EN10025-2とは?構造用非合金鋼の規格解説と設計・施工での実務ポイント
概要:EN10025-2が対象とするもの
EN10025-2は「Hot rolled products of structural steels — Part 2: Technical delivery conditions for non-alloy structural steels」を扱う欧州規格で、建築・土木向けの熱間圧延された非合金構造用鋼材の供給条件(化学成分、機械的性質、衝撃試験、製造・熱処理条件など)を規定します。一般にS235、S275、S355といった記号で示される強度等級がこの規格で定義され、設計・製造・検査の基準として広く参照されています(多くの場合EN10025-2:2004 + A1:2009を基準として用いることが一般的です)。
規格の目的と適用範囲
規格の目的は、建築および土木用途に使用される熱間圧延鋼材について、最低限の品質保証を与えることです。具体的には以下を規定します。
- 鋼級(S235、S275、S355 など)とその機械的性質(降伏点・引張強さ)
- 化学成分と元素の最大値(炭素含有量など)
- 衝撃試験(Charpy V-notch)に関する要求値と温度条件
- 供給条件(熱処理の有無、厚さに応じた要求など)
- 製品の試験・検査方法と付随する証明書類
鋼級の読み方と意味
EN規格の鋼名は例えば「S355J2」をように表されます。意味は以下の通りです。
- S:構造用(Structural)
- 数字(235、275、355など):最低降伏強度(ReH)をMPaで示す(例:S355は最低降伏強度355MPa)
- JR / J0 / J2:Charpy衝撃試験の温度条件を示す。JRは+20℃、J0は0℃、J2は−20℃で規定された衝撃エネルギー(通常27J)を満足することを表す
- +N 等の追記:+Nは正規化(normalized)または正規化圧延(normalized rolled)などの熱処理を示すことがある(供給条件の指定)。
代表的な機械的性質
代表的な鋼級の最低機械的性質(材厚が規定範囲内での値)は以下の通りです(設計・調達時は必ず材料証明書(EN 10204など)と該当版の規格で最終確認を行ってください)。
- S235:最低降伏強度 ReH = 235 MPa、引張強さ Rm ≈ 360–510 MPa
- S275:最低降伏強度 ReH = 275 MPa、引張強さ Rm ≈ 410–560 MPa
- S355:最低降伏強度 ReH = 355 MPa、引張強さ Rm ≈ 470–630 MPa
これらは最低値の規定であり、実際の材質は製造方法や熱処理により変化します。
化学成分と溶接性の関係
EN10025-2は元素の最大含有量を定め、特に炭素当量(Ceq)に影響する元素(C、Mn、P、S、Si、Cr、Mo、Niなど)を管理します。炭素量が高いほど溶接割れや熱影響部の硬化傾向が高まるため、溶接性の観点からは低炭素であることが望ましいです。標準品は比較的低Cであり、通常の溶接施工は問題なく行えますが、厚板や高強度鋼では事前・事後の熱処理や溶接手順(プリヒート、PWHTの要否)を検討する必要があります。
衝撃試験(低温靭性)に関する要求
JR、J0、J2の識別はCharpy V-notch試験の基準温度を表します。構造用途では使用環境温度と鋼材の脆性転移温度を考慮して適切な等級を選びます。寒冷地や低温環境に設置される構造物ではJ2(−20℃)相当の低温靭性を満たす材料が求められることが多く、厚さによる試験の適用範囲や必要な横方向試験なども規格で定められます。
供給条件・熱処理(+N等)の扱い
EN10025-2には供給状態に関する規定があり、例えば+N(normalized or normalized rolled)は熱処理により靭性や均質性を高めた状態を示します。また、熱間圧延のみの“as-rolled”や熱処理なしの“+AR”などの表記も現場で見られます。供給条件は機械的性質や許容厚さ、衝撃試験の適用条件に影響するため、設計時に明確化することが重要です。
製造・検査・証明書
EN10025-2に基づく材料は、一般に材料証明書(EN 10204 3.1など)で化学成分、機械的性質、試験結果が示されます。検査項目には引張試験、曲げ試験、衝撃試験のほか、寸法・外観検査や表面欠陥の確認が含まれ、必要に応じて追加のNDT(非破壊検査)が要求されます。
設計と施工での留意点
- 温度環境:使用温度に応じてJR/J0/J2等級を選定する。低温では脆性破壊のリスクが高まる。
- 厚さと試験適用:厚板では衝撃試験の方法やサンプルの位置が変わる。規格の厚さ限界を確認する。
- 溶接性:鋼種・厚さ・構造部位に応じた溶接仕様(プリヒート、溶接材料、施工手順)を定める。
- 表面保護:屋外構造物では亜鉛めっき、塗装等の防食措置を検討。表面状態は溶接や接合に影響する。
- 材料トレーサビリティ:施工品質確保のため証明書と材番の管理を徹底する。
EN10025-2と他規格(JIS等)の関係
EN規格とJIS等他規格は「近似」する等級は存在しますが、化学組成や試験条件が微妙に異なるため無条件の互換は避けるべきです。例えばS355は日本の代表的な高強度鋼と近い性能をもつ場合がありますが、設計荷重、溶接特性、耐候性など細部で差異があるため、相互互換性を前提にする際は詳細な材質比較と承認手続きを行う必要があります。
調達時の実務チェックリスト
- 規格版(例:EN10025-2:2004+A1:2009)を明示して発注する
- 必要な鋼級(S235/S275/S355)と靭性等級(JR/J0/J2)を指定する
- 供給状態(+N等)と許容厚さを明確にする
- 必要な試験(引張・衝撃・表面検査等)を契約で確定する
- 証明書の形式(EN10204 3.1等)を指定し、トレーサビリティを要求する
まとめ:設計者・現場技術者へのアドバイス
EN10025-2は欧州での構造用非合金鋼の基本を定める重要な規格です。材料選定時には単に鋼級だけでなく、供給状態、衝撃特性、厚さに対する試験要件、溶接・加工条件といった点を総合的に確認してください。特に低温環境や厚板、重要な接合部では材質の靭性と溶接手順の検討が品質と安全性を左右します。発注書には規格版・鋼級・衝撃等級・供給条件・証明書要求を明記し、納入証明書で実物が規格を満たしていることを必ず確認しましょう。
参考文献
- EN 10025-2 — steelconstruction.info
- BSI: EN 10025-2 (購入ページ、規格本文)
- Tata Steel: Steel grades and datasheets (参考データ)
- 日本工業標準調査会(JISC):JIS規格情報(参考)
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