AMD EPYCとは:世代別の進化と性能比較、導入時に押さえる選定ポイント
EPYCとは:概要と位置づけ
EPYC(エピック)は、米AMD(Advanced Micro Devices)が開発するサーバー向けプロセッサ(CPU)ブランドです。x86-64命令セットに準拠し、大規模なコア数や高いメモリ帯域、豊富なI/O(PCIe)を備えることで、仮想化、クラウド、HPC、データベース、分析処理などデータセンター用途に最適化されています。2017年の初代(コードネーム:Naples)投入以降、AMDはZenアーキテクチャの世代ごとに性能・効率・機能を強化し、IntelのXeonと並ぶ主要なサーバープロセッサ選択肢として広く採用されています。
世代と主要な進化点
第1世代 — Naples(EPYC 7001、2017年)
AMDがサーバー市場に本格復帰した世代。従来のモノリシック設計から根本的に見直した設計で登場し、最大32コア/64スレッド、8チャネルメモリ、豊富なPCIeレーンなどを提供しました。第2世代 — Rome(EPYC 7002、2019年)
Zen 2マイクロアーキテクチャを採用。ここでチップレット(MCM:マルチチップモジュール)設計が本格導入され、複数のCPUコアチップレット(CCD)とI/Oダイ(IOD)を組み合わせる構成になりました。これにより歩留まりとスケーラビリティが向上し、最大64コア/128スレッド、PCIe 4.0対応などを実現しました。第3世代 — Milan(EPYC 7003、2021年)
Zen 3アーキテクチャでIPC(クロック当たりの命令数)向上とレイテンシ低減を達成。メモリ暗号化や仮想化セキュリティ(SEV、SEV-ES、SEV-SNP など)の強化も進められ、クラウドやセキュリティ重視の用途で注目されました。最大64コアの構成を維持しつつ、実効性能が大きく伸びました。第4世代 — Genoa(EPYC 9004、2022年)
Zen 4アーキテクチャを採用し、プロセスルールの微細化(CPUコアは5nm)によりIPCとクロックがさらに改善。新ソケット(SP5)になり、DDR5メモリ(12チャネル)とPCIe 5.0に対応、コア数は最大96コア/192スレッドへ拡張されました。ハイパフォーマンスコンピューティングや大規模データベースでの採用が進みました。クラウド最適化版 — Bergamo(Zen4c、2023年)
クラウドワークロード向けに最適化された「Zen4c」コアを採用し、コア数を大幅に増やしたモデル(最大128コアなど)を提供。密度やTCO(総所有コスト)を重視するクラウドプロバイダ向けに設計されています。
設計の特徴:チップレットとI/O分離
EPYCの大きな技術的特徴はチップレット設計(MCM)です。CPUコアは複数の小さなコアダイ(CCD)として製造し、メモリコントローラやPCIeなどI/O機能は別のI/Oダイ(IOD)に統合します。この分離により、コア数を増やす際の歩留まり(良品率)問題を緩和し、製造コストとスケーラビリティを改善できます。また、世代ごとにコアダイとI/Oダイを異なるプロセスで最適化することで性能とコストを両立しています。
性能と拡張性(メモリ・PCIe・ソケット)
メモリ:世代によりDDR4→DDR5へ移行。Rome/Milanは8チャネル(DDR4)、Genoaは12チャネル(DDR5)で高帯域を実現。
PCIe:RomeでPCIe 4.0を採用、GenoaでPCIe 5.0に対応し、ストレージやアクセラレータ(GPU、FPGA、NIC)との帯域制約を緩和。
ソケット:Naples~MilanはSP3ソケット、Genoa以降は新ソケットSP5へ移行。プラットフォームの物理的な互換性は世代間で変化するため、アップグレード時は注意が必要。
セキュリティ機能
EPYCはサーバー用途で重要なセキュリティ機能を積極的に提供しています。代表的なものにAMD SEV(Secure Encrypted Virtualization)、SEV-ES(Encrypted State)、SEV-SNP(Secure Nested Paging)があり、仮想マシン単位のメモリ暗号化やホストからの保護を行います。これらはクラウド環境でのマルチテナントセキュリティを強化する重要な技術です。
エコシステムと採用例
EPYCは主要なサーバーベンダー(HPE、Dell EMC、Lenovoなど)の各ラインアップに採用され、また主要クラウドプロバイダ(Amazon EC2のAMDベースインスタンス、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructureなど)でもAMDベースのインスタンスが提供されています。オープンソースのOS(Linux)やハイパーバイザ(KVM、Xen、VMware)もEPYCをサポートしており、ソフトウェアエコシステムは成熟しています。
競合と市場での位置づけ
従来からの競合はIntelのXeonシリーズですが、近年はArmアーキテクチャ(AWSのGravitonなど)もサーバー市場で勢力を伸ばしています。EPYCは高いコア数とメモリ帯域、コストパフォーマンス、電力効率で差別化を図り、特にクラウド・仮想化・HPC分野で強みを持っています。一方で、ワークロードの性質(シングルスレッドの高クロック重視や特殊なベンダー最適化)によっては競合が有利になる場面もあります。
導入時の検討ポイント
ワークロード特性:多数のスレッドやメモリ帯域を必要とする並列処理系(仮想化、データベース、分析処理)ではEPYCのメリットが大きい。
プラットフォーム互換性:ソケットやメモリ規格の違い(SP3→SP5、DDR4→DDR5)による既存資産の再利用可否。
ソフトウェア対応:ドライバ、仮想化層、管理ツールがEPYC世代で想定どおり動作するかの確認。
セキュリティ要件:SEV/SEV-SNPの利用可否やクラウド運用での証跡要件など。
コストとTCO:スペックだけでなく、消費電力や導入・保守コストも含めた総所有コストを評価。
今後の展望
AMDはZenアーキテクチャを継続して進化させており、コア数・性能・効率の向上や新しいメモリ/I/O規格への対応が続く見込みです。クラウドやAI用途ではCPUとアクセラレータの協調(PCIe 5.0/6.0やCXLなど)の重要性が高まっており、EPYCプラットフォームはその中心的役割を担う可能性があります。また、クラウド事業者向けの高密度モデル(Bergamoのような)やセキュリティ機能の強化も継続的なトレンドです。
まとめ
EPYCはAMDがサーバー市場で勝負をかける製品群であり、チップレット設計、高いコア数、豊富なメモリチャネルとPCIeレーン、強化されたセキュリティ機能を特徴としています。用途や既存環境に応じた選定が重要ですが、クラウド・仮想化・HPC領域を含む多くのデータセンター用途で魅力的な選択肢となっています。
参考文献
- AMD EPYC(公式製品ページ)
- EPYC - Wikipedia (英語)
- AMD Chiplet 技術紹介(公式)
- EPYC 7002 (Rome) 製品情報(AMD)
- EPYC 9004 (Genoa) 製品情報(AMD)
- AMD SEV(Secure Encrypted Virtualization)紹介(開発者向け)


