トム・ジョビンの名盤ガイド:ボサ・ノヴァのオリジナル盤・初期プレスの見分け方と収集ポイント
はじめに — ボサ・ノヴァとトム・ジョビンのレコード文化
アントニオ・カルロス・ジョビン(通称トム・ジョビン、1927–1994)は、ボサ・ノヴァを世界に広めた最重要作曲家の一人です。彼のメロディと和声はレコーディングの歴史と深く結びついており、CDやストリーミングよりもレコード(アナログ盤)で聴かれるべき音楽体験を多く残しました。本コラムでは代表曲を中心に、レコード(オリジナル盤や初期プレス)に注目して解説します。レコード収集家、ディスクジョッキー、音楽史愛好家に向けて、音楽的背景と具体的な盤情報、ディテールの見分け方まで掘り下げます。
トム・ジョビンの代表曲とそのレコード史(概説)
ジョビンの代表曲には「Chega de Saudade(想いあふれて/シェガ・ジ・サウダージ)」「Desafinado」「Garota de Ipanema(イパネマの娘)」「Águas de Março(3月の水)」「Insensatez(インセンシビリティ/How Insensitive)」「Corcovado(静かな夜/Quiet Nights)」などがあり、これらは各種の重要なLPで初めて録音・普及しました。以下、主要曲ごとにレコード史を追います。
「Chega de Saudade」 — ボサ・ノヴァ誕生とオリジナル盤
「Chega de Saudade」(作詞ヴィニシウス・デ・モラエス、作曲トム・ジョビン)は、ボサ・ノヴァ誕生の象徴曲です。最初期の重要なレコードとしては、1958年のエリゼッチ・カルドーゾ(Elizeth Cardoso)のLP「Canção do Amor Demais」が挙げられます。このアルバムはヴィニシウスがプロデュースし、ギターに若きジョアン・ジルベルトが参加している点で歴史的価値が高く、当該盤のオリジナル・ブラジル盤(Odeonレーベル)はコレクターズアイテムです。
- ポイント:オリジナル・ブラジル盤はOdeonロゴやラベルの表記、スリーブのフォーマットで見分けます。欧米再発と比べてマスタリングや収録テイクが異なる場合があります。
「Desafinado」「The Composer of Desafinado, Plays」 — ジョビンの初期ソロ記録
「Desafinado」はジョビンとニュートン・メンドンサ(Newton Mendonça)による名曲で、ジョアン・ジルベルトの初期レパートリーとも結び付いています。ジョビン名義の初期ソロ作品としては1963年の英米盤タイトル「The Composer of Desafinado, Plays」(Verve)が知られ、ジョビンの作曲家/ピアニストとしての肖像を世界に示しました。こうしたVerve初期プレスはアメリカ・オリジナル盤の需要が高く、モノラル・ステレオの違いも価値を左右します。
「Garota de Ipanema(イパネマの娘)」と「Getz/Gilberto」LPの衝撃
1964年のアルバム「Getz/Gilberto」(Verve)は、スタン・ゲッツ、ジョアン・ジルベルト、アストラッド・ジルベルト、そしてトム・ジョビンの曲をフィーチャーし、世界的ヒットを生みました。特に「Garota de Ipanema」は英語詞で世界的に知られるようになり、同作はグラミー賞を受賞してボサ・ノヴァを国際化しました。オリジナル米Verve盤はジャケットのフォント、マトリクス(runout groove)表記などで識別でき、初版プレスはコレクターの人気が高いです。
- ポイント:Getz/Gilbertoの初期USプレスはモノ/ステレオの違いやレーベル色(赤/黒など)で見分けます。アストラッドの英語詞ヴァージョンが入っている盤が世界的需要を生みました。
「Águas de Março(3月の水)」と「Elis & Tom」の名盤レコード
1972年前後に登場した「Águas de Março」はジョビンの後期名作で、1974年にエリス・ヘジーナ(Elis Regina)と共同制作されたアルバム「Elis & Tom」(Philips)が非常に評価されています。同アルバムはブラジル盤(Philips/PolyGram系)オリジナルが音質、アートワークともに高く評価され、国内外で人気の高いLPです。ジョビンの柔らかな歌とエリスの表現力が対照的に響く名盤で、盤の状態によっては高額取引されます。
その他の重要LP:Wave、Stone Flower など
ジョビンのメジャー・ソロ作には「Wave」(1967)や「Stone Flower」(1970)などがあり、どちらもオリジナルのアナログ盤が収集対象です。特に「Stone Flower」はCTI(Creed Taylor主宰のレーベル)系のサウンドで、ジャズ/フュージョン寄りの編曲を含みます。米国プレスはCTIらしい重量盤で出回り、ジャケットやインナーの仕様、マトリクス表記等でオリジナルと再発を見分けます。
レコード収集の実務的ポイント — 見分け方と注意点
レコード収集で重要なのは「プレスの出自」と「マスター世代」です。以下に実用的なチェック項目を挙げます。
- レーベル表記:Brazil(Odeon, Philips, RGE, Elencoなど)、US/UK(Verve, CTI, Warnerなど)の表記を確認。ブラジル初出のほうが音源・ミックスが異なることが多い。
- モノ/ステレオ表記:1960年代初期はモノラルがオリジナルで、ステレオは後年のマスターから作られることがある。オリジナル・モノ盤は希少価値が高い。
- マトリクス/ランアウト(runout groove):刻印されている母版番号やエンジニアのサインは版を特定する重要手がかり。
- ジャケット仕様:シュリンクの有無(オリジナルは古いためシュリンクが残ることは少ない)、インナーの有無、見開き/ポスターや歌詞カードの有無。
- オリジナル・ラベルの色やフォント:特にVerveやPhilipsはレーベルデザインが年代ごとに変化するため識別が可能。
盤の選び方 — 音質派とコレクション派での違い
音質を重視するならブラジル初出のマスターや初期米盤を狙うと良い場合が多いですが、盤の状態(ノイズ、スクラッチ)と針先への負担も考慮してください。コレクションとしての価値を重視する場合はジャケットやインサートの完全性、希少プレス(限定カラー盤や特別プレス)を確認します。実際の取引ではコンディション(VG+/NMなど)と出品者の説明を細かく確認することが重要です。
まとめ — レコードで聴くジョビンの魅力
トム・ジョビンの音楽は微細なダイナミクス、和声の色合い、演奏の空気感が魅力で、アナログ盤はそれをより直に伝えます。代表曲を含むオリジナルLP群(エリゼッチの「Canção do Amor Demais」、Getz/Gilberto、Elis & Tom、ジョビンのソロ作など)は、単なる音源以上に時代と文化を記録した「資料」としての価値があります。収集の際はレーベル、マトリクス、モノ/ステレオの違い、ジャケット仕様に注目して、音楽史的にも満足のいく1枚を見つけてください。
参考文献
- アントニオ・カルロス・ジョビン - Wikipedia(日本語)
- Getz/Gilberto - Wikipedia(英語)
- Canção do Amor Demais - Wikipedia(英語)
- Elis & Tom - Wikipedia(英語)
- Discogs: Antonio Carlos Jobim(ディスコグラフィ参照)
- Wave (Antônio Carlos Jobim album) - Wikipedia(英語)
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