ニコライ・ゲッダ完全ガイド:名盤・代表アリアと多言語歌唱の聴きどころ
Nicolai Gedda — プロフィールとコラムの導入
ニコライ・ゲッダ(Nicolai Gedda)は20世紀を代表するリリック・テノールの一人で、柔らかく伸びやかな声質、完璧に近い多言語の発音、そして膨大な録音業績で知られます。長年にわたってオペラだけでなくアートソングや民族歌曲にも力を注ぎ、国際的に幅広いレパートリーを残しました。本コラムでは、彼の声質と歌唱の魅力、レパートリーの特色、代表的な聴きどころ(入門〜愛好家向け)を深掘りします。
生涯の概略
ニコライ・ゲッダは1925年生まれ、2017年に逝去しました。スカンジナビアを拠点にしながら国際的に活躍し、主要なオペラハウスやフェスティヴァルで客演を重ねました。その活動は長期にわたり、スタジオ録音やライブ録音を含む豊富なディスコグラフィーを残しています。
声質と技術的特徴
- 明瞭で柔軟な声質:軽やかでクリアな高域と均整のとれた中低域を併せ持ち、カラフルかつ聴き取りやすい音色が特徴です。
- コントロールされたピアニッシモ:高音の静かな歌唱(pianissimo)に優れ、フレーズの終わりや繊細な内省を表現する際に強い説得力を持ちます。
- 優れた発音と語学力:母語以外の言語での発音・語り口が自然で、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語、英語など多言語レパートリーをほぼ母語レベルで歌い分けられる点が大きな魅力です。
- 音楽的なフレージングとスタイル感:フレーズを歌う際の呼吸処理と語尾の処理が洗練されており、装飾やイタリア・フランス歌曲、ドイツ語のリートまで各様式に合わせた表現ができました。
レパートリーの幅と特徴
ゲッダのレパートリーは非常に幅広く、次のような領域で特に評価されています。
- モーツァルト:ドン・オッターヴィオ(Don Ottavio)など、クラシカルな側面を要求される役を得意としました。品のある音楽作りが光ります。
- ベルカント(ロッシーニ、ドニゼッティなど):俊敏なレガート、装飾の処理、明るい高音でアルマヴィーヴァやネモリーノなどを得意にしました。
- フランス・レパートリー:メロディーの美しさとフランス語の抑揚を活かした歌曲やオペラで高く評価されました。
- ロシア・スカンジナビアの歌曲:母語に近い感覚で歌う民謡・抒情歌曲の録音も多く、祖国に根ざした作品への取り組みも強みです。
- アートソングとリサイタル:フォーレ、ドビュッシー、リヒャルト・シュトラウス、ロシア歌曲など、オペラ以外のレパートリーでも高品位な解釈を残しています。
表現の魅力と批評的特徴
ゲッダの歌唱は「技術と様式感の融合」がキーワードです。ドラマティックな大声でごり押しするタイプではなく、音色の均整・語り口の明快さ・細かなルバートや装飾による表現で聴き手を惹きつけます。これにより軽やかな役から叙情的な役まで幅広くこなしました。一方で、劇的表現の極限や肉体的な迫力を求める一部の評論家からは“控えめ”と評されることもありましたが、それ自体が彼の美点でもあります。
代表曲・名盤(入門と深掘りのための推薦)
ゲッダは膨大な録音を残しており、初めて聴く人とコレクター向けで選曲が異なります。以下は聴きどころの例です。
- アリア(入門) — オペラ名アリア:
- モーツァルト:「Il mio tesoro(ドン・オッターヴィオ)」— 明澄で伸びやかなモーツァルト唱法を体感できます。
- ドニゼッティ:「Una furtiva lagrima(ネモリーノ)」— ナイーヴな感情表現と繊細なピアニッシモが魅力。
- ロッシーニ:「Ecco ridente in cielo(アルマヴィーヴァ)」— 軽快なフレージングと装飾の巧みさがわかる一曲。
- ビゼー:「Je crois entendre encore(ナディール)」— フランス語の抒情性を美しく歌い上げます。
- 歌曲・リート(入門〜中級):
- フォーレやドビュッシーのフランス歌曲集 — 発音と音色の美しさを堪能できます。
- ロシア歌曲集 — 母国語的な語り口で歌われる抒情歌曲は聴き手の心に残ります。
- 名盤・ディスコグラフィー(深掘り):
- アリア集や“ベスト・オブ”的なアンソロジー盤は入門に最適です。複数のオペラから代表的アリアを抜粋した編集盤で彼の多面性を把握できます。
- 全集やオペラ全曲録音(スタジオ録音/ライブ録音)に手を伸ばすと、役ごとの解釈の違いや歌唱の変化を追えます。長年にわたる録音が存在するため、同一役の異なる録音を比較するのも面白いでしょう。
聴き方の提案
- まずはアリアや短い歌曲から:1曲ずつの鑑賞で声質・語り口を掴むのが効果的です。
- 言語ごとの比較:同一曲を別言語や別録音で聴き比べると表現の微妙な違いが見えてきます。
- 録音年代を意識する:若い頃の軽やかな声と晩年の円熟した歌唱を比較すると、声の成長と解釈の深化を楽しめます。
遺したものと後世への影響
ゲッダは「多言語で歌えること」「レパートリーの幅広さ」「細部に神経が行き届いたフレージング」という面で次世代の歌手にも影響を与えました。特に歌詞の語り方や発音へのこだわりは、オペラ歌手の表現の幅を広げる好例となっています。また、その大量の録音は教育的資料としても価値が高く、リートからオペラまで様々なスタイルの“模範”として参照され続けています。
まとめ
ニコライ・ゲッダは、技巧的完成度と音楽的教養を兼ね備えた歌手であり、その魅力は「声そのものの美しさ」と「言葉を生かす歌唱法」にあります。大きなドラマトゥルギーではなく、音楽性と表現の細部に宿る説得力を聴きたい方にとっては、彼の録音群は宝庫です。まずは代表的なアリアや歌曲集から入り、気に入れば全集やオペラ全曲録音へと広げていくことをおすすめします。
参考文献
- Wikipedia: Nicolai Gedda
- The Guardian — Nicolai Gedda obituary
- Gramophone — Appreciation / features on Nicolai Gedda
- AllMusic — Nicolai Gedda biography & discography
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