ゴシックトラップとは何か?特徴・歴史・代表アーティストと制作テクニック徹底解説

ゴシックトラップとは

ゴシックトラップ(Gothic Trap)は、ゴシックな美学・音響表現とトラップ(Trap)由来のビートやリズムを融合させた音楽スタイルを指す言葉で、明確な定義が学術的に確立されているわけではありません。一般的には、暗く陰鬱なメロディー、教会オルガンや合唱、弦楽器やシンセによるゴシック的な音像と、808ベースやハイハットのトラップ・ビートを組み合わせたサウンドを特徴とします。歌詞・ヴィジュアル面でもゴシック(死、孤独、宗教的象徴、黒装束など)のモチーフを強く打ち出すことが多く、エモ/クラウドラップ、トラップメタル、インダストリアルなどと交差する領域です。

起源と歴史

ゴシックトラップは単一の発生地点を持つジャンルではなく、2010年代中盤以降のインターネット発信型シーン(特にSoundCloudやYouTube)における複数の潮流が交差して生まれたと考えられます。クラウドラップやエモラップの感傷的でメロディックな要素、トラップのリズム構造、さらにインダストリアル/ブラックメタルやゴスロックといったダークな音楽伝統からの音色的引用が混ざり合うことで、個々のアーティストが独自に「ゴシック」的な表現を取り入れていきました。

代表的な土壌としては、2010年代のSoundCloudラップ(いわゆるSoundCloud rap)、$uicideboy$やBonesらのダークでローエンド寄りのトーン、Lil PeepやGothBoiClique周辺のエモ的表現、Ghostemaneのようにメタル/インダストリアルをラップに取り込む動きなどがあり、これらが混ざり合うことで“ゴシックトラップ”的な表現が広まりました。

音楽的特徴(サウンドの構成要素)

  • リズム/ビート: トラップ由来の808サブベース、スネアの裏打ち、ハイハットの細かなロール(16〜32分音符の連打、トリプレット)を基盤にする。
  • 和声・メロディ: マイナーキー、短調の旋律、フラットや減衰和音(ディミニッシュド)、半音下降のモチーフなど、不安感を演出する和声進行が好まれる。
  • 音色(音響テクスチャ): パイプオルガン、合唱サンプル、ストリングス、ダーティなシンセ、リバーブの深いピアノなど、教会や古典的なゴシック感を想起させる音色を使用。逆に歪ませたギターやノイズ、インダストリアルなサウンドも混在する。
  • ヴォーカル処理: オートチューンやピッチ処理で薄く整えたメロディ、シャウト/スクリームの重ね、ヴォーカルを低めに下げるピッチシフト、リバーブ/ディレイによる遠景化が多い。
  • プロダクション効果: 大きなホール/カテドラル系リバーブ、テープサチュレーション、ディストーション、ローファイ感の付与、空気感を作るアンビエント層の重ね合わせ。

歌詞とテーマ

歌詞面では、死、喪失、孤独、自己破壊、悪魔性や宗教的イメージ(十字架、悪魔、儀式的描写)といったゴシック的モチーフが頻出します。一方で青春の苦悩やメンタルヘルス、依存、愛憎といったエモーショナルなテーマも組み合わされ、ダークながら個人的・内省的な表現が目立ちます。比喩として古典的ゴシック小説やブラックメタルの象徴語彙が引用されることもあります。

ビジュアル/ファッション/アートワーク

ビジュアル面では黒を基調としたファッション、ステージでのダークメイク(コープスペイント風の表現を含むこともある)、ホラーや宗教的な象徴物、ヴィンテージの肖像写真風アートワーク、タイポグラフィにゴシック系フォントを使うなど、視覚面でのゴシック性が重視されます。アルバムジャケットやミュージックビデオでは廃墟・教会・墓地を舞台にした映像が用いられることが多いです。

代表的なアーティストとその位置づけ

ゴシックトラップは厳密なジャンル分けが困難ですが、シーン形成に影響を与えたアーティストとして以下のような例が挙げられます。各アーティストはそれぞれ異なるルーツ(エモ、メタル、ラップ、インダストリアル)を持ち、結果としてゴシック的要素を取り入れたサウンドを提示しています。

