トム・ジョビンをアナログで聴く初心者ガイド:必携レコード6選・プレスの見分け方と再生/保管のコツ
はじめに — レコードで聴くアントニオ・カルロス・ジョビンの魅力
アントニオ・カルロス・ジョビン(通称トム・ジョビン、1927–1994)は、ボサノヴァの代表的作曲家・ピアニスト・編曲者として世界的に知られています。彼の楽曲は「イパネマの娘(The Girl from Ipanema)」「デサフィナード(Desafinado)」「コルコバード(Corcovado)」など数多くがスタンダードとなり、ジャズやポップスのレパートリーにも深く浸透しました。
CDやサブスクリプションとは異なり、アナログ・レコードでジョビンを聴くときには、楽曲のアレンジや演奏の温度感、録音当時の空気感がダイレクトに伝わってきます。本稿では「レコード」を中心に、入手しておきたい代表的アルバム、盤ごとの聴きどころ、プレスの違い・コレクションのポイント、再生・保管のコツまでを詳しく解説します。
おすすめレコード(必携盤)
-
The Composer of Desafinado, Plays(1963)
解説:ジョビン名義の初期ソロ・アルバムのひとつで、彼自身の作曲センスとピアノ表現をストレートに味わえます。編曲は当時からの共演者が絡み、ボサノヴァの“原点”に近い佇まいが魅力です。ジャズ寄りの演奏感とブラジルのリズム感がバランス良く混ざり、レコードで聴くと中低域の豊かさや空間の広がりが際立ちます。
-
Getz/Gilberto(1964)
解説:正式なクレジットはスタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルトですが、ジョビンは主要な作曲者・編曲の中心人物として参加しています。「The Girl from Ipanema」などを収め、グラミー・アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞した歴史的名盤。ヴァイナルでの人気は非常に高く、オリジナル・プレスや良好なマスターからのプレスは音像の鮮明さが違います。
-
Francis Albert Sinatra & Antônio Carlos Jobim(1967)
解説:フランク・シナトラとの共演作。シナトラの歌唱にジョビンの穏やかなコード進行とストリングスが絡む、クロスオーバーの成功例です。オリジナル・アナログ盤は中低域の密度とボーカルの存在感が優れており、ジャケットやインナーの印刷も盤ごとに差があるためコレクターズ市場でも注目されます。
-
Wave(1967)
解説:ジョビン自身のオーケストラルな作風が前面に出た名作。タイトル曲「Wave」や「Triste」「Dindi」などを含み、クラウス・オガーマンなどの弦編曲とジョビンのメロディ感覚が光ります。アナログだとストリングスの余韻やピアノのタッチが豊かに再現されるため、ハイファイ再生で聴くのが一番良いアルバムの一つです。
-
Stone Flower(1970)
解説:CTI系でのプロダクションを受けたアルバムで、よりファンク/ソウルやブラジルのグルーヴ志向に接近した作品。エウミール・デオダートらの関与もあり、電気楽器やリズム感の強いアレンジが特徴です。ヴァイナルでの低域の押し出しやパーカッションの質感が魅力として引き出されます。
-
Urubu(1976)
解説:1970年代中盤の作品で、アコースティックな面と実験的なアレンジが混ざった一枚。スタジオ・ワークやアンサンブルの空間描写がレコード再生で生きるため、オリジナル盤や良好なマスターからのプレスを探す価値があります。
盤を選ぶ際のポイント(プレスやエディションの見分け方)
同じアルバムでも、オリジナル・プレス/再発盤や国別のプレス(ブラジル盤、米盤、欧州盤)によって音質・ジャケットの出来が大きく変わります。以下が主なチェック項目です。
- 初版・オリジナル・プレスを狙う:リリース年近辺の初回プレスはオリジナル・マスターからカッティングされていることが多く、音場やダイナミクスの再現が優れることが多いです。盤面のrunout(溝の外側にある刻印)やレーベルの表記で確認します。
- レーベル/マトリクス表記:Verve、Reprise、CTI、Philipsなどの表記やカタログ番号を確認。特にCTIやVerveの70年代前後プレスは音質面で評価されることが多いです。
- ブラジル盤の魅力:ブラジル国内盤(PhilipsやOdeon、Elenco等の表記)は、オリジナルジャケットの印刷や写真のトーン、時に別アートワークが採用されることがありコレクター人気があります。ただし盤質は個体差があるので状態確認が重要です。
