Mild High Clubの名盤ガイド:『Skiptracing』徹底解説と聴き方・代表作の位置づけ
Mild High Club――名盤をめぐる深掘りコラム
Mild High Club(マイルド・ハイ・クラブ)は、アレックス・ブレティン(Alexander Brettin)を中心とした米ロサンゼルス発のソロ/プロジェクト型バンドで、サイケデリック、ソフトロック、ジャズ/ウェストコーストの香りをブレンドした独特のサウンドで知られます。本稿では「名盤」と評される作品群を中心に、音楽的特徴、制作背景、聴き方のポイント、各作品が残した影響までを詳しく掘り下げます。
代表的な名盤とその位置づけ
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『Skiptracing』(2016) — プロジェクトの到達点
多くのリスナーや批評家から“Mild High Clubの名盤”として挙げられるのが『Skiptracing』です。本作はアレックス・ブレティンのソングライティングとアレンジ能力が最も結実した一枚と評価され、ソフトロック的なメロディーライン、ジャズ的なコード進行、レトロでありながらモダンなプロダクションが高い水準で融合しています。
特徴としては以下が挙げられます:
- 豊かなコードワーク:メジャー/マイナーのクロマティックな移動やテンションコードが随所に出てきて、単純なポップス以上の“色合い”を生む。
- レイヤードしたアンサンブル:キーボード、ギター、管楽器的なアプローチ(フルートやサックスを想起させるアレンジ)、滑らかなコーラスが空間的に配置される。
- 懐かしさと新しさの共存:70年代のウエストコーストやAORの雰囲気を現代的な音像で再解釈している。
聴きどころは、曲ごとのムードチェンジとアレンジの緻密さ。ひとつのフレーズやコード進行の細かな変化が、曲の印象を大きく変えることが多く、繰り返し聴くたびに新たな発見がある作品です。
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『Timeline』(デビュー作に相当) — 原点の魅力
初期作はよりホームメイド感と自由な発想にあふれており、アレックスのソングライティングの基層が垣間見えます。制作規模や音の密度は後期作に劣るものの、メロディセンスや独自の雰囲気作りにおいてはすでに成熟の片鱗が見られます。
この時期の魅力は「雑多さの中の統一感」で、アイディアの断片がそのまま曲の魅力になっている点です。制作の粗さも愛着に変わるタイプのリスニング体験を好む人に強く薦められます。
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『Sketches of Brunswick East』(King Gizzard & The Lizard Wizard と共作、2017) — ジャズ的実験と化学反応
オーストラリアのサイケ・プロジェクト King Gizzard & The Lizard Wizard とのコラボレーション作は、Mild High Club流のコード進行やメロディ感覚が、よりジャム感や即興的なアプローチに拡張される場面を生みました。本作は両者の長所が化学反応を起こした好例で、ジャズ寄りのリズムやスペースの使い方が特徴。
この共作は、Mild High Club の作曲性がよりバンドサウンドに落とし込まれた好例であり、アコースティック〜電気的テクスチャーが交差する聴きごたえのある一枚です。
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『Going, Going, Gone』(2021) — 成熟と抒情の深化
近年作は、メロディの研ぎ澄ましとサウンドの洗練が際立ち、より歌ものとしての完成度が高くなっています。制作面では古い実験精神を保ちつつ、ポップスとして広く支持されやすい曲作りとプロダクションが導入されています。
感情表現が前面に出る場面が増え、リスナーに寄り添う静かな包容力が作品全体を貫いています。
サウンドの核:何がMild High Clubらしさを生んでいるか
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コード進行とハーモニー感:
単純なトニック‐ドミナント進行に頼らず、色彩豊かなセブンス/テンション付きコード、マイナー/メジャーの交錯、モーダルな転調などを用いて独特の“曖昧で心地よい”空気を作り出します。
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スロー〜ミディアムテンポ中心のムード作り:
過度に激しくならないテンポ設定と、ゆったりしたビートの上で浮遊するメロディが、午後の午後ティーのような余韻を生みます。
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レトロ志向だが現代的な音像:
70年代的な鍵盤サウンドやギター・トーンを参照しつつ、現代的なミックスや空間処理(リバーブ、ディレイ、レイヤリング)で新しさを出しています。
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ボーカルの立ち位置:
柔らかくややナイーブな歌声は楽曲の中心でありつつ、決して前に出すぎずアンサンブルの一部として溶け込みます。これが“和らげる”効果を生み、全体の一体感を高めます。
名盤『Skiptracing』を深く味わうための聴き方ガイド
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1回目(全体像を把握):
アルバムを頭から通しで1回流して、ムードとテンポ感、曲の連なり(流れ)を掴みます。曲間の空気感やイントロ/アウトロのつながりに注目すると構成の妙が見えます。
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2回目(アレンジを追う):
キーボードとギター、コーラスの重なり方に耳を集中。各楽器がいつ入り、どのように空間を作るかを追うと、アレンジの緻密さが理解できます。
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3回目(ハーモニーを解析):
コード進行の転調やテンションを追ってみましょう。歌メロだけでなく、伴奏の小さな和音の変化が曲の色を決めていることがわかります。
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反復の妙:
同じ箇所を繰り返し聴くことで、微細な演奏表現やミックス上の差異(定位、エフェクトの深さなど)が浮かび上がります。ヘッドフォンでのリスニングを強く推奨します。
作詞・歌詞とテーマ
Mild High Clubの歌詞は直接的な物語性よりも、断片的で詩的なイメージを並べる傾向があり、聴き手の感情や記憶を呼び起こすことを狙っています。日常の光景、情緒的な気配、過去の郷愁──そうした要素がメロディと相まって“郷愁の余韻”を作り出します。
制作とコラボレーションの影響
プロデューサーや共演ミュージシャン、そしてKing Gizzardらとのコラボレーションは、Mild High Clubのサウンド自体を拡張しました。共同制作は即興性やバンド感を導入し、スタジオでの化学反応が既存の作風に新しい層を付加しました。
名盤が残したもの:影響と評価
- 同世代のドリーム・ポップやサイケ/インディ・ロックに影響を与え、レトロ志向と現代的解釈の橋渡しを行った。
- リスナー層を拡大し、カジュアルなリスナーにも“聴きやすいが深い”アルバムとして支持された。
- コラボ作を通じてジャンル横断的な実験が肯定される一例となり、音楽シーンの多様性に寄与した。
おすすめの聴き比べ/プレイリスト構成例
- まずは『Skiptracing』の冒頭から数曲を通しで。
- 続けて『Timeline』の代表曲を入れて、初期の素朴さと後期の洗練を対照。
- その後に『Sketches of Brunswick East』の共作曲をはさみ、バンドサウンドでの広がりを感じる。
- 最後に最新作(例:『Going, Going, Gone』)で現在の音楽性の集約を聴くと、プロジェクトの変化と一貫性がよく見えます。
まとめ:Mild High Clubの「名盤」とは何か
Mild High Clubの名盤は、単に過去のサウンドを懐古的に再現するのではなく、過去の要素(ウエストコースト、ソフトロック、ジャズ)を現代的な感性で再編集し、独自の空気感を作り出した点に価値があります。特に『Skiptracing』は、その独特なハーモニー感とアンサンブルの美しさ、そして「聴くほどに深みが増す」構成力で、名盤と呼ぶにふさわしい完成度を示しています。
参考文献
Stones Throw Records - Mild High Club
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