ウィリアム・S・バロウズの音盤入門:必聴レコード5選と聴きどころ・版選びガイド
序文 — ウィリアム・S・バロウズという音の経験
ウィリアム・S・バロウズ(William S. Burroughs)は小説家・詩人として知られますが、レコード/音盤の世界でも独自の足跡を残しました。彼の音源は単純な朗読録音にとどまらず、カットアップ手法の音像化、即興演奏者との共演、ミュージシャンによるバックトラックとの異種混交など、文学と音楽の境界を曖昧にする試みに満ちています。本コラムでは「まずこれを聴いてほしい」という観点で代表的なレコードを厳選し、それぞれの聴きどころ、文脈、版・音源選びのポイントを深掘りして解説します。
おすすめレコード一覧(深掘り解説)
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Call Me Burroughs(初期朗読録音の代表作)
概要:バロウズの朗読初期録音のひとつ。物語性よりも声の抑揚、間(ま)、そして断片的な語の連鎖が前面に出る作品です。カットアップや断片化した文体を“耳で体験”するのに最適な一枚。
聴きどころ:バロウズの声の質感(低く抑えられた語り、時にユーモアを含む乾いたトーン)が前面に出ます。文章の行間や間の取り方、沈黙の使い方に注目すると、文字で読むのとは異なる別種のリズムが見えてきます。
おすすめの聞き方:ヘッドフォンで、周囲の雑音を極力排して聴いてください。特に朗読の“間”が効果的に作用しますので、CDやデジタルよりも原盤のアナログ再生で体感するのも面白いです。
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The Last Words of Dutch Schultz(物語と演出の融合)
概要:ニューヨークのギャング、ダッチ・シュルツの「最期の言葉」を題材にした朗読を中心に、演劇的な演出や音響的演出が加わったアルバム。ドキュメンタリー的側面とパフォーマンスの混成が特徴です。
聴きどころ:バロウズの語りを軸に、雰囲気作りのための効果音や間(ま)、時に音楽的フレーズが挿入される点が特徴。語りのテクスチャーと音響演出が物語の緊張感を生み出します。
おすすめの聞き方:朗読の“語り手としての存在感”と音響演出の関係を追ってみてください。物語内容よりも「語りが場面をどう形づくるか」に耳を傾けると発見があります。
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Spare Ass Annie and Other Tales(実験的朗読とコラボの響き)
概要:短い断章や物語を並べ、朗読と音楽・環境音が相互作用するように編集された作品。バロウズの断片化された語りが、背景の音像とぶつかり合うことで新しい意味を生みます。
聴きどころ:フラグメンタルな語りがリズムやメロディの輪郭を壊しながらも、裏に流れる音楽や効果音と出会って別の文脈を作る瞬間。文学的内容の「意味」よりも「音としての言葉」の扱い方に注目して聴くと良いでしょう。
おすすめの聞き方:トラックごとに切り替わる雰囲気を味わいながら、言葉が音楽的に変容する瞬間を聴き取りましょう。短い断章が続くため、通しで聴くとコラージュとしての全体像が見えます。
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Dead City Radio(90年代の再評価期におけるコラボレーション集)
概要:バロウズが多様なミュージシャンやプロデューサーと組んで制作した、比較的新しい時期の作品。ポップ/オルタナ系のミュージシャンがゲスト参加しているトラックもあり、バロウズの詩的言語がロック/実験音楽の文脈で再提示されます。
聴きどころ:原稿朗読と現代的な音響アレンジ、ギターやシンセなど生楽器・エレクトロニクスが混じる編曲が特徴。若い世代のミュージシャンとの接触によって、バロウズの作品が新しい聴衆に響く形に再構築されています。
おすすめの聞き方:個々のコラボレーターがもたらすテクスチャーの違い(例えばノイズ寄りのギター、ドローン、サンプリングなど)を追い、その上でバロウズの語りがどう変質するかに注目してください。
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コンピレーション/アンソロジー(入門・変遷把握に最適)
概要:各時期の朗読やコラボ曲をまとめた編集盤は、作風の変遷と音像の移り変わりを一枚で追える便利な入り口です。初期の生々しい朗読から、後年のプロダクション志向の作品まで幅広く収録されていることが多いです。
聴きどころ:年代順に並べられた編集盤なら、声質、語り口、演出の変化を比較できます。断章ごとに様式が異なることが多いので、短いパートを重ねて聴いていくと「バロウズ・サウンドの多様性」が実感できます。
