カエターノ・ヴェローゾ入門:トロピカリアから現代までレコードで聴くべき厳選名盤ガイド

Caetano Veloso を知るためのイントロダクション

ブラジル音楽史において、Caetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)は20世紀後半から現在に至るまで最も影響力のあるアーティストの一人です。トロピカリア(Tropicália)運動の中心人物として、伝統的なMPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)とロック、サイケデリック、前衛音楽、さらに政治的メッセージを融合させ、ブラジル文化の再定義に大きな役割を果たしました。本コラムでは、キャリアを俯瞰しつつ「ぜひレコードで聴いてほしい」アルバムを厳選して深掘りします。

Tropicália: ou Panis et Circenses(1968) — トロピカリア運動の原点

アルバムというよりは、Gilberto Gil、Caetano Veloso、Os Mutantes、Tom Zé らを集めたコンピレーションですが、トロピカリアの思想やサウンドを理解するうえでの必携盤です。伝統と外来音楽の混淆、政治的な反語、そして破壊的な美学──ここに包括されています。

  • 代表曲(参加曲): "Panis et Circenses"(Os Mutantes らと共作)、Caetano のショート曲群
  • 聴きどころ: 演奏の多様性、アレンジの実験性、ブラジル大衆文化への批評的視点
  • おすすめポイント: トロピカリアの「理念」と多様なサウンドを一度に体感できる入門盤

Domingo(1967) — 若き日の親密なデュオ作(Gal Costa と共演)

Caetano が Gal Costa と共作したデビュー的なアルバム。反体制的な爆発の前の繊細さと歌い手としての純度が光ります。ポップでありながらも詩的な歌詞、柔らかなアレンジが魅力です。

  • 代表曲: "Queixa", "Língua"(両者のハーモニーが美しい)
  • 聴きどころ: 若い感性が躍動するヴォーカル、アコースティック中心の編成
  • おすすめポイント: トロピカリア以前の素顔を知るには最適

Caetano Veloso(1969) — ソロ初期の重要作

自己名義の早期ソロ・アルバムで、トロピカリアの衝撃がソロ作にも反映された一枚。シンプルなフォーク調の曲から電化されたトラックまで幅広く収録されています。彼のソングライティング能力と文化批評性がより明瞭に出ている時期の作品です。

  • 代表曲: 当時のシングル曲群やライブで育った重要曲群
  • 聴きどころ: メロディーの美しさ、歌詞の機微、時代の空気感
  • おすすめポイント: カエターノのソロ作の出発点を押さえる一枚

Transa(1972) — ロンドン亡命期の傑作(国際的評価も高い)

1971〜72年、政治的理由で国外にいたカエターノがロンドンで制作したアルバム。英語とポルトガル語が混在し、ブラジル音楽とフォーク/ロックのサウンドが見事に溶け合っています。抑制の効いた悲哀とユーモアが同居する名盤として、批評家からも高い評価を受けました。

  • 代表曲: "You Don't Know Me"(英語曲)、「トロピカリア的」ポップ性と内省的な歌詞のバランスが絶妙
  • 聴きどころ: 国外で鳴らしたブラジル音楽の新しい可能性、録音の瑞々しさ
  • おすすめポイント: 国際的な視点と個人的な内省が同居する名作。初めてカエターノを聴く人に薦めやすい

Araçá Azul(1973) — 前衛的・実験的側面の極地

このアルバムは当時のリスナーや評論家を驚かせた実験作で、音響的な冒険と破壊的な歌詞表現が特徴です。商業的成功とは一線を画し、アーティストとしての「自由」を強く打ち出した作品と言えます。

  • 代表曲: アルバム全体が一つの実験的作品としての価値を持つため、特定のヒット曲よりアルバム体験が重要
  • 聴きどころ: アレンジの野心性、非定型な楽曲構成、詩的な言葉遊び
  • おすすめポイント: アーティストの「驚き」を体験したい聴き手、前衛・実験音楽好きに強く推奨

Livro(1998) — 詩性と成熟の頂点

90年代末の作品で、言葉とメロディの緻密さが光ります。Caetano の詩人性が前面に出たアルバムで、豊かなアコースティック・アレンジと深い歌詞が特徴。国際的にも高く評価された成熟期の代表作です。

  • 代表曲: 詩的で内省的な楽曲群(アルバム全体のまとまりを楽しむのが良い)
  • 聴きどころ: 言葉選びの巧みさ、穏やかながら深い表現
  • おすすめポイント: ライナーノーツや詩の世界をじっくり味わいたい人向け

Cê(2006)/Zii e Zie(2009) — 21世紀の挑戦:ロック〜電子の接点

21世紀に入ってからの代表作。Cê はロック色・生々しさを強め、Zii e Zie はラテン・グルーヴと即興的エネルギーが特徴です。どちらも若い世代のプロデューサーやミュージシャンとコラボし、常に変化し続ける姿勢を示しています。

  • 代表曲: どちらのアルバムにも力強いナンバーが並ぶ(ライブでも人気の曲多数)
  • 聴きどころ: 年齢を超えたアーティストの衝動、現代音楽との融合
  • おすすめポイント: カエターノの「今」を追いたい人、ロック的エッジを聴きたい人に

Abraçaço(2012) — 再び注目を集めた近年の傑作

成熟したソングライティングと現代のプロダクションが融合した作品で、批評家からも高評価。伝統と現在性のバランス感覚が光り、長年のキャリアを経た余裕と衝動が共存しています。

  • 代表曲: アルバム全体に散りばめられたポップで人間味あるナンバー
  • 聴きどころ: センスの良いアレンジ、温かみのある歌世界
  • おすすめポイント: カエターノの近年作をまとめて体感したい人向け

どのアルバムから始めるか(入門ガイド)

  • まず“トロピカリア”や“Domingo”で歴史的文脈を掴む。
  • 次に“Transa”で国際的な側面とメロディーの魅力を体感する。
  • 実験性を試したければ“Araçá Azul”、詩性を深めたければ“Livro”へ。
  • 現代的な感覚を味わいたければ“Cê”、“Zii e Zie”、“Abraçaço”を。

最後に:Caetano をレコードで聴く価値

カエターノの音楽は単なる「良い曲」以上のものを与えてくれます。歌詞の言葉遊び、時代への応答、音楽的冒険心──レコードの持つ媒体としての時間性とともに聴くことで、楽曲の呼吸や空気感、編成の細部がより豊かに伝わります。ジャンルや年代を横断しながら、彼の変貌と一貫した職人性を追う旅は、ブラジル音楽理解の何よりの近道です。

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