建築・土木の現場で知っておきたいR22(HCFC-22)の全貌と更新戦略
はじめに:R22とは何か
R22(化学名:塩素二フルオロメタン、HCFC-22)は、かつて空調・冷凍設備で広く使われてきた冷媒です。冷凍サイクルでの熱輸送性能に優れ、家庭用エアコンから業務用空調、冷凍倉庫やチラーまで幅広く採用されてきました。しかしR22はオゾン層破壊係数(ODP)を持つHCFC系冷媒であり、モントリオール議定書をはじめとする国際的・国内的な規制の対象となっています。建築・土木分野においては既設設備の維持管理や代替冷媒への更新が重要な課題です。
物理・環境特性と規制の概要
R22の主な特性は次の通りです。化学式はCHClF2で、従来は鉱物油(MO)を潤滑油として使用する設計が多く見られました。環境面ではODPがあり、IPCC等による100年係数の温室効果(GWP)も高い値を示します(ODPはおおむね0.05程度、GWP100は約1,800程度)。これにより国際的な削減・段階的廃止の対象となり、多くの国で新規製造や新機器への充填が制限されています。
既存建築でのR22が抱える課題
入手性とコスト:段階的な生産制限によりR22の市場供給は減少し、希少性から価格が上昇しているため運用コストが増加します。
漏えいリスクと環境負荷:建物ライフサイクルでの冷媒漏えいは温室効果ガス排出につながり、環境・規制リスクを高めます。
機器老朽化:R22機器は年々製造からの経年劣化が進み、効率低下や故障リスクが増します。部品供給も困難になることがあります。
法令遵守:フロン類に関する国内法(例:フロン排出抑制法など)や報告義務、回収・破壊の要件を満たす必要があります。
代替手段の選択肢と留意点
R22からの移行は単なる冷媒置換ではなく、システム全体の相互作用を考慮する必要があります。代表的な選択肢と注意点は以下の通りです。
冷媒のレトロフィット(既存機器の冷媒置換)— R407Cなどの代替冷媒がよく検討されますが、冷媒による圧力特性の差や冷凍能力の変化、潤滑油の互換性(R22は鉱物油、代替冷媒はPOE等を必要とする場合がある)を含め、メーカーの適合性確認と油の入替、十分な試験が必須です。適合確認無しの置換は性能低下や機器損傷の原因となります。
機器更新(全面交換)— 新規設備(R32、R410A、低GWP HFO系、CO2(R744)やアンモニア(R717)システム等)へ更新する方法です。初期投資は大きいものの効率改善・運用コスト低減・将来規制対応の観点で長期的に有利な場合が多いです。選択の際は冷房能力、圧力レベル、可燃性(A2L等の分類)、配管や熱交換器の最適化を考慮します。
ハイブリッド・代替技術の導入— 二次冷媒循環や水熱源ヒートポンプ、蓄熱システム、局所換気の改善など冷媒量を低減するアプローチも有効です。特に大型施設ではCO2トランスクリティカルやカスケード方式が採用されるケースが増えています。
技術的な実務プロセス(設計者・施工者向け)
既存R22設備の検討から対応まで、推奨されるプロセスは以下の通りです。
現地調査と台帳化:設備の型式、容量、製造年、充填冷媒量、配管仕様、潤滑油種、過去の修繕履歴を把握します。法令での点検・記録義務に備えるため台帳化は必須です。
漏えい診断と性能評価:サーモグラフィーや冷媒検知器で漏えい箇所を特定し、既存システムのCOPや部品摩耗を評価します。
代替案の検討:レトロフィット・部分更新・全面更新のそれぞれについて、初期投資、エネルギー消費、CO2換算排出量、法的リスクを比較します。メーカーのレトロフィット承認や適合試験結果があるか確認してください。
試験・移行作業:冷媒置換時は油交換、真空引き、充填量の最適化、圧力-温度バランスの確認を実施。性能試験と運転監視を十分に行い、異常時は即時対処します。
廃冷媒の回収・破壊:フロン類は専門の回収・処理業者に依頼し、法令に従って適正処理します。回収記録を保存することが必要です。
建築・土木の観点からの設計・維持管理ポイント
建物全体で考えると、冷媒更新は設備単体の話に留まりません。以下を設計段階から考慮することが重要です。
配管経路とアクセス性:将来の更新や点検・回収作業を容易にするため、冷媒配管の取り回しやサービススペースを確保します。
二次被害対策:冷媒漏えい時の室内安全確保、排気・換気計画、検知器の配置を検討します(特に可燃性・毒性冷媒を導入する場合)。
エネルギー最適化:機器更新に合わせて外皮性能や空調負荷の見直しを行えば、投資回収が早まります。省エネ機能や制御の高度化も合わせて検討してください。
事業継続計画(BCP):冷媒入手不能や機器故障時の代替策(短期レンタル機器や一時排熱利用など)を準備しておくと現場運用が安定します。
コスト感と意思決定の考え方
短期的にはR22を継続使用する方が安価に見えることがありますが、冷媒価格上昇・故障リスク・環境規制対応費用を総合すると、中長期のトータルコストは更新(あるいは大幅な改修)の方が優位になる場合が多いです。意思決定ではライフサイクルコスト(LCC)、CO2排出削減効果、補助金・税制優遇の有無、建物用途やダウンタイム許容度を勘案してください。
実務上の注意点と安全・法令遵守
冷媒取り扱いは専門家(国家資格や登録を必要とする場合がある)に依頼し、以下を徹底してください。
冷媒回収設備と適切な処理契約の確保。
定期点検と漏えい検知器の設置、記録保存。
メーカー指針に沿った改修、認証のない冷媒置換は避ける。
作業時の安全措置(遮断、換気、適切な個人防護具の着用等)。
まとめ:建築・土木の現場での実践アクションプラン
R22対応では、まず現状把握(台帳化・漏えい診断)を行い、次にコスト・リスク評価に基づく更新方針(短期修繕、レトロフィット、全面更新)を決定します。技術的には潤滑油の切替、圧力差対応、メーカー承認の確認が不可欠です。法令・環境面の要件を満たしたうえで、エネルギー最適化やBCPを組み合わせると、建物の長期的な価値向上につながります。
参考文献
- United Nations Environment Programme (UNEP) — Montreal Protocol / Ozone Secretariat
- U.S. EPA — Phaseout of Ozone-Depleting Substances
- 環境省 — フロン排出抑制法(フロン類に関する情報)
- 一般社団法人日本冷凍空調工業会(JRAIA)
- ASHRAE — 技術基準と冷媒に関する情報
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