おすすめの聞き方:まず編集盤で「どの時期のどんな音が好きか」を見定め、そのうえで気に入った時期の単体作品を掘る、というのが効率的です。
聴きどころの共通点(文学と音の境界で何を探すか)
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「声の楽器性」を聴く:バロウズの声はイントネーションや間の取り方そのものが楽器的です。語彙の意味よりも音響としての語りに耳を傾けることで、新たなレイヤーが開きます。
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カットアップ/断片性の音化:テキストの断片化は音楽的にも断片的になり、断片が衝突・重なり合うことで予想外の意味や感覚が生まれます。
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コラボレーターの「音世界」を手がかりに聴く:ギタリストやプロデューサーが参加するトラックでは、そのアーティストのサウンドがバロウズの語りをどう取り囲むかを見るのが面白いです。
版(エディション)選びのコツ
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オリジナル盤と再発の違い:オリジナル盤は当時の空気感やミックス感が残っている一方で、ノイズや音圧の面で扱いづらいことがあります。リマスター盤は聴きやすく整えられていることが多いですが、編集(曲順変更やトラック差替え)がある場合もあるため、収録内容は要チェックです。
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コンピ収録曲の出典確認:編集盤やベスト盤は曲ごとに出典が異なり、元のアルバムとは微妙にミックスが違う場合があります。特定の朗読やバージョンを聴きたい場合は、元アルバムのトラックリストを確認してください。
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リマスター情報を見る:プロデューサーやリマスター担当者の記載がある場合、どのような音作りが施されたか(ノイズ除去、EQ調整など)が分かります。原音重視か、現代的な聴取体験を優先するかで選ぶと良いでしょう。
購入・探索のすすめ(どこで探すか、掘る順番)
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まず一枚で全体像を掴むなら:編集盤もしくは年代ごとの代表的な一枚(先に挙げた作品群のいずれか)を選ぶと、バロウズの音世界への入り口として効率的です。
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コラボ作品を掘るなら:クレジットに注目し、興味あるミュージシャン参加のトラックがあるリリースを中心に探すと、文学作品としての側面と音楽的側面の両方を楽しめます。
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現物重視なら:アナログLPのオリジナル盤はコレクターズアイテムになりますが、入手難易度は高め。まずはCDや正規デジタル配信で音源を確認してから、納得した盤を探すのがおすすめです。
音楽史的な位置づけと影響
バロウズの音盤は、パンク、ニューウェーブ、実験音楽、さらにはヒップホップやアンビエントまで幅広いジャンルのアーティストに影響を与えました。朗読・詩の音声化という行為を拡張し、言語の音響性、編集/コラージュとしての音楽表現を示した点が重要です。音楽家にとっては「テキストが楽器になる」可能性を示した先駆的な事例として参照されます。
まとめ — 聴く際の心構え
バロウズの音盤は「曲を聴く」という従来のポップミュージックの聴き方とは違います。語りの節回し、間、断片の連鎖、音響演出、それ自体を「作品」として受け止める感性が求められます。まずはヘッドフォンで集中して一枚通して聴き、気になったパートを繰り返す。そんな聞き方で、バロウズの音の魅力がしだいに立ち上がってくるはずです。
参考文献
- William S. Burroughs — Wikipedia
- Call Me Burroughs — Wikipedia
- The Last Words of Dutch Schultz — Wikipedia
- Spare Ass Annie and Other Tales — Wikipedia
- Dead City Radio — Wikipedia
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