リバースプロキシとは?仕組み・メリット・導入・運用のポイントを徹底解説

リバースプロキシとは — 概要と定義

リバースプロキシ(reverse proxy)は、クライアントと複数のバックエンド(オリジンサーバー)の間に立ち、クライアントからの要求を受け取って適切なバックエンドに転送し、バックエンドからの応答をクライアントに返す中継役です。クライアントはあくまでリバースプロキシのアドレスにアクセスしているように見え、バックエンドの存在や構成は透過的になります。一般的に、ロードバランシング、キャッシュ、SSL/TLSオフロード、セキュリティ(WAF、レート制御)などの機能を一手に担います。

フォワードプロキシとの違い

フォワードプロキシはクライアント側の代理で外部にアクセスするために使われるのに対し、リバースプロキシはサーバー側の代理として動作します。簡単に言えば:

  • フォワードプロキシ:クライアントがプロキシを通して外部サイトにアクセスする(クライアント側の隠蔽やフィルタリング)。
  • リバースプロキシ:外部クライアントがプロキシを通してバックエンドにアクセスする(サーバー群の統一的公開や保護)。

主な機能と利点

リバースプロキシが提供する代表的な機能は以下の通りです。

  • ロードバランシング:ラウンドロビン、最小接続数、ハッシュベースなどのアルゴリズムでトラフィックを複数サーバーに分散する。
  • SSL/TLS終端(オフロード):TLSハンドシェイクをプロキシ側で処理し、バックエンドは平文HTTPまたは内部TLSで通信。証明書管理を集中化できる。
  • キャッシュ(コンテンツキャッシュ):静的コンテンツやキャッシュ可能なレスポンスを保存して高速応答とバックエンド負荷低減を実現する(例:Varnish、CDN)。
  • セキュリティ強化:Webアプリケーションファイアウォール(WAF)、レート制限、IP制限、不正リクエストの遮断など。
  • リクエストルーティング:パスベースやホストベース、ヘッダやクッキーに基づくルーティングでマイクロサービスや複数アプリへ振り分ける。
  • ヘッダ操作と認証:HTTPヘッダの追加/削除、Basic/AuthやOAuthの前置認証、バックエンドへのトークン注入など。
  • 可観測性と監視:アクセスログ、メトリクス(レイテンシ、エラー率)、ヘルスチェックで運用性を向上。

動作の基本フロー

典型的なリクエストフローは次のようになります。

  • クライアントがリバースプロキシのIPやドメインに接続。
  • プロキシがルールやヘルス情報に基づき最適なバックエンドを選定。
  • 必要に応じてTLS終端、認証、キャッシュ確認を行う。
  • バックエンドへリクエストを転送(再マッピングやヘッダ付加を行うことがある)。
  • バックエンドの応答を受け取り、キャッシュ格納やレスポンス加工を行いクライアントへ返す。

実装上の重要な考慮点

運用・設計で気を付けるべきポイントは多岐に渡ります。

  • クライアントIPの保持:X-Forwarded-Forや標準化されたForwardedヘッダ(RFC 7239)を使う。TCPレベルでの転送時はProxy Protocolを利用して実IPを残すことがある。
  • TLSの取り扱い:TLS終端にするかパススルー(透過転送)にするか。終端だと証明書管理は容易になるが、エンドツーエンドの暗号化を保ちたい場合はパススルーやバックエンドとのTLSを併用する。
  • キャッシュ制御:Cache-ControlやVaryヘッダを正しく扱わないと動的コンテンツが誤ってキャッシュされるリスクがある。キャッシュの削除(インバリデーション)戦略も設計する必要がある。
  • セッションの扱い:ステートフルなセッションがある場合はスティッキーセッション(セッション持続)やセッション共有の仕組みが必要。
  • プロトコル互換性:WebSocketやHTTP/2の扱い、ヘッダ圧縮やアップグレード要求への対応を確認する。
  • 可用性:リバースプロキシ自体が単一障害点(SPOF)にならないよう冗長構成(複数インスタンス+フェイルオーバー)やアクティブ-アクティブ設計を行う。

よくある用途(ユースケース)

リバースプロキシは様々な場面で使われます。

  • ロードバランサーとしての利用:複数アプリサーバーへの負荷分散。
  • キャッシュサーバー/CDNのフロントエンド:静的コンテンツの配信高速化。
  • SSLオフロード:証明書の集中管理やTLS負荷の低減。
  • セキュリティゲートウェイ:WAFやIPフィルタリングでバックエンドを保護。
  • APIゲートウェイ:認証、レート制限、バージョニング、トラフィック制御を提供。
  • マイクロサービスのIngress:Kubernetes環境のIngressコントローラ(例:NGINX Ingress、Traefik、IstioのEnvoy)として利用。

代表的なソフトウェア・サービス

実装にはオープンソースや商用の選択肢があります。

  • NGINX / NGINX Plus:高性能なHTTPリバースプロキシ・ロードバランサ。キャッシュ、TLS、リバライトなど豊富な機能。
  • HAProxy:高性能TCP/HTTPロードバランサ。低レイテンシと豊富なバランシングアルゴリズムが特徴。
  • Varnish:キャッシュ特化型リバースプロキシ。高速なHTTPキャッシュを提供。
  • Envoy:サービスメッシュやマイクロサービス向けのモダンプロキシ。高度な観測性と拡張性。
  • Traefik:KubernetesやDocker連携を得意とする動的設定のリバースプロキシ。
  • クラウドロードバランサ/CDN:AWS ALB/ELB、CloudFront、Azure Application Gateway、GCP Load Balancing、Cloudflareなど。

運用上のベストプラクティス

  • ログとメトリクス:アクセスログに加え、レイテンシ、エラー率、バックエンドのヘルスを可視化してアラートを設定する。
  • セキュリティ設定:不要なHTTPメソッドの無効化、適切なCORSポリシー、セキュリティヘッダ(HSTS、X-Frame-Options等)の付与。
  • 証明書管理の自動化:Let’s EncryptやACMEクライアントの活用で証明書更新を自動化する。
  • テストと検証:TLS設定はopenssl s_clientやブラウザの開発者ツールで検証。負荷試験でバランシング挙動やキャッシュ効果を確認する。
  • 冗長化とフェイルオーバー:設定・バージョン管理を行い複数リージョンや複数プロキシで耐障害性を確保する。

よくある問題と対処法

  • クライアントIPが消える:X-Forwarded-ForやProxy Protocolを使用して実IPを取得する。アプリ側はこれらのヘッダを信頼できるプロキシからのみ受け取るようにする。
  • 誤ったキャッシュで最新データが出ない:適切なCache-Control、ETag、Varyを設定し、必要に応じてキャッシュ無効化APIを用意する。
  • WebSocketや長期接続が切れる:プロキシのタイムアウト設定やアップグレードヘッダのサポートを確認する。
  • ヘルスチェックによる不均衡:ヘルスチェック設定が厳しすぎるとバックエンドが頻繁に切り離されるため閾値調整とリトライ設計が必要。

まとめ

リバースプロキシは、スケーラビリティ、可用性、性能、セキュリティを向上させるための重要なインフラ要素です。導入検討時は、トラフィック特性・セッション要件・暗号化ポリシー・可観測性の要件を整理し、適切なソフトウェア/クラウドサービスと冗長構成を選ぶことが重要です。また、ヘッダ管理やキャッシュ制御といった実装の微妙な点がサービス品質に大きく影響するため、運用ルールと監視体制を整備しましょう。

参考文献