  • Ghostemane — インダストリアルやブラックメタルの要素をラップに持ち込み、ダークで荒々しいサウンドを展開。
  • Scarlxrd — 英国出身。メタルとトラップを融合させた激しい表現で知られる(トラップメタル寄り)。
  • $uicideboy$、Bones — ダークでローファイなトーン、死生観や自己破壊的表現が多く、ゴシック的な感性と親和性が高い。
  • Lil Peep / GothBoiClique — エモとラップの接点で、メランコリックでゴシック的な美意識を若い層に広めた。
  • City Morgue(ZillaKami & SosMula) — トラップメタル寄りだが、ヴィジュアルやリリックでゴシック的要素を多用。

これらのアーティストは必ずしも「ゴシックトラップ」というラベルを自称しているわけではありませんが、リスナーや評論の側でゴシック的要素を併せ持つラップ表現として分類されることが多いです。

制作テクニック(具体的なプロダクションの手法)

ゴシックトラップの制作でよく使われる実践的なテクニックを挙げます。DAWはFL Studio、Ableton Live、Logic Proなどが一般的です。

  • 808の調整: 低域を強調したサブベースを使い、キックと調和させる。サブをサチュレーションや軽い歪みで際立たせる。
  • 和声サンプリング: 教会オルガン、合唱、ストリングスの短いフレーズをループさせ、ピッチ/タイム処理で不安定感を作る。
  • テクスチャ重ね: アンビエントパッド、ノイズ、フィールドレコーディング(廃墟の環境音など)を奥行きに配置。
  • ヴォーカル加工: メロディパートにオートチューン+薄いリバーブ、コーラスにピッチシフトやハーモナイザーを重ね、シャウトやスクリームはコンプレッションとディストーションで前面に出す。
  • 歪みとダイナミクス: ギターやシンセに多段ディストーション、マルチバンドサチュレーションを使用し、中高域の荒々しさを作る。
  • 空間演出: 大きなリバーブ(プレート・ホール系)を使って“儀式的”な空間を演出し、短いディレイで反響を強調する。

シーンとプラットフォーム

ゴシックトラップ的表現はインターネットを基盤に拡散しました。SoundCloudやYouTubeは匿名性と低コストでの発表を可能にし、TikTokやInstagramではヴィジュアルやワンフレーズのクリップが瞬時に拡散されます。ライブはクラブや地下のイベントが中心で、近年はフェスや大型会場に登場するアーティストも増えています。コラボレーションやジャンル横断(メタルバンドとの共演、プロデューサー間コラボなど)が多発しているのも特徴です。

批評と受容

評価は分かれます。支持する側は、若い世代の孤独感や不安を代弁する表現、既存ジャンルの垣根を壊す実験性を評価します。一方で、ゴシックやメタル文化の記号的利用(いわゆる“表層的なゴシック化”)や自傷的表現の肯定・美化に対する批判もあります。また、ジャンル名やラベルの曖昧さからメディアでの誤認や単純化が起こることも指摘されています。

今後の展望

今後はさらにジャンルのクロスオーバーが進むと予想されます。トラップのリズム構造は他ジャンルと相性が良く、インダストリアル、ポストパンク、ダークウェーブ、ハードコア、メタルなどとのコラボレーションが増えるでしょう。加えて、プロダクション技術の発展とSNSの拡散力により、新たな表現やローカルな亜種が生まれる可能性があります。商業シーンへの取り込みと同時に、地下での実験的表現も並存していく見込みです。

まとめ(編集者からの実践的アドバイス)

ゴシックトラップは感覚的には「暗さ」と「トラップのグルーヴ」を同時に求めるリスナーに刺さる音楽です。プロデューサーは和声の不安定さと低域の力強さ、そして空間演出を意識するとジャンル感を出しやすいでしょう。アーティストは歌詞とビジュアルで一貫した世界観を作ることで、単なる音色の寄せ集めではない深みを出せます。

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参考文献