S235JRG2徹底解説：特性・規格・設計・施工で知るべきポイント

2025年12月29日 最終更新日時 : 2025年12月29日 エバープレイ編集部

はじめに：S235JRG2とは何か

S235JRG2は、建築・土木分野で広く用いられる非合金構造用圧延鋼材の呼称の一つです。一般的にはEN 10025（非合金構造用鋼の供給条件）に基づくS235系の鋼に該当し、メーカーや国によってはS235JRやS235J2と同等、もしくは近似の呼称として扱われることがあります。本コラムでは、規格と名称の違い、化学成分・機械的性質、加工・溶接性、設計と施工上の注意点、応用例、品質管理と試験、代替材との比較までを詳しく解説します。

規格・呼称の整理

まず重要なのは「S235JRG2」という表記はメーカーや流通業者のカタログ表記として見られることが多く、正式な規格名はEN 10025-2（Structural steels — Part 2: Technical delivery conditions for non-alloy structural steels）に規定されるS235系列です。EN 10025では、衝撃試験温度などによりS235JR、S235J0、S235J2などのサブグレードが規定されています。

  • JR：衝撃試験が+20°Cで行われ、最低衝撃吸収エネルギーが満たされること（一般に27Jが基準）
  • J0：衝撃試験が0°Cでの要求
  • J2：衝撃試験が-20°Cでの要求（低温特性が求められる用途向け）

「G2」は、流通上や生産者の便宜上付される追加コードであり、供給状態や厚さ群、加工履歴などを示す場合があります。従って、設計・調達時は必ず製品証明書（MTC: Material Test Certificate）やメーカー仕様を確認してください。

化学成分（代表値）

EN 10025系のS235系列は非合金鋼であり、化学成分は比較的シンプルです。代表的な元素と概略の最大値は以下の通りです（規格版や製造条件、厚さにより変動しますので保証値は該当製品のMTCで確認してください）。

  • 炭素（C）：最大 約0.17～0.22％（製造者表記や厚さに依存）
  • マンガン（Mn）：約 ≤1.50％
  • リン（P）：≤0.035％程度
  • 硫黄（S）：≤0.035％程度
  • シリコン（Si）：≤0.55％ 程度

これらの数値はあくまで典型値であり、製造者が提示する化学成分表を必ず確認することを推奨します。特に、溶接や低温特性を重視する場合は微量元素や冶金処理履歴が性能に影響します。

機械的性質（代表値）

S235系の特徴は「降伏点（Yield）が約235 MPaを基準」となる点です。厚さによる降伏強度の低下が規格で定められており、一般的な最小値の目安は下記の通りです（EN規格に準拠した一般的な厚さ区分）：

  • 厚さ ≤ 16 mm：最低降伏強さ ReH = 235 MPa
  • 16 < 厚さ ≤ 40 mm：ReH ≈ 225 MPa
  • 40 < 厚さ ≤ 63 mm：ReH ≈ 215 MPa
  • 63 < 厚さ ≤ 80 mm：ReH ≈ 205 MPa

引張強さ（Rm）は一般に約360〜510 MPa 程度の範囲にあり、伸び（A）は厚さにより変わりますが、許容値は20〜26％程度が目安となります。衝撃試験に関してはJRであれば+20°Cでのクリアが求められ、J2であれば-20°Cでの衝撃靱性が要求されます。

溶接性・熱処理

S235系は低炭素鋼であり、溶接性は良好です。一般的な溶接方法（アーク溶接、MAG、MIG,TIG 等）で施工可能で、前処理や適切な溶接材料（フィラー）を選定すれば溶接割れのリスクは低くなります。ただし以下の点に注意してください。

  • 厚板や熱影響部（HAZ）では脆化のリスクがあるため、適切な予熱・後熱処理が必要な場合がある。
  • 低温環境での使用が想定される場合はJ2グレードや別途低温靱性を確保した材料を採用する。
  • 高い疲労強度が要求される継手や動荷重部では、溶接形状・仕上げ・残留応力対策が重要。

