒廃感、暴力、疎外感、テクノロジー批評など暗いモチーフが目立つ。
制作テクニック(実践ガイド)
以下はプロデューサー視点での具体的なテクニック集です。DAWはAbleton Live、FL Studio、Logicなど何でも構いませんが、サウンドデザインとミキシングの理解が重要です。
- ドラム設計:スネア/クラップは層にして、金属的なアタック音や短いノイズを重ねる。キックと808は位相整合とサイドチェインでぶつからないよう処理する。
- 808の歪み:オーバードライブ→マルチバンド歪み→EQで低域を守る手順が基本。Distortionを通した後に低域を再強化(サブシンセやサイン波のレイヤー)すると音が抜ける。
- メタリックなパーカッション:フィールド録音(工場、機械、金属を打つ音)をサンプル化し、ピッチシフトやEQ、コンプでリズムパートに組み込むとリアリティが出る。
- リードの作り方:FM合成やウェーブテーブルで鋭い倍音を作り、頻繁にモジュレーション(LFOやエンベロープ)をかけて生き物のような動きを出す。
- ノイズとテクスチャ:ホワイトノイズ、テープヒス、レコードスクラッチのようなノイズを曲全体にステレオで薄く挿し、歪みとリバーブで箱の中の機械音感を作る。
- ミックス/マスタリング:ローエンドは明確に位置付け、サイドチェーンでキックに合わせて動かす。歪み系の音はマルチバンドでコントロールし、耳障りな中域を削ることが多い。
テーマと表現—歌詞・美学
インダストリアルトラップの歌詞やビジュアルは、しばしば都市の没落、監視社会、テクノロジーによる疎外、個人の怒りや破壊衝動と結びつきます。映像やアートワークにはメタル、グランジ、サイバーパンク的なモチーフが好まれ、ライブではノイズや爆音、映像と光の演出で臨場感を強めることが多いです。
注目アーティストとシーンの例
インダストリアルとヒップホップ/トラップの融合を体現する例として、以下のようなアーティストやグループが挙げられます。これらは必ずしも純粋な「インダストリアルトラップ」だけをやっているわけではありませんが、ジャンル横断の重要な存在です。
- Death Grips — 実験的なヒップホップにノイズやインダストリアルな要素を取り込んだ先駆的な存在。刺激的で挑発的なサウンドは多くのプロデューサーに影響を与えました。
- clipping. — ノイズ/インダストリアルに近い音響処理を多用するエクスペリメンタル・ヒップホップ。
- Ho99o9(ホーニョー)— パンク、ヒップホップ、インダストリアルを混ぜたアグレッシブなパフォーマンスで知られます。
- City Morgue — トラップとメタル、インダストリアル感覚を融合したサウンドで若い世代に人気。
これらの実例を通じて、インダストリアルトラップは単なる音響的様式以上に、パフォーマンスやカルチャーの側面を含むことがわかります。
シーンと流通
インダストリアルトラップ的なサウンドは、メインストリームのチャートを目指すよりも、クラブ/フェスのヘビーなセット、サブスクのプレイリスト、インディペンデントなレーベルやBandcamp、SoundCloud経由で拡散される傾向があります。映像やビジュアル・アートと結びつくことでSNS上でバイラルになるケースも多く、シーンは国際的に分散しています。
制作上の注意点と倫理
- サンプリングと著作権:フィールド録音や他曲の断片を使用する場合は権利処理に注意すること。特に映画音声や既存楽曲のサンプルは法的リスクがある。
- 暴力表現:歌詞やビジュアルで過度な暴力や差別表現を扱う際は配慮が必要。プラットフォームのガイドラインにも従うこと。
- 聴覚の安全性:ライブやマスタリングで過度なブーストや歪みをかけると聴覚に負担をかける。また過度な低域や高ゲインの歪みはスピーカー/再生機器を破損する恐れがある。
今後の展望
インダストリアルトラップは他ジャンルとのクロスオーバーを続け、トラップ・メタル、ハイパーポップ、インダストリアル・テクノなどとの境界がさらに曖昧になると考えられます。AIやモジュラー機材の発展により、サウンドデザインの幅は拡大し、個々の表現はより多様化していくでしょう。
まとめ
インダストリアルトラップは、トラップのビート感とインダストリアルのテクスチャーを組み合わせた表現領域です。制作面ではサウンドデザインとミキシングのスキルが鍵となり、表現面では都市的な疎外感や破壊的モチーフが多く扱われます。ジャンルとしての定義は流動的ですが、実験性と衝動性を併せ持つ点が魅力であり、今後も多方面との融合を通して変容していくでしょう。
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参考文献
- Industrial music — Wikipedia
- Trap music — Wikipedia
- Industrial hip hop — Wikipedia
- Death Grips — Wikipedia
- Pitchfork — Review: Death Grips / The Money Store
- clipping. — Wikipedia
- Ho99o9 — Wikipedia
- City Morgue — Wikipedia
- Roland TR-808 — Wikipedia
- Nine Inch Nails — Wikipedia


