Mild High Club入門:代表曲『Homage』で読む和声・アレンジ・音作りの徹底解説+必聴アルバム

はじめに — Mild High Clubとは

Mild High Club(主宰:Alex Brettin)は、サイケデリック・ポップ、ソフトロック、ジャズ・コーラスの要素をゆるやかに溶かし合わせたサウンドで知られるプロジェクトです。2010年代中盤に発表された作品群で国内外にコアなファンを獲得し、特にアルバム「Skiptracing(2016)」やKing Gizzard & the Lizard Wizardとの共同作「Sketches of Brunswick East(2017)」で広い注目を浴びました。本稿では、Mild High Clubを象徴する代表曲を中心に、楽曲の構造・アレンジ・音作り・歌詞的な特徴まで深堀して解説します。

代表曲としての「Homage」──プロジェクトを象徴する一曲

「Homage」はMild High Clubを語る上で欠かせない代表曲のひとつです(Skiptracing期の楽曲として知られています)。この曲は、彼らの持ち味である“レトロで洗練されたゆるさ”を最も端的に表したトラックと言えるでしょう。

1. ハーモニーとコード進行

  • ジャズ由来のテンション・コード(7th、9th、maj7など)を積極的に取り入れており、シンプルなメロディに対して豊かな和音色が背景を作ります。これにより“懐かしさ”と“洗練”が同居する独特の響きが生まれます。
  • サブドミナントの拡張やモーダル・インターチェンジ(同一調内での借用和音)を用いることが多く、単純なトニック・ドミナント関係に頼らない“漂う”感覚を演出します。

2. メロディと歌詞の特徴

  • メロディは比較的シンプルで反復性が高く、心地よいフックを形成します。派手なカデンツは避けられ、むしろ“歌の抜け感”が重要視されています。
  • 歌詞は断片的な情景描写や感情の揺らぎを淡々と綴る傾向があり、リスナーに余白を残すタイプ。具体的な物語よりもムードや感覚を伝えることに重心があります。

3. アレンジと音色設計

  • ソフトなエレクトリックピアノ、レトロなアナログ感のあるシンセ、クリーントーンのギター、控えめなパーカッションが主な構成要素。これらが低〜中音域でゆったりと重なり合うことで“ラウンジ感”が生まれます。
  • リバーブやテープライクな飽和感を適度に施し、温かみと少しの曇りを与えるプロダクションが特徴。聴き手に時間の歪みやノスタルジーを感じさせます。
  • ブラスやストリングス風の装飾が場面によって顔を出し、曲に瞬間的な彩りを加えますが、過度にならず“さりげない贅沢”に留められています。

4. なぜ「Homage」は象徴曲になったのか

「Homage」は上記の要素をバランスよく凝縮しており、Mild High Clubの音楽的美学──ジャズ的な和音感、サイケ/レトロ・ポップのムード、簡潔で反復的なメロディ──がひとつの短い時間で味わえる点が強みです。ラジオやプレイリストで取り上げられやすい“フックのある気だるさ”を備えているため、プロジェクトの入門曲として多くのリスナーに受け入れられました。

代表曲以外の注目トラックと名盤

Mild High Clubを理解するにはアルバム単位で聴くのがおすすめです。楽曲単体の魅力もさることながら、アルバム全体で統一されたムードや細かなアレンジの伏線回収が楽しめます。特に以下の作品は必聴です。

  • Timeline(2015) — プロジェクトの初期衝動とチルなセンスが詰まった出発点。
  • Skiptracing(2016) — より洗練されたプロダクションとポップへの志向が表出した傑作。先述の「Homage」を含み、メロウで芳醇な楽曲群が並びます。
  • Sketches of Brunswick East(2017、King Gizzard & the Lizard Wizard と共同) — ジャズ寄りの実験心が強く出たコラボレーション作。Mild High Club側の空気感がKing Gizzardの多彩さと混ざり合い、新たな化学反応を起こしています。

演奏・アレンジ観点での聴きどころガイド

  • 和音の“テンション”に注目:7thや9thがどのように曲の色を作っているかを意識すると、裏で鳴るコードの妙が分かります。
  • リズムの軽さ:パーカッションは主張しない代わりにグルーヴを生み出す役割。スネアの抜け感やハイハットの間の取り方に耳を向けてください。
  • サウンドの質感:リバーブやコンプの使い方がムードを決めます。アナログ感(ビニール的な曇り)やテープ風味がある箇所を探すと面白いです。
  • コーラス/ハーモニー:ボーカルの重ねや簡単なコーラスワークが楽曲に親密さを与えます。単独メロディと重なったときの微かな移動(ディソナンスの解消)に注目。

歌詞的テーマと情景描写

歌詞は直接的なストーリーテリングよりも、断片的な情景、記憶のフラッシュ、関係性の浅い会話や気持ちの揺らぎを切り取るようなタイプが多いです。結果としてリスナーは歌詞を自分の経験に当てはめやすく、個人的なノスタルジーや郷愁を喚起されます。

影響関係と音楽的系譜

Mild High Clubの音楽には、60〜70年代のソフトロック、ウェストコースト系のサイケデリア、モダンジャズのコード感、そして現代のローファイ/ベッドルームポップ的なプロダクション手法が混ざっています。これらをゆるやかに再解釈することで、どこか古めかしくも新鮮な“時代を曖昧にする”サウンドを作り上げています。

聴き方・楽しみ方の提案

  • アルバムを通して一度集中して聴き、次にお気に入りの曲だけをループして細部(ギターのフレーズ、コードの分配、背景のエフェクト)を確認する聴き方がおすすめです。
  • 歌詞カードやクレジットを合わせて読むことで、どの楽器や誰の演奏がどのフレーズを担っているかが分かり、より奥行きが出ます。
  • コラボ作品(特にKing Gizzardとの共同作)を挟むと、Mild High Club側の特徴が別の文脈でどう表現されるかを比較でき、理解が深まります。

おわりに

Mild High Clubは“一度聴いて分かる”タイプの即時的なインパクトよりも、繰り返し聴くことで味が出るアーティストです。代表曲や名盤を通じて、和声感覚、音色センス、余白を残す歌詞表現――その三拍子をじっくり楽しんでみてください。

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