Ethernet(イーサネット)完全ガイド:仕組み・歴史・フレーム構成と運用の重要ポイント

Ethernetとは

Ethernet(イーサネット)は、ローカルエリアネットワーク(LAN)で最も広く使われているデータリンク/物理層の技術規格群を指します。一般家庭のルーターから企業のデータセンター、通信事業者の基盤まで幅広く採用されており、「イーサネットに対応していれば接続できる」という互換性と普遍性がその強みです。起源は1970年代の研究プロジェクトに遡り、以後速度・用途・機能の面で絶えず進化してきました。

歴史的背景と標準化

Ethernetの原型は1970年代初頭、Xerox PARCにおける研究成果に由来します。ロバート・メトカーフ(Robert Metcalfe)らが開発したことで知られ、1980年にはDEC・Intel・Xerox(DIX)による初期の仕様が公表されました。その後、IEEEはIEEE 802.3として1983年に標準化を行い、以降もIEEE 802.3作業部会が速度向上や拡張機能の標準化を続けています。

基本的な仕組み(データリンク層)

EthernetはMAC(Media Access Control)アドレスを用いてフレーム単位で通信を行います。MACアドレスは通常48ビット(EUI-48)で、製造メーカーに割り当てられたOUI(最初の24ビット)とデバイス固有の下位24ビットから構成されます。Ethernetフレームは宛先・送信元・タイプ(または長さ)・ペイロード・FCS(フレームチェックシーケンス)などで構成され、受信側はFCSでエラー検出を行います。

フレームフォーマットの要点

  • プレアンブル + SFD(7バイト + 1バイト):ビット同期用
  • 宛先MAC(6バイト)・送信元MAC(6バイト)
  • Type/Length(2バイト):値が1536以上ならEtherType、1500以下なら長さ
  • ペイロード(46~1500バイト):プロトコルデータ(IP等)
  • FCS(4バイト):CRC-32でエラーチェック

最小フレーム長は64バイト(衝突検出のため)、最大は標準で1518バイト(802.1Q VLANタグを含むと1522バイト)。ジャンボフレーム(一般に~9000バイト程度)はベンダー・運用でサポートされる拡張です。

アクセス制御:CSMA/CDとその変遷

初期のEthernetは共有媒質(同軸ケーブルなど)で複数端末が同時送信する可能性があったため、CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)という方式を用いました。送信中に衝突を検出するとジャム信号を送り、二項指数バックオフで再送タイミングを決めます。この仕組みにより最小フレーム長やスロット時間(例:10Mbpsで512ビット=51.2μs)が決められています。

しかしスイッチの普及により各ポートが独立した衝突ドメインとなり、フルデュプレックス通信(送受信同時)が主流になったことでCSMA/CDはほとんど使われなくなりました。現代ネットワークでは衝突はほぼ存在せず、遅延や輻輳は別のメカニズムで管理します。

物理層(媒体)と速度の進化

Ethernetは物理媒体の変化とともに速度を大幅に向上させてきました。代表的なものを挙げると:

  • 10BASE5 / 10BASE2(同軸)→ 10BASE-T(ツイストペア): 10Mbps
  • 100BASE-TX(Fast Ethernet): 100Mbps
  • 1000BASE-T(Gigabit Ethernet): 1Gbps
  • 10G/25G/40G/50G/100G/200G/400G Ethernet: データセンターやバックボーンで主流

物理媒体はカテゴリーケーブル(Cat5e/Cat6/Cat6a/Cat7など)やマルチ/シングルモード光ファイバがあり、用途に応じて選択されます。例えば10GBASE-TはCat6aで最長100m、1000BASE-TはCat5e/6で100mが一般的です。

スイッチング、ブリッジングとハブの違い

古いネットワーク機器のハブは物理層で信号を単純に再送するだけのブロードキャスト装置で、全ポートが同一衝突ドメインになります。一方スイッチはデータリンク層で動作し、受信したフレームの送信元MAC情報を学習してMACテーブルを構築し、必要なポートにのみフレームを転送します。これにより衝突は解消され、ネットワーク効率が大幅に向上します。

VLAN、QoS、PoEなどの拡張機能

Ethernetは基本機能だけでなく多くの拡張規格を持ちます。代表例:

  • IEEE 802.1Q(VLAN): サブネットやセグメント分離のためのタグ付け(4バイトタグ)
  • IEEE 802.1p / QoS: VLANタグ内のプライオリティビットで優先度制御
  • Power over Ethernet(IEEE 802.3af/at/bt): 給電機能(15W~100Wのレンジ)
  • Link Aggregation(LACP, 802.3ad): 複数物理リンクの束ねによる帯域拡張と冗長化
  • Time-Sensitive Networking(TSN): 産業用途やAV伝送のための低遅延・時刻同期機能群(IEEE 802.1関連規格)

運用上のポイントとベストプラクティス

現場でEthernetを運用する際の注意点をいくつか挙げます。

  • 物理配線の品質と適合ケーブルカテゴリの確認(例:10GならCat6a以上)
  • MTUおよびジャンボフレームの整合性:全経路でサポートされていないと断片化やパフォーマンス問題が起きる
  • VLAN設計とブロードキャストドメインの管理:不要なブロードキャストを抑える
  • ループ防止(STP/RSTP/MSTP)の設定:冗長構成では必須
  • PoE電力予算管理:給電機器(PSE)の容量と受電機器(PD)の消費電力を把握
  • 監視とログ:sFlow/NetFlow/SNMP等でトラフィックと異常を可視化

用途の広がりと今後の展望

Ethernetは単なるLAN技術を越え、データセンター内部の高性能接続、キャリアのメトロ/コア網(Carrier Ethernet)、産業用イーサネット(産業制御)、AV伝送や自動車向けイーサネットまで適用領域を拡げています。速度面では数百Gbps〜Tbpsクラスの物理層開発が進んでおり、低遅延・高精度同期を実現するTSNなど新しいニーズに対応する規格も整備されています。

まとめ

Ethernetは歴史的に成熟しつつも、今なお進化を続ける技術です。基本概念であるフレームベースの転送、MACアドレスによる識別、物理層の多様性は変わりませんが、スピード、品質管理、電力供給、時刻同期などの面で多種多様な要求に応えるための拡張が行われています。ネットワーク設計や運用においては、物理配線・機器設定・プロトコル仕様の整合性を保つことが重要です。

参考文献