R-407Aとは？R-22代替冷媒の特徴・施工・維持管理と環境対策ガイド

2025年12月29日 最終更新日時 : 2025年12月29日 エバープレイ編集部

概要：R-407Aとは何か

R-407Aは、空調・冷凍設備の分野で用いられるHFC（ハイドロフルオロカーボン）系の混合冷媒の一つで、従来のR-22（HCFC-22）に代わるレトロフィット（置換）や新規設備での採用を意図して開発された冷媒です。主に商業用・業務用空調や一部の冷凍設備で使用され、R-22と比較してオゾン層破壊係数（ODP）は事実上ゼロである一方、地球温暖化係数（GWP）は高めであるという特性を持ちます。

物性と技術的特徴

R-407Aは複数のHFC成分を混合したゾエオトロープ（準ゼオトロープ）ではなく、温度グライド（沸点の分離）を持つ混合冷媒のカテゴリに入ります。このため蒸発・凝縮時に温度グライドが生じ、熱交換機内での伝熱挙動が単一成分冷媒と異なります。

  • 安全性区分：非可燃（ASHRAEのA1相当に該当することが多い）であり、通常の設備で可燃性対策が不要な点はメリットです。
  • 潤滑油：鉱油（MO）からの直接切替えは不可で、ポリエステル（POE）系の合成油を使用することが基本です。既存のR-22システムをR-407Aにレトロフィットする際は、油の完全交換や油分離器の確認が必須です。
  • 温度グライド：混合冷媒のため凝縮・蒸発時に一定の温度差（グライド）があり、熱交換効率やサーモスタットの設定に影響を与えることがあります。
  • 圧力特性：R-22に近い作動圧力帯域を示す機種もありますが、装置ごとに細かな差があるため冷凍サイクル設計の再評価が必要です。

R-22との比較（利点と注意点）

R-407AがR-22の代替として選ばれる理由と、設計・施工上の注意点を整理します。

  • 利点
    • オゾン破壊係数が事実上ゼロであり、モントリオール議定書で段階的に削減対象となったR-22に比べ環境規制面での優位性がある。
    • 非可燃で扱いやすく、既存室内機や配管系の大幅な変更なしに導入可能なケースがある。
  • 注意点
    • GWPは高めであり、長期的な環境政策（Kigali修正など）や法規制の影響を受ける可能性がある。
    • 温度グライドにより熱交換器での性能が変化するため、冷媒充填量や膨張弁の設定、過冷却・過熱管理を再検討する必要がある。
    • 油管理が重要で、既存装置の鉱油が残留していると性能低下やコンプレッサー故障のリスクが高まる。

施工・レトロフィット時の実務ポイント

R-22システムをR-407Aに切り替える場合、実務上のチェックポイントと作業手順の概要です。

  • 事前診断：配管材質、コンプレッサー形式、熱交換器の状態、油の種類と残留量を確認します。特に長期間使用された設備では内部の酸化物やスラッジの有無を評価する必要があります。
  • 油の完全交換：鉱油からPOEに換装するため、システム内の油回収と洗浄（フラッシング）、フィルター・ドライヤーの交換を行います。
  • 配管・バルブの点検：接続部の耐冷媒性、バルブシール、弁のシール材が新冷媒に適合しているか確認します。
  • 冷媒充填と調整：温度グライドを考慮して膨張弁（TEVやTXV）の設定・選定を見直すほか、過冷却・過熱度の調整を行います。充填量はメーカー推奨に従い、過充填を避けて適正量を充填します。
  • 試運転と性能評価：運転中の圧力・温度・吸込油温・過熱度等を測定し、設計冷房能力やCOP（性能係数）を評価します。必要に応じて追加の微調整や配管修正を行います。

保守とトラブルシューティング

R-407Aを使用する設備における代表的な保守項目と、発生しやすいトラブルへの対処法です。

  • 漏えい点検：定期的なリークチェックと冷媒回収の記録管理を行います。漏えい箇所が発見された場合は迅速に修理し、回収・補充は法令に従って実施します。
  • 油の管理：吸込油温の監視、油フィルターやオイルセパレーターの定期交換を実施します。油混入による膨張弁の詰まりや熱交換性能低下に注意。
  • 温度グライド関連の症状：蒸発側や凝縮側で期待する熱伝達が得られない場合、グライドの影響や不均一な冷媒分配を疑い、熱交換器の設計や配管の見直しを行う。
  • コンプレッサーの保護：異常振動や吸込温度上昇がある場合は早期に点検。冷媒の過少/過多、非凝縮性ガス混入、油循環不足など原因を切り分ける。

環境規制と将来動向

世界的にはHFCの削減を目的とした取り組み（Kigali修正など）が進んでおり、GWPの高い冷媒は段階的に使用制限や課税の対象になる可能性があります。日本でもフロン類の適正管理や回収・破壊のルールが整備されており、事業者は法令順守と長期的な代替冷媒の検討を行う必要があります。

そのため、R-407Aは短〜中期のR-22代替として有効な場合がある一方で、長期的には低GWP冷媒（HFOベース冷媒、天然冷媒など）への移行計画を検討することが推奨されます。

導入判断のためのチェックリスト

設備オーナーや施工業者がR-407A導入を判断する際に確認すべき項目をまとめます。

  • 既設設備の年式・状態（熱交換器の汚れ、配管の腐食、コンプレッサーの残寿命）
  • 現行冷媒の種類とオイル種類（鉱油か合成油か）
  • 設備停止が許容される期間（レトロフィットの工期）
  • 長期的な環境規制や企業のCO2削減方針との整合性
  • ランニングコスト（電力消費、メンテナンス、将来の規制コスト）
  • 施工業者の技術力（油交換・フラッシング、膨張弁再調整の実績）

まとめ

R-407AはR-22の代替として実務的な選択肢となる冷媒であり、非可燃性、ODPがほぼゼロという利点があります。しかし、温度グライドや油管理、GWPの高さといった課題もあるため、レトロフィット時には事前診断・油の完全交換・膨張弁や熱交換器の再調整を行うことが不可欠です。長期的な環境規制を見据え、低GWP冷媒への移行計画も併せて検討することが望まれます。

参考文献

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