Chet Faker入門:Built on Glassを徹底解説—代表曲・サウンドデザインとNick Murphyへの変遷
序文 — Chet Fakerとは何者か
Chet Faker(チェット・フェイカー)はオーストラリア出身のシンガーソングライター、プロデューサーで、本名はNick Murphy。アーティスト名はジャズ・トランペッターChet Bakerへのオマージュに由来します。ソウル、ジャズ、R&Bとエレクトロニカを融合させた独特のサウンドで2010年代のインディー/オルタナティブR&Bシーンに強い印象を残しました。本稿では代表作を中心に、楽曲/サウンド面を深堀りして解説します。
代表作とその位置づけ
- Thinking in Textures(EP/2012) — ブレイクスルーの契機。Bobby Brownの「No Diggity」をスローダウン&ムーディにカバーしたトラックが注目を集め、彼の名前を広めた。
- Built on Glass(アルバム/2014) — 商業的にも批評的にも大きな反響を得たフル・アルバム。シングル「Talk Is Cheap」「Gold」などを収録し、「Chet Fakerらしさ」が最も結晶化した作品。
- コラボレーション — Flumeとの「Drop the Game」(共作/ライヴでも人気)が代表的。英国のプロデューサーMarcus Marrとの共作「The Trouble With Us」など、ダンス/エレクトロの枠を越えた活動も評価された。
- その後の活動(Nick Murphy名義への移行) — 一時的に本名での活動に移行し、表現の幅と実験性を拡げる。Chet Faker時代の特徴を保ちながらも、より直感的/挑戦的なプロダクションを探求したフェーズと言える。
Built on Glass — 名盤たる所以(作品全体の深掘り)
Built on Glassは「ミニマルでありながら温度感がある」サウンドスケープが特徴です。過剰な装飾を避け、ボーカルとメロディ、細やかなテクスチャ(フィールドノイズ、アンビエンス、繊細なパーカッション)で感情を立ち上げる作りが随所に見られます。プロダクション面ではデジタル音源と生楽器が自然に混ざり合い、アナログ的な温もりと現代的なビート感が共存しています。
- 楽曲構造の潔さ — 多くの曲で奇をてらわないAメロ/Bメロ/サビの流れを採りつつ、余白(間)を生かしたアレンジで強い印象を残します。
- サウンドデザイン — 繊細なリバーブ、テープ感を想起させるイコライジング、低域を押し出しすぎないベースラインが全体の落ち着きを作ります。
- 感情表現 — 声の距離感(ささやきに近い表現)とフレージングで「切なさ」や「諦観」を描き、リスナーの想像力を刺激します。
主要トラックの解説(選曲と聴きどころ)
- Talk Is Cheap
- 極めて代表的な1曲。シンプルなドラムループ、エフェクトで処理されたギター、薄く被せるストリングス的な要素が、ボーカルの生々しさを際立たせます。歌詞/歌い方ともに直接的で、抑えた感情表現が胸に残る。 - Gold
- グルーヴを重視したナンバー。アコースティックやエレクトリックの混在するギター・フレーズとスムースなベースが心地よく、夜間ドライブにも合う躍動感を持つ。 - No Diggity(カバー)
- オリジナルとは対照的にテンポを落とし、メロウでソウルフルなテイストに再構築。カバーながらオリジナル以上に“彼らしさ”が出ている好例。 - 1998
- シンセのアンビエンスとドリーミーなメロディが印象的な、内省的なトラック。エコー処理されたボーカルが追憶感を増幅させる。
サウンドの特徴と制作上の工夫
- 声=楽器としての扱い — Chet Fakerの歌声は抑制的で、しばしば楽器の一部としてミックスされます。極端に前に出すのではなく、空間に溶け込ませることで曲のムードを作る手法が多用されます。
- 余白の美学 — 間(ブレス)や静寂を重要視。サウンドが密になり過ぎないことで、聴き手の感情の揺らぎが生じやすくなります。
- ハイブリッドな楽器編成 — 生楽器(ギター、ピアノ)とデジタル要素(シンセサイザー、サンプル)を混ぜ、暖かさと現代性を両立させています。
- ミニマルながら緻密なレイヤー構成 — 単純に聞こえるフレーズも、多層的に微細なテクスチャを重ねているため繰り返し聴いても発見があります。
なぜ今も聴かれ続けるのか(意義と影響)
Chet Fakerの音楽はジャンルの枠を横断し、「歌」を中心に据えた現代的なソウル/R&Bとして多くのリスナーに受け入れられました。プロダクションは流行を取り入れつつも過剰に走らず、必要な要素だけで空気感を作るため、時代を経ても色褪せにくい特性があります。また、シンプルな構成と高いエモーショナルな説得力が、幅広い世代に共感を呼び起こします。
おすすめの聴き方(シチュエーション別)
- 夜の一人時間:ボーカルの細かな表情やエフェクトの残響を集中して味わえる。
- 静かなドライブ:低域を抑えたバランスが車内の環境音と馴染みやすい。
- 作業BGMとして:過度に主張しないため、集中を邪魔せず雰囲気を作れる。
Chet FakerからNick Murphyへ — 表現の変化
アーティスト名を本名に戻す決断は、単なるネーミング以上に表現の幅を求める意図の表れでした。Nick Murphy名義ではより実験的でダイナミックな音作り、歌唱法のレンジを拡げる試みが続き、Chet Faker時代の美点を活かしつつ新たな地平を模索しています。過去作を踏まえつつ現在作を追うことで、彼の成長や変化をより深く楽しめます。
推薦トラック(入門プレイリスト)
- Talk Is Cheap
- Gold
- No Diggity(カバー)
- 1998
- Drop the Game(Flume & Chet Faker)
- The Trouble With Us(Marcus Marr & Chet Faker)
まとめ
Chet Fakerは「声と質感で世界を作る」ことに長けたアーティストです。Built on Glassを中心に据えれば、その静謐で温度感あるプロダクションと率直な感情表現が名盤たる所以であることが見えてきます。時代とともに名前やサウンドを変えつつも、核にあるのは「歌で聴く者を引き込む力」。初めて聴く人は代表曲から入るのが何よりのおすすめです。
参考文献
- Chet Faker — Wikipedia
- Built on Glass — Wikipedia
- Thinking in Textures — Wikipedia
- Drop the Game (Flume & Chet Faker) — Wikipedia
- The Trouble With Us (Marcus Marr & Chet Faker) — Wikipedia
- Nick Murphy (musician) — Wikipedia
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