熱処理については、S235は焼き入れ焼き戻し等の強化処理を前提とした鋼材ではなく、通常はノーマライズや焼鈍などを行って内部応力や組織を均一化することがあります。熱処理を行う場合は、目的に応じた処理条件の確認が必要です。

加工性（切削・曲げ・孔開け）

切削加工は比較的容易で、一般的な工具で加工可能です。曲げ加工やプレス加工でも塑性加工性は良好ですが、板厚や曲げ半径によっては割れや表面ひずみに注意が必要です。孔開けやタップ加工は標準的条件で対応できます。

耐食性・表面処理

S235系は非合金炭素鋼のため、耐候性や耐食性は限定的です。屋外構造物や腐食環境では塗装、亜鉛めっき（溶融亜鉛めっき）、耐候性鋼への置換などの保護処置が必要です。特に海岸近傍や化学雰囲気では適切な防錆処理を前提としてください。

主な用途

  • 構造用鋼材（梁・柱・ブレース等の一般鋼構造）
  • 橋梁、鉄骨造建築、プラットフォーム
  • 建築用鋼板・鋼管（荷重を受ける一般用途）
  • 重機・一般機械フレーム（特別な高強度が不要な部位）

コストパフォーマンスに優れ、汎用的に使えるのがS235系列の強みです。

設計上の留意点

設計者は以下を確認してからS235系を指定してください。

  • 使用温度域（低温脆性が問題となる場合はJ2相当や別鋼種の検討）
  • 荷重種別（静荷重・動荷重・疲労荷重）による材厚・接合方法の選定
  • 耐食要求（塗装・めっき等の表面処理仕様）
  • 供給条件（板厚、規格版、製品証明書の項目）
  • 溶接手順書（WPS）や試験（引張・曲げ・衝撃試験など）の適合性

S235JRG2と他規格との比較

代表的な類似鋼種との比較（概略）:

  • JIS SS400：一般的にS235と同等レベルの汎用構造用鋼とされることが多いが、成分や機械的性質に差異があるため互換は慎重に判断する。
  • ASTM A36：米国で広く使われる構造用炭素鋼。S235に近い用途範囲だが、機械的特性や衝撃試験条件で差が出る場合がある。
  • S275/S355：S275はS235より高い最低降伏強度（275 MPa）を持ち、S355はさらに高強度（355 MPa）を持つ。設計で強度向上が求められる場合の代替候補となる。

置き換え時は設計基準、溶接条件、疲労や靱性要求を含めて総合評価することが重要です。

品質管理・試験

製品受入時に確認すべき主な項目は以下です。

  • 材料証明書（EN 10204 3.1/3.2 等）による化学成分・機械的性質の証明
  • 引張試験、曲げ試験、衝撃試験（グレードに応じた温度での実施）
  • 非破壊検査（超音波探傷・磁粉探傷など）、寸法・外観検査
  • 溶接後の試験（必要に応じて硬さ試験、マクロ・ミクロ検査）

また、トレーサビリティ（バッチ番号・熱処理履歴など）を確認することで、施工段階でのトラブルを未然に防げます。

実務上のTIPS

  • 構造設計の際は、降伏強度は厚さにより低下する点を常に考慮する（設計計算では該当厚さの最低値を用いる）。
  • 溶接品質を確保するために、溶接材料（ワイヤ・ロッド）はメーカー推奨のものを使い、WPSに基づいた管理を行う。
  • 屋外や腐食環境では、工程初期から防錆対策（選定、塗装仕様、めっき）を設計に組み込む。
  • 低温での使用が想定される場合は、設計段階で靱性確認（J2相当かどうか）を行う。

まとめ

S235JRG2はコストと性能のバランスが良く、建築・土木の汎用構造材として非常に有用です。ただし、「S235JRG2」という表記は供給元による表現であることがあり、実際の化学成分・機械的性質、供給条件（G2の意味含む）は製品証明書で確認する必要があります。設計・施工時には厚さごとの降伏強度、衝撃靱性、溶接プロセス、表面処理などを総合的に検討してください。

参考文献

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建築・土木
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