Gerry Mulligan入門:バリトン・サックスで切り拓いたクール・ジャズの魅力と代表曲・名盤ガイド
Gerry Mulligan(ジェリー・マリガン) — プロフィール
Gerry Mulligan(ジェリー・マリガン、1927年4月6日 - 1996年1月20日)は、アメリカのバリトン・サクソフォーン奏者、編曲家、作曲家。軽やかで歌うようなバリトン音色、巧みなアレンジ感覚、そして「間」を活かす演奏スタイルで知られ、クール・ジャズ/ウェストコースト・ジャズの重要人物として評価されています。プレイヤーとしてだけでなく編曲者としても高い評価を受け、戦後ジャズのサウンド形成に大きな影響を与えました。
キャリアのハイライト(概観)
- 1940s後半〜1950年代初頭:ニュー・ヨークのジャズ・シーンで頭角を現し、マイルス・デイヴィスの「Birth of the Cool」に編曲家/演奏者として関わることで注目を集める。
- 1952年以降:ピアノなしのクインテット/カルテット(チェット・ベイカーとのデュオ的な編成)を率い、対位法的なアンサンブルと透き通るような二重奏で一世を風靡。
- 1960年代:より大きな編成(コンチェルト・ジャズ・バンドなど)でもリーダーを務め、アレンジ能力を発揮してビッグ・バンド〜小編成の中間を埋める独自のテクスチャを探求。
- 晩年まで世界的に演奏・録音を続け、多数の共演作やスタンダードの解釈を残す。
音楽的魅力と特徴
- バリトンとは思えない軽さと可歌性:重低音を強調する従来のバリトン像とは異なり、Mulliganは中高域を生かした明るく伸びやかなトーンでメロディを歌わせます。
- 空間の使い方(間の美学):フレーズの合間に「間」を作ることでフロントの音が呼吸し、リズム隊との対話が生き生きと聞こえる。これはクール・ジャズ的な美意識の体現です。
- 対位法的アレンジ:彼の編曲は線(ライン)同士の掛け合いを重視します。旋律が同時進行で絡み合うことで、室内楽的かつ透徹した色彩が生まれます。
- 編曲家・作曲家としての視点:演奏者目線だけでなく、スコア全体を見渡す編曲力により、より広いダイナミクスと色彩のコントラストを生み出します。これがリーダー作や多数のコラボレーションでの独自性につながっています。
- 対話的な即興:チェット・ベイカーらとのデュオや少人数編成での演奏に見られる即興は、主張的でなく「会話」するような性格を持ち、聞き手に温かい親密さを与えます。
代表的な時代とその魅力
- 「Birth of the Cool」期(1949–50):非公式ながらもクール・ジャズの形成に重要な役割を果たしたマイルス・デイヴィス非et(ノネット)での参加。ここでのMulliganの編曲・ソロは、より抑制された表現と相互に響き合うアンサンブル感を提示しました。
- ピアノなしカルテット(1952年頃):チェット・ベイカー(tp)らと組んだ編成は、ピアノがないことでリズム隊とホーンの間に広い自由度が生まれ、対位法的な構築と自由な即興が共存するサウンドを確立しました。シンプルだが複雑な「空間芸術」とも言える演奏が楽しめます。
- コンチェルト/大編成期(1960年代):自らの「Concert Jazz Band」などで大編成のアレンジに取り組み、ビッグ・バンド的なスケール感とクールな色調を融合させた作品を残しました。
代表曲・名演(入門におすすめのトラック)
- Jeru —(「Birth of the Cool」関連の演奏で知られる、Mulliganの作編曲の感性が分かる一曲)
- Walkin' Shoes —(Mulligan作の代表的なナー・テーマ。カルテットの軽快さとスウィング感が魅力)
- Line for Lyons —(叙情的でメロディアスな、Mulliganの作風を象徴するバラード系)
- Bernie's Tune —(チェット・ベイカーとのカルテット録音で一躍有名になったスタンダード的演奏)
- My Funny Valentine(Mulligan & Bakerのデュオ/カルテット版)— 声のように歌うバリトンと静かなトランペットの掛け合いが秀逸
代表的なアルバム(初めて聴く人への薦め)
- 「Birth of the Cool」(Miles Davisのコンピレーション)— Mulliganの編曲・演奏がクール・ジャズの成立に与えた影響を体感できます。
- Gerry Mulligan Quartet(1952–53録音群、チェット・ベイカーとの名盤)— ピアノなし編成の魅力がそのまま味わえる定番録音。
- Gerry Mulligan Meets…(他の名手たちとの共演アルバム群)— ベン・ウェブスター、セロニアス・モンクなどとの対話的な共演作はMulliganの柔軟性を示します。
- Concert Jazz Band リーダー作 — 大編成を駆使したアレンジとスケールの大きさを味わいたいならこちら。
聴きどころ・楽しみ方のコツ
- 「対位」の聴き取り:メロディラインが同時進行する部分(複数の楽器が独立して動く箇所)を意識して聴くと、Mulliganのアレンジ術がよく分かります。
- 空間表現に注目:ピアノを抜いたアンサンブルや間の使い方で生まれる「余白」に耳を澄ませると、より深い抒情を感じられます。
- ソロよりも会話を楽しむ:即興は単独の見せ場というより、他者とのやりとりとして成立していることが多いので、吹き手同士の呼吸を追ってみてください。
影響と遺産
Gerry Mulliganはバリトン・サックスのイメージを大きく変え、楽器の持つ表現レンジを拡張しました。編曲家としての仕事はクール・ジャズに限らずジャズ全体に影響を与え、後進の奏者やアレンジャーたちにとって重要な参照点になっています。また、チェット・ベイカーとのコンビなどで培った「静謐で親密なジャズ」のフォーマットは、以後の小編成ジャズのスタンダードにもなりました。
まとめ
Gerry Mulliganは「音の隙間」を怖れず、むしろそれを設計することで独自の美学を作り上げたアーティストです。バリトン・サックスの音色をメロディックに使い、編曲と即興の両面でジャズ表現を豊かにしました。初めて聴くときは、チェット・ベイカーとのピアノなしカルテット録音や「Birth of the Cool」のトラックを入口にすると、Mulliganの魅力がすっと理解できるはずです。
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参考文献
- Gerry Mulligan — Wikipedia
- Gerry Mulligan — Encyclopaedia Britannica
- Gerry Mulligan — AllMusic Biography


