バート・バカラック名盤ガイド:必聴レコードと編曲・聴きどころ徹底解説
はじめに
バート・バカラック(Burt Bacharach)は20世紀ポップ/ソングライティングの巨匠であり、ハル・デイヴィッド(Hal David)との共作で数多くのスタンダードを生み出しました。本稿では「聴く価値の高いレコード」を中心に、曲ごとの聴きどころや編曲・作曲の特徴、時代背景まで深掘りして紹介します。レコードの保管やプレイに関する技術的な話題は扱いません。
バカラックを聴くためのキーポイント
- ハーモニーの妙:不協和を恐れないコード進行、モーダルな移行、さりげない転調が頻出します。ポップスの範疇を超えたジャズ的感覚が魅力です。
- リズムの遊び:4/4の中でのアクセントのずらしや、時には5/4などの変拍子的フレーズを用い、シンプルなメロディに深みを与えます。
- 編曲術:ストリングスやコーラス、ホーンセクションを用いた繊細で映画的な響き。楽器の配置や間の取り方が歌心を引き立てます。
- 歌い手との共鳴:ディオンヌ・ワーウィック、ダスティ・スプリングフィールド、BJトーマスなど、歌手の個性を引き出す“伴奏的”な作曲・編曲が特徴です。
おすすめレコード解説
Dionne Warwick — The Sensitive Sound of Dionne Warwick (1965)
なぜ聴くべきか:ディオンヌ・ワーウィックはバカラック=デイヴィッド作品の“代表的な解釈者”です。本作には「Walk On By」など初期の重要曲が含まれ、作曲・編曲の細部(イントロのサスペンス、ブリッジの半音進行、コーラスの入り方)を原典に近い形で体感できます。
聴きどころ:ヴォーカルの抑制と間の取り方、バカラック流の空間表現。歌の語尾での微妙なニュアンスの付け方が楽曲の切なさを増幅します。
Casino Royale — Original Soundtrack (1967)
なぜ聴くべきか:「The Look of Love」はここで注目を浴びた楽曲で、ダスティ・スプリングフィールドによる柔らかな歌唱が印象的です。カジノ・ロワイヤルのためのサウンドトラックは、映画的なアレンジとラウンジ的なムードの好例です。
聴きどころ:ラテン風のビートと官能的なストリングス、間奏でのコルネット(あるいはミュートトランペット)的なフレーズの使い方。ミニマルな伴奏が声の「余白」を作る手法が学べます。
Butch Cassidy and the Sundance Kid — Original Motion Picture Soundtrack (1969)
なぜ聴くべきか:「Raindrops Keep Fallin' on My Head」(B.J. Thomasのヴァージョン)はこの映画で世界的ヒットになり、バカラックの映画音楽センスが端的に表れています。ポップ・シングルとしての完成度とフィルムの情景描写が両立した例です。
聴きどころ:メロディの親しみやすさと、歌詞の映画的適合性(場面に寄り添うサウンド作り)。シンプルなリズム隊と柔らかなアコースティックギターの重ねが特徴です。
Promises, Promises — Original Broadway Cast Recording (1968)
なぜ聴くべきか:バカラック/デイヴィッドがブロードウェイで成功を収めた代表作のひとつ。舞台音楽ならではの楽曲展開や劇伴的な配置が学べます。「I'll Never Fall in Love Again」といった名曲を含む点でも重要です。
聴きどころ:楽曲が物語にどう結びつくか、ブリッジ部分でのテーマの反復・変奏、コーラスワークの舞台的な使い方。
Painted from Memory — Elvis Costello & Burt Bacharach (1998)
なぜ聴くべきか:バカラック後期の創作力と現代ポップ/ロック的感性の融合を示す傑作です。エルヴィス・コステロとの共作は、バカラックのメロディメイキングが異色の歌詞世界と交わったときにどんな化学反応を起こすかがよくわかります。
聴きどころ:モダンなプロダクションの中に残るオーケストレーションのセンス、複雑なコード進行に支えられた歌詞表現の深さ。「God Give Me Strength」などの大曲をじっくり。
At This Time — Burt Bacharach (2005)
なぜ聴くべきか:バカラック自身名義の近年作。自身の音楽語法を現代にどう適用しているかがわかる好例で、ゲスト歌手を迎えたトラックもあり、作家としての円熟味を感じさせます。
聴きどころ:伝統的なバカラック・サウンドと現代的なリズム感の折衷。ピアノのコードワークやストリングスの配置に注目すると、新旧の様々な技法が見えてきます。
コンピレーション:The Look of Love / The Burt Bacharach Collection(各種ベスト盤)
なぜ聴くべきか:時代を横断して代表曲を俯瞰できるため、入門用として最適です。オリジナルのシングルやアルバム収録バージョン、または別ミックスの違いを把握するのにも役立ちます。
聴きどころ:曲ごとのアレンジの違い(シングル版とアルバム版の比較)、歌手ごとの解釈の差。後述する「聴き比べ」をする際の基盤となります。
聴き比べのすすめ(具体例)
- "I Say a Little Prayer" — ディオンヌ・ワーウィック版とアレサ・フランクリン版を比較:原曲の繊細さとソウルフルな拡張、テンポの違いが楽曲の印象をどう変えるかを確認。
- "The Look of Love" — カジノ・ロワイヤル収録の演奏と後のカヴァー群を比較:ホーンやストリングスの扱いでムードがどう変わるか。
- サントラvsオリジナルシングル — 「Raindrops…」の映画版とシングル版のミックス差異を聴く:映画のための編集が楽曲の語り口をどう変えるか。
聴きどころ(編曲・作曲の細部)
- ヴォイシング:ルートに固執せず、上声部や内声の動きで色を作る手法が多用されます。
- 非定型リズム:小節の頭を遅らせたり、バッキングを極端に削るなど「間」を活かす配置。
- メロディの“語尾”処理:歌の終わりに微妙なメロディ変形を入れ、余韻を残すことで情緒を高めます。
- 映画的構成:短いフレーズの積み重ねで場面を描写する“映画音楽的発想”がポップ曲にも反映されます。
購入・再生のガイド(選び方のコツ)
- 初めてなら名曲集(ベスト盤)を1枚、気に入ったら個別アルバムやオリジナル・サウンドトラックへ。
- シングルとアルバムでミックスやテイクが異なることがあるので、音源表記(mono/stereo、リマスターなど)を確認すると面白い発見があります。
- コラボレーションアルバム(例:Painted from Memory)は作家としてのバカラックを「現在の文脈」で味わえる良い入口です。
まとめ
バート・バカラックの音楽は、メロディの親しみやすさと、編曲・ハーモニーの知的な複雑さが同居しています。初期のディオンヌ・ワーウィック作品で作曲技法の基礎を学び、サウンドトラックや後期ソロ/共作盤でバカラックの幅を確かめる——この流れで聴けば、彼の音楽の魅力を多角的に楽しめるはずです。
参考文献
- Burt Bacharach — Wikipedia
- Burt Bacharach | AllMusic
- Burt Bacharach — Discogs
- Official Burt Bacharach site
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っておりますので是非一度ご覧ください。
https://everplay.base.shop/
また、CDやレコードなど様々な商品の宅配買取も行っております。
ダンボールにCDやレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単に売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery


