HP-UXとは|特徴・アーキテクチャ・高可用性と導入・移行の最重要ポイント
HP-UXとは — 概要
HP-UX(エイチピー・ユーエックス)は、Hewlett-Packard(現Hewlett Packard Enterprise:HPE)が開発・提供する商用UNIXオペレーティングシステムです。伝統的に大規模・ミッションクリティカルなサーバ用途で用いられ、商用UNIXの設計思想である安定性・可用性・管理性・長期サポートを重視しています。ベースはAT&TのSystem V系(SVR4)の系譜を継ぎ、BSD由来の機能やPOSIX準拠のインタフェースを備えた、クローズドソースのプロプライエタリOSです。
歴史的背景とプラットフォーム
HP-UXは1980年代にHPのワークステーション/サーバ群(HP 9000シリーズなど)向けに提供が始まり、その後ハードウェアのアーキテクチャ変遷に伴って進化してきました。元来はPA-RISC(HP独自のRISCアーキテクチャ)を第一のターゲットとしていましたが、後にIntelのItanium(IA-64)アーキテクチャを採る「Integrity」サーバ向けの移植版も提供されました。
このように、HP-UXはハードウェアと密接に連携する形で高信頼性や高性能を実現することを目的に設計されており、ハードウェア製品(nPartition、vPar、Integrityなど)と組み合わせて使われることが多い点が特徴です。
アーキテクチャの特徴
- System V系をベースにしつつBSDの機能を取り込んだ設計。
- カーネルはモノリシックに近い構造で、モジュール化されたドライバや拡張が可能。
- POSIX準拠や各種標準APIに対応しており、商用アプリケーションの移植性を確保。
- 高可用性・ロールバック可能なストレージ管理、クラスタリング、システムリソース制御機能を備える。
主要な機能と差別化ポイント
HP-UXは企業向けUNIXとして、以下のような機能を重視しています。
- 高可用性(HA):障害検出・フェイルオーバーを行うクラスタリング製品(HP Serviceguardなど)と組み合わせることで、無停止運用が可能。
- 仮想化・パーティショニング:ハードウェアレベル(nPartitions、vPars)やソフトウェアレベルの仮想化に対応し、リソースの分離と管理を行える。
- ストレージとボリューム管理:高信頼なジャーナリングファイルシステム(Veritas VxFSをはじめ)や論理ボリューム管理をサポートし、大規模データ領域の管理を容易にする。
- セキュリティとアクセス制御:Role-Based Access Control(RBAC)やアクセス制御、暗号化やネットワークセキュリティ機能を備え、企業のポリシーに沿った運用が可能。
- 商用独自ツール群:HP独自の管理ツール(SAM:System Administration Managerなど)やソフトウェア配付ツール(SD: Software Distributor)で管理作業を支援。
ファイルシステムとストレージ管理
HP-UXではジャーナリングファイルシステムが標準的に利用され、特に商用環境では信頼性の高いVeritas File System(VxFS)が広く利用されてきました。VxFSは大規模ファイルシステム、オンライン拡張、クォータ管理などをサポートします。
ボリューム管理については、HP-UX独自の論理ボリューム管理とサードパーティ製(例:Veritas Volume Managerなど)のソリューションが併用されることがあります。これにより、ストライピングやミラーリング、オンラインでのスナップショット取得など高度なストレージ機能を提供できます。
仮想化・パーティショニング
HP-UX環境ではハードウェアベースとソフトウェアベースの両方の仮想化手法が用いられます。例えば、HPのサーバハードウェアでは物理的に分離されたnPartitionや仮想的なvParを用いて、同一筐体で複数の独立した実行環境を構築できます。Itanium系サーバではHP独自の仮想化技術(Integrity Virtual Machines等)を用いることもあります。
これらは単にサーバを分割するだけでなく、CPU/メモリ/IOの割当てを管理し、運用の柔軟性とセキュリティを高めます。クラウドやコンテナベースの仮想化とは異なり、よりハードウェアに近いレイヤでの分離を提供する点が特徴です。
