フォンク(Phonk)とは何か — 起源・音楽的特徴・進化を深掘りする

フォンク(Phonk)とは──定義と概要

フォンク(Phonk)は、1990年代アメリカ南部のアンダーグラウンド・ヒップホップ、特にメンフィス・ラップの暗く荒々しいサウンドを起点に、2010年代以降にインターネット経由で再解釈・拡散されたサブジャンルです。しばしば“メンフィス・サウンドの現代的復刻”や“チョップド&スクリュ/ロー・ファイ美学を取り込んだヒップホップ派生”と表現されますが、その実体はサンプリング、ディストーション、スローなテンポ感、レトロな音色処理を多用する音作りと、暗めのムードを特徴とする総合的な表現様式です。

起源:1990年代メンフィス・ラップとチョップド&スクリュの影響

フォンクの源流は1990年代のメンフィス・ラップにあります。Three 6 Mafia、Tommy Wright III、DJ Zirk といったアーティスト/プロデューサーが作り出した、低予算で荒れた質感、暴力的・オカルティックな歌詞、美しいというより不穏さを強調するサンプリング手法が、フォンクの核となります。また、ヒューストン発のDJ Screwによるチョップド&スクリュ(楽曲のスロー化、ピッチシフト、カットアップ)の技法も、フォンクにおけるテンポ感やボーカル処理の手法として重要な影響を与えました。

2010年代リバイバルとインターネット文化

2010年代に入り、SoundCloudやYouTube、各種ソーシャルメディアを通じて、メンフィス・ラップのサウンドを現代的に再解釈する動きが起きます。オーランド出身の若手プロデューサー/ラッパーがメンフィスへのリスペクトを公言しつつ、自身のトラックにその要素を取り込んだことが大きなきっかけとなりました。ネット上のキュレーターやミックスチャンネルが“フォンク”という呼称で楽曲をまとめたこともあり、ジャンル名が広く認知されるようになりました。

音楽的特徴(サウンドの解剖)

  • ボーカル/サンプル:1990年代のメンフィス・ラップのボーカルをサンプリングしてループ化、ピッチダウンやチョップで不穏さを強調する。
  • テンポとリズム:一般的にBPMは遅め〜中庸(80〜110 BPM 前後)が多く、スローでズシリとしたグルーヴを重視する。
  • ローエンド:歪ませた808キックやサブベースにより、重低音の存在感が強い。
  • 質感処理:テープやレコードのノイズ、ビットクラッシュ、リバーブ/ディレイ、フィルターを使った“古びた”音作りが多用される。
  • メロディ素材:ジャズやソウル、ゴスペル、あるいはホラー映画風のシンセパッドなどを引用し、陰鬱なムードを作る。

派生とサブスタイル

フォンクは一括りにされがちですが、実際にはいくつかの系譜があります。

  • クラシック/メンフィス系フォンク:1990年代のサウンドに近い、生のラップサンプルやノイズを前面に出すスタイル。
  • ローファイ(Lo‑fi)寄りフォンク:アンビエント寄りのテクスチャや温かいテープ感を強調し、ヒップホップのビートと組み合わせる。
  • トラップ寄り(モダン)フォンク:より速いハイハットやトラップ的なリズムを取り入れ、ダンス寄り・ドライビングミュージックとしても機能するような派生。
  • YouTube/TikTok主導の“ドライビング/カー系”イメージ:走行映像やクラブではなく、夜のドライブや都市風景と結びつきやすいサウンドデザイン。

制作技法:サンプリングと音像設計の実践

フォンクの制作において鍵となるのは“素材の選び方”と“処理の仕方”です。歴史的なラップのレトロサンプル、ホラー的なピアノやストリングス、短いボイスフックなどを元に、次のような工程がしばしば行われます。

  • サンプルのピッチダウン&テンポ調整:オリジナルのメロディやボーカルを低めに設定して暗さを出す。
  • チョップ/グリッチ処理:サンプルを細かく切り刻み、繰り返しやズレを作ることで奇怪さを演出する。
  • ローエンドの強化:歪みを混ぜた808やサブベースで重量感を出す。
  • アナログ感の付与:テープサチュレーション、レコードノイズ、EQで高域を丸めるなどして“古びた”質感を作る。
  • 空間処理:深いリバーブやモジュレーションで“幽玄な空間”を構築する。

文化的・視覚的要素

フォンクは音だけで完結せず、ビジュアルやライフスタイルとも結びつきます。メンフィス発のイメージ(荒廃した都市、夜の高速道路、車文化、オカルティズム的なモチーフ)がジャケットやMV、ネットミックスのサムネイルに反映され、リスナーのイメージ形成に寄与しています。さらに、YouTubeやTikTokでの“車内映像+フォンクBGM”の組み合わせが、ジャンルの新たな消費形態として確立されました。

代表的な系譜とキーパーソン(簡易ガイド)

フォンクを理解するために押さえておきたい人物・グループとその役割を整理します。

  • Three 6 Mafia(DJ Paul、Juicy J):メンフィス・ラップの代表格。サウンドの基礎に大きく寄与。
  • Tommy Wright III、DJ Zirk 等:90年代メンフィス地下シーンの重要人物で、荒々しい質感の源泉を成す。
  • DJ Screw:ヒューストンのチョップド&スクリュの創始者。フォンクのテンポ感やボーカル処理に影響。
  • 2010年代の若手プロデューサー/クリエイター:メンフィス・ラップに影響を受け、インターネットを通じてフォンクを再定義・拡散させた。
  • YouTube/SoundCloudのキュレーター:フォンクのプレイリストやミックスでジャンル名を定着させた存在。

商業性と批判:オリジンの敬意と消費の問題

フォンクの流行は、元来のメンフィス・アーティストの認知向上につながる一方で、次のような問題も指摘されています。

  • 著作権とサンプリング:古いラップ音源や映画音声を無許可で用いるケースが多く、法的問題が生じやすい。
  • 文脈の切り離し:元々の歌詞や地域文脈が切り離され、表層的な“暗さ”だけが消費される危険。
  • 過度な様式主義:ヴィンテージ感や“危険の記号”がトレンド化することでジャンルの多様性が損なわれること。

現状と今後の展望

フォンクはインターネット世代のクリエイティビティとローカル・ヒップホップの遺産が交差して生まれたジャンルです。短期的にはSNSやショートフォーム動画での露出が続くと見られますが、中長期的には次の動きが考えられます。

  • リバイバルの深化:オリジナル世代(メンフィス等)とのコラボレーションや再評価が進む可能性。
  • ハイブリッド化:ローファイ、トラップ、エレクトロニカなど他ジャンルとの融合が進み、より多様な派生が生まれる。
  • シーンの成熟:サンプル処理やライセンスの管理が整備されることで、より広い商業的活用が可能になる。

フォンクを聴く/作る際の注意点

フォンクを楽しむ・制作する上で大切なのは「リスペクト」と「文脈理解」です。元となるメンフィス・ラップやチョップド&スクリュの背景を学び、サンプリングのルールや著作権に配慮することが、ジャンルを健全に発展させるために不可欠です。

まとめ

フォンクは、過去のストリート・ヒップホップの荒々しさを現代のプロダクションで再解釈したジャンルであり、インターネットによってその音楽的語法とイメージが世界中に広がりました。暗い質感、重低音、ピッチ処理されたサンプルという特徴は一見シンプルですが、その背景には地域的な歴史と文化的文脈があり、それを理解することでフォンクはより深く味わえるジャンルになります。

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参考文献