- モノ/ステレオ差:1960年代の作品はモノラルとステレオの両方が存在することがあります。ジャズ寄りのアルバムではモノが力強いこともあるため、好みによって選んでください。
- リマスター再発盤の注意点:近年の高品質なリマスター盤(180g重量盤など)はクリアで聴きやすい一方で、オリジナルのミックス感(少し狭めの定位やアナログのコンプレッション)が失われる場合もあります。目的に合わせて選びましょう。
レコード音質を引き出す再生環境のコツ
ジョビンの音楽は微細なニュアンスやアンサンブルの空間表現が重要です。以下のポイントで再生環境を整えると、アナログ盤の魅力が最大化します。
- 針・カートリッジの適正セッティング:トラッキングフォースやアジマス(針の角度)を適切に。シェラック/軽い溝の楽曲も多いのでカートリッジの特性に合わせましょう。
- ターンテーブルの安定化:サスペンションや制振を行い、外来振動を抑えると空間表現がクリアになります。
- 良質なフォノイコライザー:RIAA補正が正確でSNが良いものを選ぶと、背景の静けさや低域の量感が向上します。
- 盤のケア:再生前にブラシで埃を払う、必要ならクリーニング機で洗浄しておくとノイズが減り音像が締まります。
求め方と相場感・入手先
ジョビンの主要アルバムは市場で流通量が多い反面、オリジナル・コンディションの良いものはプレミアがつきます。概ね:
- オリジナル・米盤(1960s)やブラジル初版:高め〜プレミア価格
- 70年代以降の良好なプレス:手頃〜中価格
- 近年の重量盤リイシュー:中価格、状態安定
入手先は国内中古レコード店、海外のディスコグス(Discogs)、eBay、そして専門オークションなどが定番です。購入時は盤質(VG+/EX+等)・ジャケットの保存状態・付属インナーの有無を確認してください。音重視ならマトリクスやカッティングエンジニアの記載もチェックする価値があります。
コレクター向けの細かな注目点
より深くコレクションを追求する場合は、以下も見ると発見があります。
- ジャケット裏やライナーのクレジット:どの演奏者が参加しているか、どのスタジオで録音されたかがわかると音の傾向を予測できます。
- オリジナル内袋・帯・広告シートの有無:日本盤やブラジル盤では帯や別紙インサートがつくことがあり、付属品の有無で評価が変わります。
- マスターの違い:同じアルバムでもマスターが異なる複数プレスが存在することがあります。リスナーによってどちらを好むかは別れますが、比較試聴すると面白いです。
具体的にどの盤から買えば良いか(初心者向けガイド)
- 「まずは名曲をレコードで体験したい」→ Getz/Gilberto(良好なステレオ盤または高評価のリイシュー)
- 「歌とオーケストラの美しさを味わいたい」→ Francis Albert Sinatra & Antônio Carlos Jobim(オリジナル或いは良質リマスター盤)
- 「ジョビンのピアノ/作曲をじっくり」→ The Composer of Desafinado, Plays(オリジナル盤か音の評判が良い再発)
- 「よりファンク/モダンな一面を楽しみたい」→ Stone Flower(CTI初版や良好な再発)
まとめ
アントニオ・カルロス・ジョビンの作品は、楽曲の普遍性とアレンジの美しさが魅力で、レコードで聴くときにその真価がいっそう伝わります。上に挙げたアルバムはどれもヴァイナルで聴く価値が高く、プレスやコンディション次第で音の表情が大きく変わります。購入前にプレス情報・マトリクス・ジャケットの状態をチェックし、可能なら試聴して好みの音像を確かめることをおすすめします。
参考文献
- Antônio Carlos Jobim — Wikipedia (English)
- Getz/Gilberto — Wikipedia (English)
- Wave (Tom Jobim album) — Wikipedia (English)
- Francis Albert Sinatra & Antônio Carlos Jobim — Wikipedia (English)
- Stone Flower (Tom Jobim album) — Wikipedia (English)
- Discogs — ディスコグラフィー検索と中古盤情報(検索推奨)
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っておりますので是非一度ご覧ください。
https://everplay.base.shop/
また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery


