メルセデス・ソーサ名盤完全ガイド|代表曲・Cantora・亡命期録音・ライブの聴きどころ
はじめに — 「声」は歴史を歌う
メルセデス・ソーサ(Mercedes Sosa)は、アルゼンチン出身のフォルクローレ/ニュー・カンシオンを代表する歌手であり、「声なき者の声(La voz de los sin voz)」として南米を中心に深い共感を呼びました。本コラムでは、彼女の代表的な名盤を中心に曲の背景、歌唱表現、社会的・文化的な意義まで深掘りして解説します。レコードの再生や保管の技術的な話題は扱いません。
メルセデス・ソーサという存在
ソーサは1935年にアルゼンチンのトゥクマン近郊で生まれ、フォルクローレの伝統に根ざしながらも、20世紀中盤以降に広がった「ニュー・カンシオン(新しい歌)」運動と深く結びつきました。貧困や抑圧といった社会問題を歌に取り込む姿勢、民族音楽を現代に伝える解釈力、そして力強くも温かな声の表現が人々の共感を集め、政治的弾圧の時代には国外へ亡命する経験も持っています。
代表曲とその意味合い
- Gracias a la vida — 元々はチリのヴィオレタ・パラ作の曲ですが、ソーサの歌唱によってラテンアメリカ全域で深く受け入れられました。人生の哀歓を包み込む、祈りにも似た演奏が特徴です。
- Alfonsina y el mar — アルフォンシーナの死を歌った叙情詩的な作品。ソーサの解釈は詩情と哀愁を際立たせ、歌詞の映像性を聴き手に強く喚起します。
- Canción con todos — ラテンアメリカの連帯を歌うアンセム的な作品。ソーサによる演奏は政治的メッセージを普遍化し、多くの人々にとって共通の歌となりました。
- Solo le pido a Dios — 社会的な良心と非暴力を訴えるナンバー。ソーサの歌唱は曲の訴求力を高め、抗議歌としての役割を強めます。
名盤 深掘り:1. Gracias a la vida(概念的名盤)
「Gracias a la vida」という楽曲はソーサと切っても切れない関係にあります。アルバム単位でのリリース形態やバージョンは複数ありますが、ここで重要なのは彼女の解釈が持つ力です。静謐なイントロから徐々に音色が広がっていく構成、歌詞の一語一語を慈しむように届けるフレージング、そして歌唱の中に漂う人生への感謝と痛みの共存。政治的弾圧や亡命を経験した彼女にとって、この曲は単なる美しい歌以上の意味を持ち、聞き手に歴史を伝える“証言”の役割も果たしました。
名盤 深掘り:2. 亡命期の録音群(パリ・欧州録音)
1970年代後半の軍事政権期、ソーサは国外での活動を余儀なくされ、多くの録音やコンサートをヨーロッパで行いました。亡命期の音源は、彼女の表現がより国際的な響きを帯びる時期を示しています。アレンジには現地のミュージシャンやプロデューサーの影響が入り、伝統的なフォルクローレ楽器とクラシカル/現代的な編成が融合した作品が多く残りました。これらは「アルゼンチン国内で歌えなかった声が世界へ伝播した過程」を聴き取る貴重な資料です。
名盤 深掘り:3. Cantora(2009) — 世代をつなぐ二部作
Cantoraは晩年の代表作で、2枚組(通例「Cantora 1 & 2」)に渡るコラボレーション集です。グスタボ・サンタオラヤ(Gustavo Santaolalla)らの手腕もあり、若手から大御所まで多彩なアーティストがソーサとデュエットしています。ここでの魅力は次の2点です。
- 対話としての音楽性:若い世代のアレンジ感覚や別ジャンルの表現と、ソーサの伝統的な歌唱が直接会話する。相互に補完し合うことで新たな解釈が生まれています。
- 遺された声の重み:年齢による声の変化(かすれや息づかい)はむしろ人間的な深みを与え、曲のメッセージに説得力をもたらします。若い声と並ぶことで世代間の継承が可視化されます。
Cantoraは批評的にも注目され、彼女のキャリアに新たな光を当てる作品となりました。
名盤 深掘り:4. ライブ録音(舞台でのソーサ)
スタジオ録音とは別に、ソーサの真骨頂はライブにあると言っても過言ではありません。コンサートでは観客との呼吸、アドリブ的なフレージング、曲間の語りかけが加わり、歌の意味が膨らみます。特に政治的な時代背景を伴う楽曲はスタジオ版以上に強い共鳴を生み、観衆の合唱や拍手が録音に残ることで「共同体としての音楽」が体感できます。
聴きどころ・分析ポイント
- 楽曲選択と配置:アルバムの曲順は物語性を持つことが多く、序盤の導入、中盤の抗議/嘆き、終盤の希望や祈り、といった流れを意識して聴くと表現の構造が見えてきます。
- 歌唱表現の細部:強弱、ポルタメント(音の滑らかなつなぎ)、息継ぎの位置など、抑揚が歌の感情表現に直結します。ソーサは言葉の母音や子音を丁寧に扱うため、歌詞の意味が音響的にも強調されます。
- 編曲と民族楽器の使い方:チャランゴ、ボンボ、ギター、弦楽器などの配置によって「地元性」と「普遍性」が同居します。どの楽器がメロディを支持しているかを聴き分けると、曲のルーツが見えてきます。
入門盤・おすすめの聴き方
- まずはベスト盤や代表曲集で彼女の声とレパートリーを把握する(「Gracias a la Vida」「Alfonsina y el mar」「Canción con todos」など)。
- 次にCantoraのようなコラボ集で「世代間の対話」を体感する。晩年の豊かな表現力と現代的アレンジの化学反応を味わえます。
- ライブ音源を聴いて、観客との共同体性や即興性を確認する。ライブならではの臨場感がソーサの本質を伝えます。
文化的・政治的な遺産
ソーサの名盤群は単なる音楽的成果ではなく、ラテンアメリカの歴史、政治、文化的連帯を記録するアーカイブでもあります。軍事政権への抵抗、亡命体験、帰還と祝祭、若い世代との協働──これらすべてが彼女のディスコグラフィーに刻まれています。音楽として楽しむだけでなく、その時代背景を知ることが作品理解を深めます。
最後に — どう聴くかが大切
メルセデス・ソーサの名盤は「音の美しさ」だけでなく「語り」を聴く行為です。歌詞の翻訳や歌われた地域の歴史を手元に置いて聴くと、歌の一行一行が意味を持って響いてきます。初めて聴く人は代表曲で声の輪郭を掴み、アルバム単位で聴くことで作り手としての意図や時代背景までを味わってください。
参考文献
- メルセデス・ソーサ - Wikipedia(日本語)
- Mercedes Sosa - Wikipedia(English)
- Mercedes Sosa | Biography, Songs, & Facts — Britannica
- Mercedes Sosa — Artist Page | AllMusic
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っておりますので是非一度ご覧ください。
https://everplay.base.shop/
また、CDやレコードなど様々な商品の宅配買取も行っております。
ダンボールにCDやレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単に売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery


