エンニオ・モリコーネ入門:代表作・作曲技法・映画音楽の聴きどころ徹底ガイド
Ennio Morricone — プロフィールとその魅力を深掘り
Ennio Morricone(エンニオ・モリコーネ、1928–2020)は、20世紀後半から21世紀にかけて映画音楽の世界を形作った最も重要な作曲家の一人です。500本以上の映画・テレビ作品に曲を提供し、独特のメロディー感覚、革新的な音響表現、そしてジャンルを横断する影響力によって広く賞賛されました。本コラムでは、彼の経歴、作曲技法、代表作、影響と聴きどころを深掘りして紹介します。
プロフィール(略歴)
- 出自と教育:1928年イタリア・ローマ生まれ。ローマのサンタ・チェチーリア音楽院(Conservatorio di Santa Cecilia)でトランペットと作曲を学び、クラシック音楽の基礎を修めました。
- 初期キャリア:1950〜60年代はトランペット奏者、編曲家、ポップ音楽のアレンジャーとして活動。映画音楽の世界に進出し、短期間で膨大な数のスコアを手がけるようになります。
- 幅広い活動:映画音楽のほか、前衛音楽ユニット「Gruppo di Improvvisazione di Nuova Consonanza」を結成し、実験的な即興音楽の研究・演奏も行いました。
- 受賞と評価:多数の国際的栄誉を受け、2007年に名誉アカデミー賞、2016年には『ヘイトフル・エイト』で長年にわたる活動の延長としてアカデミー賞(作曲賞)を受賞しました。
作曲家としての特性と技法
モリコーネの魅力は単純な「良いメロディー」を超えた多層的な表現にあります。以下に主要な特徴を挙げます。
- ユニークな音色の採用:トランペット、チャイム、女性コーラス、口笛、鞭の音、電気ギター、ハーモニカ、非西洋的な打楽器など、従来のオーケストラにない音を積極的に取り入れ、映像の風景を音で造形しました。
- シンプルなモチーフの力:短いフレーズやワンモチーフを繰り返し変奏することで、記憶に残る“フック”を作り上げます。例:「The Ecstasy of Gold」の短い上昇フレーズが情感を爆発させるように機能します。
- 対位法的・テクスチャの妙:複数のラインを重ねて時間軸上で緊張と解放を作る技術に長けており、静かな場面での間(ま)やサスペンスの膨らませ方が巧みです。
- クラシックと前衛の融合:サンタ・チェチーリアでのクラシック教育と、新しい音響探求(前衛即興グループでの活動)が融合し、伝統と革新が共存する独特の言語を生みました。
- 映像との強い結びつき:モリコーネは映像美学を深く理解しており、台本や映像の雰囲気を音楽で先取りすることもしばしば。時には映画化前の脚本段階でテーマを作ることもありました。
代表作と名曲(聴きどころつき)
- 荒野の用心棒 / A Fistful of Dollars / For a Few Dollars More / The Good, the Bad and the Ugly(1960年代、Sergio Leone作品群)
- モリコーネを世界的に有名にした西部劇三部作。口笛、チャンター、電気ギター、合唱などを融合した語り口は「ウェスタン=モリコーネ」のイメージを確立しました。特に「The Ecstasy of Gold」「Il triello」などは劇的なビルドアップと鮮烈なモチーフで知られます。 - Once Upon a Time in the West(西部劇の叙事詩)
- メロディーの美しさと音色の詩情が卓越。各登場人物にテーマを与えるようなオペラ的手法が観客の感情を強く引き込みます。 - The Mission(1986)— “Gabriel's Oboe”
- 壮麗なオーケストレーションと宗教的な澄んだ旋律が融合した名作。シンプルで純粋な旋律が深い祈りの感覚を伝えます。 - Cinema Paradiso(1988)
- 懐かしさと郷愁を誘うテーマ集。映画の記憶と結びつくメロディーは多くの人々にとって「映画=モリコーネ」の典型です。 - Once Upon a Time in America(1984)
- 長大な叙事を音楽で支える力作。時代を跨ぐメロディーとアレンジの深みが際立ちます。 - The Hateful Eight(2015, Quentin Tarantino)
- 後期の大きな国際的評価。タランティーノ作品のために新たに書いたスコアでアカデミー賞(作曲賞)を受賞。スパイクの効いた緊張感とクラシック的構築の両方が見られます。
代表的なアルバム/名盤の薦め
- The Good, the Bad and the Ugly (Original Motion Picture Soundtrack)
- Once Upon a Time in the West (Original Soundtrack)
- The Mission (Original Soundtrack)
- Cinema Paradiso (Original Motion Picture Soundtrack)
- Once Upon a Time in America (Original Soundtrack)
- The Hateful Eight (Original Motion Picture Soundtrack)
- Morricone Conducts Morricone(自作自演のオーケストラ録音集)
コラボレーションと映画界への影響
- Sergio Leoneとの蜜月:長年の協働で「マカロニ・ウェスタン」のスタイルを世界に知らしめ、映画と音楽が一体になる新たな視覚聴覚体験を生み出しました。
- Giuseppe Tornatoreや他多数の監督たち:「Cinema Paradiso」や「The Legend of 1900」など、世代や国を超えた監督と繰り返し協力し、それぞれの映画に独自の音楽的世界を与えました。
- ジャンル横断の影響:ロック、クラシック、現代音楽の作曲家やバンド(Metallicaが「Ecstasy of Gold」を入場曲にしている等)にも影響を与え、ヒップホップやポップでもサンプリングされるなど多方面に波及しました。
聴きどころと楽しみ方
- まずはテーマ曲を:短時間でその作曲感覚を掴むには「Gabriel's Oboe」「Ecstasy of Gold」「Cinema Paradiso Theme」あたりを聴くのが手っ取り早いです。
- 映画とセットで聴く:音楽がどう映像に寄り添い、物語を強化しているかを確認するために、可能なら映画本編と合わせて聴くことをおすすめします。
- 編曲や楽器使いに注目:同じメロディーでも編成や音色でまったく違う表情を見せる点に注目してください。小さな音の入れ替えや沈黙の使い方が効果的です。
なぜ彼の音楽は時代を超えて愛されるのか
モリコーネの音楽は「物語を即座に心で感じさせる力」があります。技巧的でありながら感情に直接訴えかける要素を持ち、かつ常に新しい音響を探求し続けたため、世代や国境を超えた共感を呼びました。映画音楽の域を超えて独立した「聴くべき音楽」としても成立する点が、普遍性の源泉です。
まとめ
Ennio Morriconeは、単なる映画音楽の作曲家ではなく、音の語彙を拡張し、映画と聴衆の関係そのものを再定義したアーティストです。クラシックの基盤、前衛的探求、映画的感性が結実したその作品群は、今後も新しい聴き手を獲得し続けるでしょう。映画を愛する人、音楽そのものを深く味わいたい人、どちらにも強く推薦できる作曲家です。
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参考文献
- Ennio Morricone — Britannica
- Ennio Morricone obituary — The New York Times
- Ennio Morricone — AllMusic Biography
- Ennio Morricone — IMDb
- Ennio Morricone Official/ファンサイト(情報集積)


