Realm(モバイル向けオブジェクトデータベース)とは|特徴・Realm Sync・導入時の注意点を徹底解説
Realm とは — モバイル向けオブジェクトデータベースの全体像
Realm(レルム)は、モバイル(おもに iOS / Android)およびクロスプラットフォーム環境向けに設計された組込み型のオブジェクトデータベースです。オブジェクト指向で直感的にデータを扱える点、ファイルベースで高速に動作する点、そしてオフラインでの利用を前提にした同期機能(Realm Sync)を備えていることが特徴です。もともとは独立した企業(Realm Inc.)が提供していましたが、2019年に MongoDB に買収され、現在は MongoDB のエコシステム(MongoDB Realm / Realm Database)として提供されています。
歴史と位置づけ
Realm は2014年頃からモバイル向けに開発され、軽量かつ高速な代替ストレージとして人気を集めました。2019年に MongoDB が買収し、以降は MongoDB Atlas(クラウドデータベース)と連携する「Realm Sync」やサーバーレス機能と統合される形で進化しています。従来の SQLite や Core Data、Room といったストレージと比較されることが多く、「オブジェクトをそのまま保存して使える」点で特にアプリ開発者に支持されています。
基本的な設計とアーキテクチャ
Realm のコアはファイル(.realm)に保存されるデータストアです。主な特徴は以下の通りです。
- オブジェクト指向:保存するデータはプログラミング言語のクラス(Realm Object)として定義し、そのインスタンスを保存・取得します。ORM のように SQL を直接扱う必要が少ない。
- ゼロコピー設計:メモリマップ(memory-mapped file)を活用し、データの読み取りでコピーを最小化するため高速な読み取りが可能。
- リアクティブな更新:クエリ結果や保存されたオブジェクトは「ライブ」ビューで、データが変わると自動的に更新通知を受け取れる(change notifications)。
- トランザクションと ACID:書き込みはトランザクションとして扱われ、整合性を保ちます(複数の操作を原子性を保って実行)。
- スレッド制約:Realm インスタンスや「管理された」オブジェクトはスレッドに結びついているため、別スレッドへ直接渡せません。ThreadSafeReference や freeze(オブジェクトの不変化)を使ってスレッド間でやり取りします。
主な機能と特徴
以下は実務でよく重要視される Realm の機能です。
- クロスプラットフォーム SDK:Swift/Objective-C(iOS)、Java/Kotlin(Android)、Realm JS(React Native / Node)、Xamarin など複数の公式 SDK を提供。
- Realm Studio:.realm ファイルを可視化・編集できるデスクトップアプリ(デバッグに便利)。
- 暗号化:データベースファイルの暗号化機能(AES-256 相当)をサポートし、アプリ側で暗号化キーを設定して利用可能。
- スキーマ&マイグレーション:モデル(スキーマ)を定義し、スキーマ変更時はマイグレーションハンドラで既存データを変換できる。簡単な変更は自動対応も可能。
- ライブクエリ:結果セットは動的に変化し、UI バインディングやリアクティブ処理が容易。
- 同期機能(Realm Sync):ローカルの Realm とクラウド(MongoDB Atlas)間でデータ同期を行う機能。オフライン状態でもローカルで操作でき、オンライン復帰時に自動同期される。
Realm Sync とクラウド連携
Realm Sync はオフラインファーストのアプリ設計を容易にする重要なコンポーネントです。ローカルでの変更履歴を安全にバックエンドへ同期し、他のデバイスやユーザーとデータを共有します。MongoDB Atlas と連携することで、クラウド側にデータを保管し、さらに Atlas の機能(検索、集計、トリガー、サーバーレス関数)と組み合わせることができます。
同期の設定には Partition-Based Sync(旧式)と Flexible Sync(より柔軟なフィルタリング)の選択肢があり、アプリの要件に応じて使い分けます。同期時の競合解決やルール設定はプラットフォーム側/サーバー側でコントロール可能です。
利点(使う理由)
- オブジェクトをそのまま扱えるため実装が直感的で生産性が高い。
- 読み取り性能が高く、UI 描画やリスト表示に適している。
- リアルタイム通知で UI の更新が楽になる(差分だけ受け取れる)。
- オフラインファースト設計と容易に統合できる(Realm Sync)。
- 暗号化やトランザクションなどの堅牢性機能を内包している。
注意点・制約(デメリット)
- ファイルベースで単一の書き込みトランザクションが基本のため、高頻度の同時書き込みが発生するケースでは設計に注意が必要(書き込みは順次処理される)。
- Realm オブジェクトはスレッド拘束であるため、スレッド間通信や非同期設計時に ThreadSafeReference や freeze を適切に使う必要がある。
- SQL を直接書けないため、既存の SQL クエリ資産を移行する際は変換が必要。複雑な集計処理はサーバー側や別の仕組みで行うことがある。
- 同期機能(Realm Sync)を利用する場合、バックエンド(MongoDB Atlas)の構成や料金プランを別途考慮する必要がある。
実務での使いどころと設計上のポイント
Realm は次のようなケースで有効です。
- オフライン操作が重要なモバイルアプリ(メモ、タスク、チャット、フィールドワークアプリなど)。
- UI とデータのリアクティブ結合が多いアプリ(リストの自動更新など)。
- 高速な読み取りが重要な場面(大量データのフィルタ表示等)。
導入時のポイント:
- スキーマ設計は慎重に:List(配列)やリンク(リレーション)はオブジェクト指向的に設計するが、巨大なネストはパフォーマンスに影響する。
- 書き込み頻度の高い処理はバッチ化やトランザクションの設計で工夫する。
- マイグレーション戦略を事前に定め、リリース時のスキーマ変更に備える。
- マルチスレッド対応は ThreadSafeReference / freeze の理解が必須。
主要 SDK とツール
- Realm Swift / Objective-C(iOS)
- Realm Java / Kotlin(Android)
- Realm JS(React Native / Node)
- Realm Xamarin(C#)
- Realm Studio(デスクトップ GUI)
よくある誤解と注意すべき点
- 「Realm は NoSQL のクラウドサービスだけ」を指すわけではない:Realm はローカルデータベースであり、Realm Sync を使えばクラウドとの同期が可能になる。
- 「SQL より常に速い」わけではない:読み取りでは高速だが、ユースケースやアクセスパターン次第では SQLite / Room / Core Data が適する場合もある。
- 同期の競合解決は設計次第:デフォルトの挙動に頼り切らず、重要データの整合性ルールは明確にしておくこと。
導入の判断基準(チェックリスト)
- オフライン対応や同期が重要か? → Yes なら Realm を検討
- オブジェクト指向でモデル定義を直感的に扱いたいか? → Yes なら相性が良い
- 高頻度同時書き込みのワークロードか? → 設計検討が必要
- 既に大量の SQL 資産があるか? → 移行コストを評価
まとめ
Realm は「モバイル/エッジでのオブジェクト指向データ管理」を強力にサポートするデータベースです。読み取り性能の高さ、リアルタイム通知、オフラインファーストを実現する同期機能など、アプリケーション開発の生産性を高める多くの利点があります。一方で、スレッド設計や書き込みパターン、同期時のルール設計など留意点も存在します。要件に応じて利点と制約を比較し、適切に設計すれば非常に有効な選択肢となります。
参考文献
- MongoDB Realm ドキュメント(公式)
- MongoDB による Realm 買収の公式発表(ブログ)
- realm-core(GitHub リポジトリ)
- realm-js(GitHub リポジトリ)
- Realm Sync ドキュメント(公式)
- Realm Studio(GitHub / ダウンロード情報)