高可用性(HA)とクラスタリング
HP-UXでのHAソリューションとして代表的なのがHP Serviceguardです。Serviceguardはノード間のリソース監視、フェイルオーバー、フェイルバックを実現する商用クラスタソフトウェアで、データベースやアプリケーションの連続稼働を保証します。
Serviceguardはパッケージ化された設定やポリシーで運用を自動化でき、ストレージ・フェイルオーバーやIPフェイルオーバーなど、実運用で求められる機能を備えています。大規模なミッションクリティカルアプリケーション(金融、通信、製造等)での採用実績が多いのも特徴です。
管理ツールとソフトウェア配布
管理面では、HP-UX専用の管理ツール群が用意されています。代表的なものに以下があります。
- SAM(System Administration Manager):GUI/テキストベースの管理ツールで、システム設定やサービス管理を支援。
- Software Distributor(SD)ツール群:swinstall、swlist、swremove などのコマンドでパッケージの配付・管理を実施。
- ログ管理・監査ツール、パフォーマンス監視ツール(vmstat、top等に相当するツールも含む)。
これらにより、パッケージ管理、パッチ適用、設定管理、監視を中央集権的に行うことができます。
セキュリティ
企業向けOSとしての性格上、HP-UXはセキュリティ機能を充実させています。代表的な要素は次の通りです。
- アクセス制御(ユーザー/グループ、ACL、RBACなど)
- ネットワークセキュリティ(IPsecなどの暗号化プロトコルやKerberos連携等)
- 監査機能(ログ・監査トレイルによる操作記録の保持)
- パッチとセキュリティアップデートの提供により、脆弱性対応が行われる
ただし、OSそのものはクローズドソースであり、サポートとパッチが継続的に提供されることが安全性の前提となるため、サポート終了やハードウェアの入手困難化には注意が必要です。
導入・運用上の注意点
HP-UXを導入・運用する際は、以下の点を考慮してください。
- ハードウェア依存性:特定のHPハードウェア(PA-RISCまたはItanium)に最適化されているため、汎用x86ハードウェアでは動作しない場合がある。
- サポートとライフサイクル:商用OSとして長期サポートが提供される一方で、特定アーキテクチャ(例:Itanium)の将来性やHPEのサポート方針は継続的に確認する必要がある。
- ソフトウェア互換性:ミドルウェアやアプリケーションの対応可否、移植コスト(例:エンディアンやAPI差異)を事前に検証することが重要。
- 運用体制:専用の管理ツールや運用ノウハウが必要なため、運用スキルを持つエンジニアの確保が望ましい。
移行・代替の検討
近年、Linuxや他のUNIX系OS(AIX、Solarisなど)、クラウドサービスへ移行する事例が増えています。HP-UXからの移行を検討する際は、以下を判断基準にします。
- ミッションクリティカルな要件の有無(可用性・性能要件)
- 既存アプリケーションの依存関係(OS API、ライブラリ、バイナリ互換性)
- コスト(ライセンス、サポート、ハードウェア維持)
- 運用チームのスキルセットと外部サポートの可用性
移行には段階的な検証(Proof of Concept)やバイナリ互換の検証、データ移行計画、ダウンタイム管理が必須です。
まとめ
HP-UXは、長年にわたり企業の重要なシステム基盤として利用されてきた商用UNIXです。高可用性、ハードウェア密着の最適化、豊富な管理機能やクラスタリング・仮想化技術を特徴とし、ミッションクリティカル環境での実績があります。一方で、ハードウェア依存性やサポートライフサイクルの管理、移行コストなどを踏まえた運用方針の検討が重要です。導入・継続利用・移行のいずれにおいても、要件定義と事前検証、ベンダーサポートの確認が成功の鍵となります。
参考文献
- HP-UX — Wikipedia
- HPE Support Center(Hewlett Packard Enterprise サポート)
- Veritas — 製品情報(VxFS/VxVM)
- HPE Servers(Integrity / HP 9000 製品情報)


