Chet Faker(ニック・マーフィー)代表曲5選|No Diggity〜Drop the Game・Talk Is Cheapまで徹底解説と聴き方
はじめに — Chet Faker(ニック・マーフィー)という存在
Chet Fakerはオーストラリア出身のシンガーソングライター、プロデューサーで、本名はNicholas James Murphy(ニック・マーフィー)。ジャズ・トランペッターのチェット・ベイカーにインスパイアされたステージ名の下、R&B/エレクトロニカを横断する独特のムードと“声の佇まい”で注目を集めました。ここでは代表曲をピックアップし、それぞれの楽曲性、制作上のポイント、リスナーに与える印象やキャリア上の位置づけを深掘りします。
代表曲の選定基準
今回「代表曲」として取り上げる基準は、リスナーへの影響力(話題性・ロングランでの支持)、アーティストの音楽的特徴をよく表しているか、キャリアの転機になったか、の3点です。具体的には以下の曲を深掘りしていきます。
- 「No Diggity」カバー(ブレイクのきっかけ)
- Flumeとの「Drop the Game」(コラボレーションの代表作)
- 「Talk Is Cheap」(アルバム『Built on Glass』の先行シングルで代表曲)
- 「Gold」(同アルバムを代表するもう一つの傑作)
- 「1998」(メロディと郷愁感を体現する曲)
No Diggity(カバー) — 最小限のアレンジが生んだ強烈な第一印象
オリジナルはBlackstreetの1996年のヒットR&Bですが、Chet Fakerのアプローチはまったく別物です。大胆にテンポを落とし、電子的なドローンやリバーブを効かせた空間の中に、彼の柔らかいヴォーカルがポツリと浮かぶような構成。原曲のグルーヴ感を“削ぎ落して”提示することで、歌詞やメロディの持つ感情がより直接的に伝わります。
ポイント:
- テンポダウンとサウンドの間引きにより、歌声のニュアンスが前面に出る。
- オリジナルのファンク寄りのエネルギーを再解釈し、ムーディーで内省的なR&Bに変換。
- ライブや映像での露出がChet Fakerという名を広める大きな役割を果たした。
Drop the Game(Flume & Chet Faker) — プロダクションと声の化学反応
豪エレクトロニカ・プロデューサーのFlume(ハーレー・ストリーテン)とのコラボレーション曲。「Drop the Game」はFlumeの特徴的なハーフタイムビートや独特のサウンドデザインと、Chet Fakerの生々しいヴォーカルが混ざり合い、エレクトロニカとソウルの橋渡しをしました。
注目点:
- ビートと低音の空間処理が、ヴォーカルの“息遣い”や間を引き立てる。
- 楽曲はダンス・ミュージック寄りでありながらエモーショナルな引力を保ち、クラブ/ラジオ双方で受け入れられた。
- このコラボはChet Fakerをより国際的な注目へと押し上げ、以降のサウンド志向にも影響を与えた。
Talk Is Cheap — 印象的なフックと“切なさ”を形にした一曲
2014年のフルアルバム『Built on Glass』からの先行シングル。ミニマルなリズム、反復するギター・フレーズ、そしてChet Fakerの“やわらかながら訴える”ヴォーカルが組み合わさり、歌詞の主題(言葉の軽さ、約束と実行のギャップ)を音で表現しています。
分析のポイント:
- イントロから入るリズムループと刻まれるギターが曲の基調を作る。余白を生かしたアレンジが切なさを増幅。
- サビの"Talk is cheap"というフレーズの反復が、歌詞のテーマを簡潔に体現している。
- ミュージックビデオやライブ・パフォーマンスでの表現力も相まって、アルバムの顔として広く認知された。
Gold — 身近なグルーヴと湿度のある歌声
同じく『Built on Glass』の代表曲。滑らかなギターリフやファンキーなリズム、そこに乗るChet Fakerの声の“鼻腔に残るような温度感”が特徴です。ポップ性とアート性のバランスがよく取れた楽曲で、ラジオヒットにもなりやすい構造を持ちながら、音色や空間表現の妙で単なるポップス以上の深みを出しています。
聴きどころ:
- リズム隊は堅実だが煩雑さを避け、歌とフレーズを目立たせる設計。
- 歌詞は直接的なラブソングではなく、感情の揺らぎや距離感を描写する。
- 楽器のパンチよりも質感(エフェクト、リバーブ、EQ)で勝負している点がプロダクションの肝。
1998 — ノスタルジーとメロディの勝負
この曲はタイトルが示す通り、過去への回帰やノスタルジーを湛えたトラック。シンセの温もり、スムースなベースライン、そして切なさを帯びたメロディが相まって、時代の匂いを漂わせつつもモダンに仕上がっています。ヴォーカル・フレージングにおける“間”の取り方が非常に効果的で、聴き手に余韻を残します。
技術的な観点:
- メロディラインは単純だが、ファーストリスニング後に反芻したくなる力を持つ。
- プロダクションは控えめで、古いポップ/R&Bの良さを現代のサウンドデザインで再構築している。
楽曲スタイルに見るChet Fakerの特徴
以上の代表曲に共通するChet Fakerの音楽的特徴をまとめると:
- 声の“質感”を最大限に活かすアレンジ(余白とリバーブの使い方)
- ミニマルだが緻密なビート作りとサウンドデザイン
- ジャズ/R&Bの要素をエレクトロニカやインディ・ポップと融合するセンス
- カバーやコラボを通じて既存楽曲の再解釈を得意とする姿勢
キャリアへの影響とその後の展開
「No Diggity」のカバーやFlumeとの「Drop the Game」での国際的な注目、そして『Built on Glass』の成功は、Chet Fakerを単なる“インディの注目株”からオーストラリアを代表するアーティストの一人へと押し上げました。その後、ニック・マーフィーとしての活動や、名前の使い分けなど表現上の模索も続いていますが、代表曲群は彼の音楽的アイデンティティを明確に示すものとして今も色あせません。
まとめ — 聴き方の提案
Chet Fakerの曲を初めて聴くなら、まずは「Talk Is Cheap」「Gold」「Drop the Game」の流れで聴くと、彼のヴォーカル表現とプロダクションの相互作用を掴みやすいです。次に「No Diggity」のようなカバーで彼の解釈力、「1998」でメロディと言葉の染み方を確かめる――という順が理解を深めるのに効果的です。
参考文献
- Chet Faker - Wikipedia
- Built on Glass - Wikipedia
- Drop the Game (Flume & Chet Faker) - Wikipedia
- Pitchfork(レビューやインタビューを参照)
- The Guardian(アーティスト・インタビュー等)
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