S275J2とは？特性・機械的性質・溶接性・用途・設計上の注意点を徹底解説

2025年12月29日 最終更新日時 : 2025年12月29日 エバープレイ編集部

はじめに — S275J2とは何か

S275J2は、EN 10025（欧州の非合金構造用圧延鋼材規格）で定められた汎用構造用鋼材の一つです。記号の「S」は構造用（Structural）、数値の「275」は公称の降伏点（最小許容降伏強さ）をメガパスカル（MPa）で示しており、「J2」は低温衝撃試験の要求を表します。一般にS275グレードは、建築・土木の一般構造部材に広く使われており、S275J2は-20℃でのシャルピー試験において所定の衝撃エネルギーを満たす材料です。

規格上の位置付けと記号の意味

EN 10025-2（非合金構造用圧延鋼材）における表示の読み方は以下の通りです。S275J2は「構造用（S）」「最小降伏点 275 MPa（275）」「J2：27 J（ジュール）以上を満足するシャルピー衝撃試験（-20℃）を意味」。同規格には他にもS235、S355などのグレードが存在し、用途・必要強度に応じて使い分けられます。

機械的性質（公称値と注意点）

代表的な機械的性質は次のとおりです（EN 10025 による公称値・試験要求に基づく）。実際の供給材は製造工程・厚さ・熱処理により変動するため、設計時はメーカーのミル証明（EN 10204 3.1 等）で確認してください。

  • 最低降伏点（ReL / fyk）：275 MPa（小厚さ領域の公称値）
  • 引張強さ（Rm）：おおむね 410〜560 MPa の範囲（板厚等で変動）
  • 伸び（A）：標準試験片での最小伸びは規格で定められた値を満たすこと（一般に20％前後が多い）
  • 衝撃試験（Charpy V）：J2 は -20℃ で最低 27 J を要求

なお、降伏点や引張強さは板厚や供給状態（熱間圧延、熱処理、正規化など）で変化します。厚板になると最低降伏値が若干下がる場合があるため、厚さ別の公差・特性は規格参照、もしくはメーカー確認が必要です。

化学成分（代表的な最大値）

EN 10025-2自体は厳密な全元素の最大値リストを各種で定めていますが、一般に供給されるS275J2の代表的な化学成分（重量％, 最大値の目安）は次のようになります。設計や溶接性評価の際は必ずミル証明で実数を確認してください。

  • 炭素（C）：約 0.20〜0.22%（最大値目安）
  • マンガン（Mn）：約 1.60%（最大値目安）
  • シリコン（Si）：約 0.05〜0.50%（目安）
  • リン（P）：0.025%以下（典型）
  • 硫黄（S）：0.025%以下（典型）
  • その他（Cu, Ni, Cr, Mo, V 等）は微量（製造仕様により異なる）

化学成分から得られる溶接性や焼入れ傾向は、しばしば炭素当量（CE）で評価されます。IIW式の炭素当量（CE）例：

CE(IIW) = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Cu+Ni)/15

この値が低いほど一般に溶接性は良好です。S275系は低合金であり、通常はCEが低めのため溶接性に優れますが、厚さや冷却速度、残留応力などで割れのリスクが高まるため注意が必要です。

溶接性・加工性

S275J2は一般構造用鋼のカテゴリーであり、一般的に良好な溶接性を持ちます。通常の炭酸ガスシールドアーク（MAG）、被覆アーク溶接（SMAW）、TIG 溶接などで問題なく加工できます。ただし以下の点に注意してください。

  • 炭素当量（CE）が高い場合や板厚が厚い場合は、あらかじめ予熱や低水素電極の使用、溶接順序の管理を行う。
  • J2 は低温靭性（-20℃での衝撃）を有するため寒冷地での使用に有利だが、溶接熱影響部（HAZ）での靭性低下に注意。
  • 高い残留応力や割れ感受性が想定される場合はPWHT（部分的または全体の焼鈍）が必要になることがあるが、通常の中厚薄板構造では不要なことが多い。

耐候性・防食処理

S275J2自体は一般的な炭素鋼であり、耐候性は高くありません。屋外構造物や腐食環境下では下列の防食措置が必要です。

  • 塗装（エポキシ、ポリウレタン等）
  • 溶融亜鉛めっき（ホットディップガルバナイズ）
  • 大気腐食性を付与した専用の耐候性鋼材（COR-TEN等）ではないため、代替を検討

用途例

S275J2は汎用的な構造用鋼として、多くの建築・土木用途に用いられます。代表例：

  • 建築梁・柱・トラス部材
  • 一般橋梁の非高強度部材
  • 土木構造物の支承・架構部材
  • 機械フレーム、台座、コンテナ外板などの一般構造部材

より高強度が必要な部分にはS355などを、より低強度で経済性重視の箇所にはS235が選択されることが多いです。

設計上の注意点（構造設計・許容値）

設計時には次の点に留意してください。

  • 設計用強度値：EN対応の構造設計では、特徴強さ（fyk）として275 MPa を用います（設計式や部分係数はEN 1993-1-1等の規定に従う）。
  • 厚さの影響：板厚が増すとミニマムの降伏強さや靭性の保証が異なる場合があるため厚さ別の規格要求を確認する。
  • 溶接による影響：溶接による局所的な靭性低下や残留応力に対する対策（溶接手順、プレヒート、後熱処理など）を検討する。
  • 検査・試験：重要構造部材では機械的試験（引張、衝撃）や非破壊検査（超音波検査、磁粉探傷等）を規定する。

試験・認証と調達時の注意

材料を発注する際は、次を明確に指定してください。

  • グレード：S275J2（必要ならJ2の衝撃保証温度とエネルギーを明示）
  • 供給状態：熱間圧延（AR: as rolled）、正規化（+N: normalized）等の条件
  • 必要試験：引張、シャルピー衝撃試験、化学成分分析、ミル証明（EN 10204 3.1）等
  • 寸法・公差・表面仕上げ・溶接性に関する要件

他グレードとの比較（S235・S275・S355）

短く比較すると：

  • S235：最低降伏点235 MPa、経済性重視の汎用材
  • S275（S275J2含む）：降伏点275 MPa、幅広い用途で標準的に採用される
  • S355：降伏点355 MPa、より高強度を要求される箇所向け

選定は構造的要求（荷重、部材細長比、接合条件）、溶接性、コスト、入手性を勘案して行います。

実務的アドバイス・チェックリスト

設計者・購買担当者・施工者向けの簡単なチェックリスト：

  • ミル証明（EN 10204 3.1）で降伏点・引張強さ・化学成分を確認する。
  • 衝撃試験の結果（-20℃で27 J以上）を確認する（J2要求）。
  • 板厚・供給状態による機械的性質の変化を評価する。
  • 溶接の際はCE値を計算し、必要ならプレヒート・低水素溶接棒等を指定する。
  • 防食対策（塗装・めっき）を設計段階で決め、接合部の防食処理方法も明記する。

まとめ

S275J2は、-20°Cでの衝撃靭性が保証された汎用構造鋼で、建築・土木の多くの用途に適したバランスの良い材料です。機械的性質・化学成分・熱処理状態・板厚により特性が変動するため、設計・発注時には必ず規格（EN 10025-2）やミル証明、供給元のデータシートで確認してください。特に溶接環境・低温環境・厚板や高応力部材では追加の設計・施工管理が必要になります。

参考文献

SteelConstruction.info — S275 steel

Wikipedia — EN 10025

EN 10025-2（規格紹介・解説） — GlobalSpec

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